心と贈り物 17日目
定時を知らせるチャイムが会社のいたるところで鳴り響き、それに合わせて社員が次々と帰路に着いていく。その流れに乗るように、私も大型ビルに向かって歩き始めていた。
移動している間もネックレスや化粧品に財布、よくバーに行くからお酒などをプレゼントの候補として上げてみたけれど何処か納得がいかず、結局全ての提案を取り下げるはめになっていた。
優しい彼女だから、きっと何を渡しても素直に受け取ってくれそうだし『ありがとう』とも言ってくれるだろう。
けれど、それで本当に良いのかと問われるとすんなりと頷けない自分がいるのも確かだった。
渡したもので喜んでもらいたいから何度も選んでは悩んでいるけれど、何にも興味を持たない彼女が相手だとその難易度は少し高くなっていた。
あれこれ考えている間に雑貨店の入り口が姿を現わし、市内で一番賑わうお店は夕暮れ時になっていても客足が衰えるところを見せなかった。
「くよくよ考えても仕方ないよね」
さっきまで悩み続けていた自分に小さく喝をいれてから、今日もガラス戸を強く押して入っていくと、大きく開かれた店内が様々なお客様を迎えてくれている。
取り揃えている品数も豊富で、目を惹こうと掲げられた看板やポップの種類も様々であり、活気の集まる場所として相応しい光景だった。
それを何となしに眺めながら通り過ぎようとすると、その中の一つが私の視線を強く引き寄せる。
エレベーターのすぐ隣に掲げられているその広告は、往来する人の中でも視認できるほどに大きく貼り付けられていた。
そこには、新しくオープンする水族館の案内が書かれていた。
私の住む県内ではこういった施設が建てられることは滅多に起きず、今ある水族館も場所が県境だったりして行く機会も限られている。
しかし、今回の場所は電車で三十分ほどなのでそう遠くはなく、見に行くには絶好のタイミングだった。
それと一緒に、脳裏には三咲が優しく微笑んでいる姿が映し出される。
これを三咲と行ったら、思い出ぐらいにはなってくれるかな。
心の中の私がそう囁いた時には、人の流れをかき分けて広告の前に移動していた。
そしてすぐにスマホを取り出して、その広告を写真で収める。
これで彼女が喜んでくれるかは分からないし、興味を抱いてくれるかも正直不明ではあった。
けれど、このことが少しでも心に残ってくれるのなら——。
大きく掲げられているポスターをもう一度よく確認してから、スマホを大事そうに握りしめる。
今の私には、これが一番の有力候補になっていた。
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