出会いと再会 7日目
ズボンのポケットに閉まっているスマホから、アプリの通知が響いてくる。取り出してみると、ついこの間知り合った森野さんからのメッセージがまた新しく届いていた。
それを確認するために画面を眺めていると、機械的な人生の中で現れた彼女の顔が浮かんできてしまい、思わず口角が上がっていく。
「何だか嬉しそうね、三咲」
カウンターの下で隠すように見ていたのを、目の前にいるバーのマスターがからかうように尋ねてくる。何かを期待しているのか、彼女はにこにこしながら興味津々な眼差しを向けていた。
「……この間知り合った友達からきただけですよ」
淡々と答えるけれど、他人に大した交友を持たない私の反応が珍しいのかマスターさんは表情を変えず楽しげにこちらを見ている。
そのリアクションに小さく息を吐いてから、森野さんから来た雑談メッセージに目を通していた。
* * *
金曜日に再会した時は本当に驚きで、まさかこんなに早く姿を見る日が来るとは思ってもいなかった。なので、心の準備なんて当然していなかったので実は内心ではかなり焦っていた。
お礼の言葉もそこそこに受けたところで一度別れようと改札をくぐったのだが、後になって彼女と同じ方向に帰ることを思い出し、案の定数十分もしないうちにまた遭遇してしまうことになる。
それからは変に先に帰ろうとしたのを気にして話す言葉が浮かばず、ずっと沈黙が続いていたのだが、本当の別れ際に森野さんから連絡先を交換しようと提案してくれて、それ以来今でもやり取りが続くメル友のような間柄になっていた。
* * *
森野さんはよく何でもないことでも色々メッセージを送ってくれて、ついさっき来たのも晩御飯が上手に出来たという至って日常的なことでしかない。
でも、こんなやり取りをする相手すらろくにいなかった私にとっては嬉しくて、彼女の話すこと全てが真新しいことのように感じてしまい連絡が来るのが楽しみになっていた。
届いた森野さんの手料理の写真にコメントを返そうと考えていると、彼女の方から新しくメッセージが届く。
『明日から、また頑張りましょうね!』
きっと、彼女からしたら何気なく送った一言なのだろうけれど、その言葉に私の心はしんみりしていた。
まだまだ彼女については知らないことの方が多くて、性格だってちゃんと把握しているわけじゃない。だから、まだ友達と呼ぶのも相応しいのか怪しいところは残ってはいる。
でも、気になる人と再会してこうして繋がりを得られたことに、これからどんな人なのか知っていける楽しみも増えて、明日からの日々が少しずつ変わっていくような気がしていた。
明日も、また会えるといいな。
それからしばらくはずっとニコニコしていたみたいで、マスターがラストオーダーを取りに来るまで私は自分の世界に入り浸っていたままのようだった。
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