心と贈り物 18日目

「水族館?」


 今週に入って数日間、本人の用事で一緒に帰る機会の減っていた鈴音から定時後に会えないかとメッセージが届き、合流してからの開口一番が『水族館に行こう』だった。


「最近新しくオープンしたところなんだけど、ここから電車で三十分ほどの位置にあるから場所としてもちょうど良いし、水族館ってそんなに行く機会もないからどうかなって思って。あと……あの時のお礼もちゃんとしたいから」


 楽しそうに話しながら、スマホで撮った水族館のポスターを私に見せてくれる。

 彼女の言う通り場所も遠くはなく、オープン記念でイルカショーや餌やり体験などもしているので、遊びに行くにはちょうど良さそうだった。



 でも、それなら私以外でも……。



 言いかけて、スマホの奥から期待の眼差しを向ける鈴音と視線が重なりあう。

 さっきも『あの時のお礼』と話していたので、彼女なりにちゃんとしないと気が済まなさそうだった。

 


 気にしなくてもいいのに。



 口からそう発せられようとして、少し考えて喉の奥に引っ込んでいく。

 それが出来るならこんな提案をしてはいないだろうし、真面目な鈴音だから受け取るまで何かしらの形で贈り物とかしてきそうだった。


「……良いよ。行こうか」


 律儀な彼女に根負けした私は、優しく笑ってそう答える。その相手はといえば、私の返事を聞くや顔にすぐ満面の笑みを浮かべていた。


「それなら、平日に合わせて行きませんか? 休日よりかはゆっくりできると思うので」


 それを言われて、頭の中で有給の残り日数を計算してみる。

 …………。

 一日も使っていないから、問題なさそうだった。

 むしろ、この間工場長からそろそろ使ってよと言われたばかりだった。


「今はそんなに忙しくもないし、最近上司に有給使ってと言われたばかりだから日にちはそっちに合わせるよ」

「ありがとうございます」


 物事が順調に進んでウキウキな鈴音の姿に、一安心といわんばかりに胸の中で小さく息を吐いていた。



 正直に言ってしまうと、水族館自体にはあまり興味はなくて新規オープンと言われても乗り気になれてはいなかっただろう。

 けれど、鈴音と一緒ならどんな場所も楽しくなりそうで、彼女の傍にさえいられるのならそれ以外は何でもよかった。



 喜ぶ本人の隣で言えない想いを内に秘めながら、帰りの電車を二人並んで待っていた。

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