2-13 選択と義務
「ふぅ。」
俺は彼女より一足先にお風呂から上がった。
キスの後二人とも意識しすぎて、会話もままならなかったが、そりゃそうだよな。あれで平常心で話せる人がいたら、それはもう悟りきってるってもんだよ。
「くーっ。気持ちいい!」
俺はお風呂上がりに冷気が体を冷やすのが大好きだ。ズボンをはき上半身裸のまま窓をあけ大自然の風を体でうけていると
「ただいまーって、なにしてんのさ・・・」
「お、おかえり。
お風呂上がりに涼んでたんだよ」
「ふーん。俊介がこっちで入るんなら私もこっちにすればよかった。」
「な!?何言ってんだよ!
一緒に入るわけないだろ?」
「まぁ、それもそっか」
「あー気持ちよかったぁ♪」
お風呂に一緒に入るわけないと会話していたら、お風呂場のドアが開きポカポカしている絵梨花ちゃんが出てきた。
そう・・・タイミングは最悪だ。
「・・・あれ?お兄ちゃん?
もしかして絵梨花センパイとはいったの?」
やばい妹の目が
しかもお兄ちゃん呼びになってるし。
舞香の後ろに虎が見えるような気もする・・・
絵梨花ちゃんはキョロキョロと俺たちを見まわし、事態を瞬時に把握すると
「俊くん、お風呂もキスも気持ちよかったね!また一緒に入ろうねー♪」
と、俺に言いながら舞香をチラチラと見る。
エ、エリカサーン。
今はそんなこと上機嫌に言っちゃだめよー。
「・・・俊介ぇ!!!
今から私とも一緒にお風呂入りなさいよ!!!キスもするわよ!!!」
「いやいやいや!
するわけないでしょうが!」
「ずるいずるいずるいー!
私も一緒に入りたかった・・・」
今にも泣きそうな顔をする舞香。
この顔に俺は弱いんだよ・・・
「うっ。
な、なら帰ってから、な?」
「俊くん!?」
「いいの!?
約束したからね!ふふーん♪」
そういって得意気に鼻歌を歌いながら絵梨花ちゃんに対してドヤ顔を決め込む舞香。
「俊くんそれはずるいよ・・・
じゃあ、私も絶対またいいよね?」
ええ・・・
めちゃくちゃ目をうるうるさせて、
上目遣いでお願いする絵梨花ちゃん。
「あ、あぁ。」
「ちょっと!アンタはもうはいったんだからいいでしょ!ちゃっかりキスだってして!」
「舞香ちゃんだって、今日したんでしょ!
抜け駆けはダメだよ!
まぁ、私は抱きついてしたけどね〜」
「何でアンタがそれを知ってんのよ!?
てか、お風呂で抱きついたですって!?
わ、私だっておんぶされながらしたもん!
とにかく!今日は私が俊介と一緒に寝るから、センパイはもう一つのベッドね!」
「それもダメー!ていうかおんぶされたの・・・いいなぁ。
じゃなくて!舞香ちゃんは家でいっぱい一緒に寝てるんでしょ!今日くらいは譲ってくれてもいいじゃん!」
「し、してないもん・・・
できるわけないでしょ・・・!」
キレたり恥ずかしがったり忙しい義妹と、
自慢したり羨ましがったり、これまた忙しい幼馴染。
ギャーギャーとかれこれ15分もいがみあってる。いつまで続くんだ・・・
うわ、もう21時になりそうじゃん。
いくら点呼を済ませたとはいえ、もうすぐ寝ないと明日が辛い。まぁ、ご飯食べて帰るだけだけど。
「あのーとりあえず寝る準備しませんか?」
「「 いいよ!? 」」
俺がそう問いかけると、タイミングぴったりで同意を得られた。
やっぱり君たちなんだかんだ仲いいよね!?
「あとさ、ベッドくっつけて三人で寝ない?
