点と線 12日目
今日の仕事も滞りなく進み、定時を迎えたチャイムが鳴ると社員のほとんどが帰り支度を始める。私も報告書の提出が終わり、長かったデスクワークで固まった身体を大きく伸ばしてほぐしていた。
「今日もお疲れ様」
「お疲れ様です、野中さん」
「明日も出勤になるだなんて、色々と災難ね」
次々と先輩たちが帰路に着くなか、野中さんは明日も出勤になった私の様子を窺いに席へ立ち寄ってくれていた。
「半日だけなので大丈夫ですよ」
気にかけてくれる野中さんに、小さくガッツポーズを作って問題ないことをアピールしてみせる。けれど、それだけでは先輩の心配性は収まりそうになかった。
本来なら明日は全員お休みなのだが、お客様の一人が明日でないとどうしても都合が付かないという理由から私だけ休日出勤することになってしまっていた。
幸い午前中だけで終わる業務量しかないのと、その分の給料とお休みはもらえるのでそんなに気にするようなことでもなかった。
「……何かあったらすぐ連絡してよ。飛んで来るから」
入社してからずっと私の面倒を見てくれる野中さんはこういう時でも一声かけてくれて、会社を出る間際までこちらに不安げな表情を向けていた。
その先輩を見送れば社内に残っているのは私と部長ぐらいしかおらず、賑やかだった職場も一気に静まり返っていた。
その中で、明日の準備のために私はもう少しパソコンと向き合う。
それと一緒に、脇に置いていたスマホの画面を覗きみる。
昨日送ったメッセージにはまた既読がつかず、どれだけの仕事をしているのか分からないことが余計にやきもきさせてしまい、今の私にはこっちが気がかりでしかなかった。
私と三ヶ島さんは仕事も立場も違うのだから、することだって当然違ってくる。
だから、無理に返事とはしなくてもいいしそこまでして合わせてほしいとも思わない。
ただ、昨日の今日でまた同じことが起きているから、これからどんどん忙しくなってこんなことが続くと思うと、少し心配にもなっていた。
「無理してないといいけれど……」
画面の向こうで今も懸命に働いている三ヶ島さんに、ぽつりとそう呟く。
彼女と知り会ってからもうすぐ一週間が経とうとするけれど、まだまだ知らないことの方が多い。無理に聞き出すのは流石に遠慮しているけれど、こういう時に今どうしているのかの想像もつかないのが少しもどかしくて、胸の奥から不安が徐々に膨らみはじめている。
しかし、私からはどうすることもできないので今は三ヶ島さんからの連絡を待つしかなかった。
オレンジ色に染まる空から漏れる光を受けながら、もう少しだけ労働に従事する。
私たちの空いた距離を埋めるのには、まだまだ時間がかかりそうだった。
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