3-14 危うさと三人の美女



「それで、可奈がここにいるのはなんでなの?」


「雪音先輩に呼ばれたからよ」


「ここは雪音お姉ちゃんの部屋ではないけど」


取り敢えず俺たちは話し合うことになり、それぞれ椅子へと座り神奈へと舞香が質問をする。きっとこの前のプールの事もあり舞香が少しキレ気味に神奈にくってかかる。何かを察したのか神奈は呆れ口調で


「・・・はぁ。まず勘違いしないでほしいのだけど、私は俊介には何の興味もないから」


「え、俊介?」


「え・・・」


フォローしたはずが何気なく発した俺の呼び方に舞香と絵梨花ちゃんが反応する。


俺らが同級生と知らない二人にとってみれば二人の関係に謎が深まるばかりだろう。


「えーっと、桃宮さんは俺と雪音姉さんと同じ中学でバスケ部だったんだ。

 俺も今日気づいたけど・・・」


「な、なんですって・・・」


「ま、また!?・・・ヘー。ソウナンダー」


そりゃ雪音に続いて知り合いと繋がりがあったら驚くよな。

いや、絵梨花ちゃん。動揺を隠したいのはわかるがロボットみたいになってるよ・・・


そんなことを思っていると神奈が真剣な顔で口を開いた。


「・・・ていうかそんなことは今重要ではないわ。さっきのあれは何?舞香も絵里さんもまるで・・・俊介に恋してるみたいな・・・」


「「・・・・・・」」


うっ・・・やはり勘繰られていたか。

さっきの二人の態度をうまく誤魔化すのは俺には無理だ。


いや、誤魔化すんじゃないだろ、俺は決めたんだ。こんな俺に真剣に向き合ってくれた舞香も絵梨花ちゃんもそして雪音も、俺を犠牲にしてでも守ってみせると!



「いや、それは俺が・・・


「えぇ、そうよ」 「うん。そうだよ」


「・・・え」


・・・・・・この人たち秒で肯定しやがった。俺の犠牲を覚悟した決心とはいったい。


神奈は二人の返事を聞いて思わず声を出し、顔は少し青ざめている。少し場を沈黙が包むと、彼女は意識を取り戻したかのように


「っ!? 正気なの!?

 ねぇ舞香、私たちはアイドルよ?恋愛をしてはダメなはずでしょ!?バレたらクビだよ!?舞香はアイドルになるために頑張ってきたじゃん!


 それなのに・・・こんなの矛盾してるよ!

 たとえ私がこのことを黙っていたとしても、完全には隠しきれる保証はないのよ!?」


「・・・ありがとう可奈。

 それでも、私はもう諦め切れないの。

 何が一番大切か分かった今、俊介が隣にいない生活は考えられない」


「もう、なんで・・・。え、絵里さんは?

 事務所が親御さんが経営してるからって、世間に公表していることを覆す事はできないはずよ!そんなことしたらクビとはいかなくても、これからの芸能生活に関わってくるかもしれないじゃん!」


「私の心配もしてくれるのね、ありがとう。

 でも、私だって覚悟の上だよ。私は俊くんと一緒にいるために女優になったんだもん。その為に辞めろと言われるなら、すぐにでも首を縦にふるわ」


「・・・うぅ、おかしい、おかしいですよぉ」


神奈が今にも泣き出しそうなくらい弱々しく唸る。


二人ともいつもおちゃらけてばかりだけど、

こんな覚悟を持っていたなんて・・・


「・・・俊介は?

 あんたはこの二人を守れるの?

