出会いと再会 6日目
朝目が覚めて、部屋の掛け時計が会社の始業時間を差していることに一瞬目を見開くが、今日はお休みなのを思い出してほっと胸を撫で下ろす。
そのままベッドから起き上がり、カーテンを開いて日の光りを受けながら大きく伸びをする。平日はこんなことをしている暇はなく、家事や出勤準備で時間に追われるから朝日を浴びる時間が新鮮だった。
次第に目も部屋をはっきりと映すようになり、頭もしっかりと起きてきたのでパジャマ姿のまま台所へ足を進ませていく。
その途中、染み付いた習慣でベッドに置き去りにしているスマホを手に取って、それをまじまじと眺める。
中に入っているトークアプリには、昨日新しい連絡先が追加されていた。
* * *
あれから私と三ヶ島さんは別れたつもりだったのだが、どうやら帰る方向が同じだったみたいでもう少しだけ隣り合わせになり電車に揺られていた。
しかし、いざ話をしてみようにも何から切り出していいのか分からず、お互いに黙ったまま外の景色を眺め続けている。
そんな雰囲気の中、車内のアナウンスはとうとう私が降りる駅を読み上げていた。
「次、降りないと……」
「そっか。そう、なんだね……」
もうじき離れることを知ると、余計にぎこちなくなってしまい気まずい空気になっていく。
何か、話さないと。
「あの」
早る気持ちに口が先に動いてしまい、三ヶ島さんに声をかける。隣の彼女は何かと思って、こちらの様子を窺っていた。
「もしよければ、連絡先を教えてもらってもよろしいですか? やっぱり、ちゃんとお礼がしたいので」
お礼がしたい気持ちがあるのは事実だけれど、いきなり連絡先を聞くのは流石にまずかったかもしれない。私の話に少しキョトンとしていた。
言ってしまった以上、後に引き返すことも出来ず一人緊張で硬直したまま立ちつくすはめになっていた。
内容を噛みしめるようにしばし黙り込んで考えていた三ヶ島さんだったが、その後すぐに表情が崩れてスマホを取り出してくれる。
「私で良ければ」
朗らかな顔に安心して、私もスマホを取り出す。
こうして一つ、お互いの連絡先を知ることができたのだった。
* * *
それから数時間経って朝を迎えた今、緊張した面持ちでアプリを起動していた。
初めて会った人に連絡先まで聞き出すなんてしたことがないので、三ヶ島さんのトーク画面で何て打とうか悩み、ずっと指がぐるぐる回りだしている。
それから文面を考えるのに二十分以上迷い、何にしようかと決めかねていたところへ急に通知音が鳴り出す。
それと一緒に、トークの画面には三ヶ島さんから『おはよう』と挨拶が届いていた。
相手から通知がきたのが嬉しくて、心が暖かくなっていく。
あの時、勇気を出して話しかけてよかった……。
踊り出す心を落ち着かせながら私も挨拶でメッセージを返すと、すぐに返信が来たのでまたその内容に言葉を繋げていく。
普段なら何でもない休日が幕を開けるのだけれど、今日は朝から賑やかになりそうだった。
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