出会いと再会 3日目
開け放たれた大戸から差し込むオレンジ色の光を背に浴びながら、今日も大きな段ボールの商品をフォークリフトを使ってトラックに積み込んでいく。
走る度にタイヤが擦れる音の他に、遠くでは機械が一定の間隔でプレスしたりベルトコンベアが稼働したりと何かと騒がしさには事欠かない職場ではあるが、これも既に生活の一部になっていた。
「三ヶ島さん、今日もお疲れ」
最後の荷物を積んでリフトを所定の位置に戻したところに、老齢の男性に声をかけられる。
彼はこの食品工場の工場長の人で、私の上司に当たる人でもあった。
「お疲れ様です」
ヘルメットを外して、工場長に会釈をして当たり障りのない態度で返す。
私がこの職場で唯一の女性なのを気にしてか、彼は時々こうして様子を見に来てくれていた。歳が二回り以上も離れているので、どちらかといえば同じ職場に来た娘の心配をしている父親の感覚に近いのかもしれない。
「ここに来てからもう一年が経つけど、仕事はどう?」
「えぇ。特に問題もなく過ごせています」
様子を窺ってくる工場長に、私は淡々と答える。
実際、周りの人はみんな優しく手当や融通も効かしてくれるので困っていることなんて特にはない。
変わったこととすれば……。
「どうかしたかい?」
少ししかめっ面になったのを見られてしまい、垂れている眉がさらにハの字になる。
「大丈夫です」
「……そうかい。それなら良いけど、無理はしちゃダメだよ」
無理やりに口角を上げて不器用に微笑んでみる。相変わらず心配そうな顔はしているけどそれ以上踏み込んでくることはなく、その場で踵を返して事務所へと戻っていった。
その背中を見送りながら、ふぅっと息を吐く。
変わったこととすれば、前に会ったあの女性のことが頭に浮かんでくることぐらいだった。
あの日は早めに積まないといけない荷物があったのから、一本早い電車に乗るために早めに家を出た。そしたら、たまたま目の前にいたスーツ姿の女性の鞄から定期が落ちたので、そのまま届けて出勤した。
たったそれだけのことなのに、あの日以降その女性が夢にも出てきてしまう。
自分より小柄だからなのか、それとも瞳や輪郭がやや丸みを帯びた可愛い顔をしていたからなのか。
考えれば考えるほど変に意識してしまい、行き帰りの電車の中でもついその姿を探してしまう。
しかし、未だに電車内で遭遇したことはなかった。
お互い生活リズムが違うのだから、当然といえばそうなのだろう。
でも、もう一度会えたら——私はなんて言うのだろう。
一人悶々と考えているところに、喉太いお疲れの声が次々とかかり、現実に引き戻されていく。
急いで私も帰り支度を済ませて、彼らの後ろを追うように家路についていた。
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