 一般人だからといってもあんたはこのままじゃ、これから必ず大ごとに巻き込まれるわよ。そんな覚悟あんたにあんの?怖くないの?私はあんたにそんな覚悟があるとは思わない!」


神奈は目にもう一度光を灯し、真剣な顔つきで俺の方へと振り返りそう問う。


「・・・そりゃあ、正直俺には荷が重いと思うし、怖いよ。でも俺もたくさん悩んだうえで3人と真剣に向き合うことを決めたんだ。

 俺がどうなったとしても3人を守るよ。」


「・・・え?さ、3人?」


神奈がゆっくり首を傾げる。


「あら?もしかしてなんか面白い事になってる?」


「しゅ、俊介?今の話は本当なのか?」


「小吉!・・・あぁ。」


リビングの入り口の方から声がしたと思えば、買い出しから帰ってきた雪音と小吉がいつのまにか立っていた。


「面白い事?・・・もしかして雪音先輩はこのことを全て知ってたんですか?」


「えぇ、知ってるわよ。

 だって私も二人と同じく俊に告ったもの」


「「・・・はい!?」」


神奈と小吉がお手本のようなシンクロリアクションをとる。

それにしても、この美女3人は肝が据わりすぎている。『美人』というのは肝の据わった人のことを指す言葉なのか?


「え?そんなに驚く?私が配信活動を始めたのだって、もう一度俊に会うためよ?

 そりゃあ感極まって告白くらいするわよ。

 ・・・まぁ、最初はちょっと怖気付いてたけど」


「え、雪音ちゃんもそうだったんだ!

 私も似たような理由〜」


「おじょ・・・絵梨花も?奇遇ね」


え?それは初耳だ。雪音までまさかそこまでしてくれていたとは・・・今度詳しく聞いてみよう。


というかさすがは女優だな。こんなシリアスな場面にいつも通りのほほんとしている。



「・・・もう!開いた口が塞がりませんよ!

 そ、そうだ!小吉くんは?小吉くんはこんな事ダメだと思うわよね!」


困りきった神奈は小吉に助け舟を求める。


「あ、俺!?・・・んー、正直なところ驚いているけど。俺はどんなことがあっても俊介の味方でいたいって考えは変わる事はないな。

 それに俺らが止めたとして解決する話じゃないとは思うよ。まぁ、俊介はあとで隠してることも全部話してもらうからな!」


「小吉・・・!ありがとう」


「何をいまさら、当たり前だろー?」


本当にお前ってやつは・・・

やっぱり俺はお前が大好きだ。


「・・・むー。」


神奈が唸り、プルプルしながら震えている。


なんか神奈には悪い事をしたな・・・

きっと彼女は舞香や絵梨花ちゃん、雪音のことや自分のグループ、ファンの人たちの事を第一に考えて俺たちの短慮な行為を諌めようとしてくれただろうに・・・


だけど、俺はもう3人の気持ちも無下にしたくないんだ。たとえこの感情が若気の至りだと言われても。そのためにはまずは、神奈ちゃんに認めてもらうしかない。


自分の事より他人を思う気持ちを持つ優しい彼女なら信じてくれる筈だ。


「なぁ、神奈ちゃん俺らは・・・


「ずるい。ずるいわ蒼 俊介・・・

 まさかお近づきになるだけじゃなく、既に美女3人を侍らせてハーレム状態だなんて」


ん?

なんか今小声で彼女の口から変なことが聞こえたような。気のせい・・・ではないな。


「・・・くっ!今日のところはこれくらいにしておくわ。だけど、私はまだ諦めないわよ。

 蒼 俊介!アンタを倒して奪い取る!そのポジションを!!!!!」


「あ、ちょ、可奈ー!?」


神奈は涙目で俺にそう言うと、うわーんと泣きながら部屋からバタバタと出て行った。


・・・一応さっきの諌めようどうこうの話は前言撤回しておこう。


ふぅ。とりあえずは一件落着・・・なのか?

だが、これからこんなことがまた起こるかもしれない。俺たちは自らが置かれた状況の危うさについて改めて自覚させられたのだった。



・・・いや、あの3人は全く狼狽うろたえてなかったわ。いい加減に少しは危機感をもってくれよ・・・



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次回投稿は 8/6 (金) 21:00→22:00です。


【新作】

『ずっと推していたアイドルが引退してお隣さんになったが、俺は彼女にめちゃくちゃ嫌われている』


連載開始しました!お時間がございましたらこちらもよろしくお願いします!

↓小説URL

https://kakuyomu.jp/works/16816452221427664579


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