それなら二人とも大丈夫でしょ?」
「むー。
ちょっと不本意だけど私はいいよ。
その代わり、帰ったら俊くん私の部屋に泊まりにきてね!久しぶりにゲームしよ?」
「ゲーム!いいよ!」
「えへへ。
なら私はそれでいいよ♪」
絵梨花ちゃんは笑顔で納得してくれた。
「・・・なら、私は今度プールに行ってくれるならいいよ?」
「プール?もう秋だぞ?」
「私たちのグループがトレーニングで使う温水プールがあるの。家族を休日に連れてくる人もいるから、それに行ってくれるなら!」
「んー。それなら全然いいぞ」
「えーずるいー。」
「やったー!
アンタはもっとずるい事してんだからいいでしょ!」
まぁ、とにかく二人とも納得してくれてよかった。寝る準備をするために俺は洗面所へと向かった。
歯磨きをしていると携帯が振動し、なにか通知がきたようだ。確認すると小吉からのメッセージだった。見てみると
『俊介!
雪音先輩の新しい動画が久しぶりに上がってる!今回もまじでかわいいぞ〜!』
という文と動画につながるURLが送られてきていた。URLを押すと配信サイトでにこやかに話す一人の薄い青髪の美女がうつしだされた。
この女性はYukiという配信者で、一昨年ごろから配信やコスプレなどの活動を始め、今では配信サイトでのチャンネル登録者数も日本で五本の指に入るくらい人気な配信者だ。
その圧倒的な人気と、一般人離れした美貌でメディアにも引っ張りだこな彼女を、俺と小吉は配信活動を始めた当初からずっと応援している。
Yuki いや
部の中でも特にこの三人は仲が良かった。
俺が怪我した時も退院するまで毎日お見舞いに来てくれたくらいだ。
だが、彼女は俺たちが二年生になると同時に引っ越してしまい、それから会うことはなくなってしまった。
それから少しして、小吉が雪音先輩に似た Yuki を偶然発見してから俺たちは陰ながら彼女のファンとなり応援しているのだ。
友人の成功は嬉しいものだよな。
「ん?俊くん何みてるの?」
Yukiの動画を見ていると、後ろからひょっこりと携帯の画面を覗き込む絵梨花ちゃん。
「あ!Yukiちゃんだ!かわいいよね。
けどさー俊くん。こんな近くに美女がいるのに他の女の子に浮気ですかー?」
目を細めて顔をぐいっと近づける絵梨花ちゃん
「い、いやそんなつもりじゃ・・・」
「ふふ、嘘だよ!
ほら、早く寝よ!」
そういうと絵梨花ちゃんに腕を引っ張られ、ベッドに連れていかれる。
「二人とも何してたの?」
「俊くんが私たち以外の女の子に浮気してたの」
「はぁ!?誰よソイツ!」
「ったく、違うって・・・
ほら二人とも寝るぞー」
電気を消して布団を被るとすぐに、
右腕と左腕に温かく、そして柔らかい感触が伝わる。二人とも俺の腕に抱きついているのだ。
・・・この状態で寝られるはずがないじゃん
そんな俺の悶々とした感情はよそに、
二人とも疲れたのかすぐに寝てしまった。
それにしても、本当に今日は色々あったな。
二人の俺に対する過去の想いと現在の想いを聞く事ができ、改めて感じた。
もし付き合うことができるとして、
俺はこの二人から一人を選ぶ事ができるのだろうか・・・
選ばないといけない。
それが俺が出来る彼女達に対する精一杯の誠意であり、義務だ。
「俊くん・・・」
「俊介・・・」
「「 大好き 」」
二人がぼそっと同じくらいのタイミングでそう言った。顔を覗くと二人とも寝ている。
寝言のタイミングも言葉も一緒ってもう仲いいでしょ!そうでしょ!
「・・・俺もだよ」
それからやはり寝ることはできなかったが、あれこれ考えていると、すぐに朝日が部屋へと差し込んできた。
朝日に照らされた彼女達の寝顔は、
まるで絵画のように幻想的で一晩中考えこんだ悩みを上書きするくらい記憶に深く刻まれるものだった ————
————————————————————
次話より第3章スタートです!
お時間がありましたら、是非御一読お願いします!
また見たい!面白い!と思っていただけたら是非評価、お気に入り、レビュー、ブックマーク等をしていただけると助かります!創作意欲がさらに高まります!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます