三章 義姉とライバル

3-1 再婚と再会



林間学校も無事に終わり、今日はその振替休日で俺は休みだった。


現在の時刻は朝8時、そんな早い時刻に俺は完全に目を覚まし、朝ごはんを食べていた。


「俊介が休日のこの時間に起きてるの珍しいね。なんかあんの?」


食べながら舞香がそう聞いてくる。


「あぁ、前に母さんからメールが来てたじゃん。その相談を今日にしてくれって、しかも11時集合で」


「なるほど、それにしても7時は早くない?」


「あの人、駅前のプリン買ってこないと不機嫌になるんだよ・・・だから寄っていこうかなって」


我が実母 瀬川佳奈美は無類のプリン好きであり、特に駅前にあるプリン専門店のものが大好きだ。


俺が一度そこのプリンを持っていったらハマったらしく、それから持ってこなかったり違うものを持っていったら不機嫌になる。

なんとも幼稚で頑固なものだ。


「ふーん。俊介のお母さんプリン好きなんだー。今度私も会ってみたいかも!」


「え・・・なんで?」


「べ、別にいいでしょ!」


「てか、今日仕事だよな。

 いつももっと早くない?大丈夫なのか?」


「うん、今日は・・・


ピーンポーン


舞香が何か言おうとするとインターホンが鳴った。

俺が確認しに行くと、モニターには絵梨花ちゃんが映っていた。


「おはよう絵梨花ちゃん。今日はどうしたの?」


「おはよう俊くん!このままお部屋に上がりたいところだけど、

 今日は舞香ちゃんに用があってきたの!」


「え?舞香に?」


絵梨花ちゃんが舞香に用事があるなんて初めてのことだった。


「同じドラマに出演してるのよ。

 今日はマネージャーさんが他の子についてていないから、絵梨花さんのところが送ってくれるの。」


後ろからいつの間に準備したのか、舞香が支度をして出てくる。


なるほど、最近忙しくしてると思ったらドラマ撮影だったのか。ここ最近二人が仲良くなったのもそれのおかげかな。


「それじゃあ俊介、行ってくるね!

 帰りは21時くらいになりそうだからご飯先に食べててね!」


「何そのやりとり!

 新婚さんみたいでズルい!

 やっぱり私も俊くんの部屋に住みたい〜」


それはダメ と言いながら舞香は絵梨花ちゃんを引っ張っていく。


さて、指定されたカフェまで少しかかるし、俺ももうすぐ準備をはじめるか。







俺は母に指定されたカフェまで着いた。

時計を見ると11時30分をまわっている。

遅い。遅すぎるぞ!


「俊介ー、待ったー?」


後ろから待たせた事を悪びれもしていないような声をだし、背中を叩かれる。


「待ったよ。

 約束は11時だったろ、今もう半だよ!」


「あはは、ここら辺の道がわかりにくくてね。ごめんなさーい」


母さんは軽くごめんなさいポーズをして、向かいの席へと座る。


「ったく。で、相談って?」


「主題に入るのが相変わらず早いわね。

 一体誰に似たのかしら・・・」


「確実に父さんだね。」


「確実だね」


そう言って笑い合う。

母さんとはいつも友達のようなノリで話すことができ、おちゃらけたりして話す事が常だ。だからこそ、そんな母さんに相談なんて堅苦しい事を言われたのは初めてで、少し緊張している。


「それでね、とりあえず報告なんだけど、

 お母さん再婚することになりました!」


「・・・へ?」


いきなりの衝撃発表にのんでいたコーヒーが少しこぼれた。唐突にすごい球が飛んできたな。しかもこんな大事なことをとりあえずで言う母さんは相変わらずだよ・・・


「ちょ、ちょっと、ほらこれで拭きなさい」


「あ、ありがと」


母さんから貰ったハンカチでこぼれたコーヒーを拭う。


「・・・え?まじ?」


「えぇ、私もこの人ならいいかなーって思う人ができたのよ」


「それはおめでとうなんだけど、それが相談なの?まさか、相手がヤバい人だったとか?」


「あー違う違う。貴方に相談なのはね、彼のお子さんの事なのよ。」


「ん?再婚相手のお子さん?」


「そう。女の子なんだけどね。

 何度かお会いしてるんだけど、とっても可愛くてねー、それが原因って言ったらなんだけどお家の方に頻繁に変な手紙とかが来るんだって」


「うわ・・・ストーカーってこと?」


舞香にしてもその女の子にしても、美人ってのはやはり楽しいだけじゃないんだな・・・


「うん。

 それでね、お父さんや私に迷惑かけたくないから、家を出て一人暮らしがしたいって言ってるんだけど・・・」


「なるほど、今の状態で一人暮らしは母さんもその子のお父さんも怖いってこと?」


「そう!そういう事!

 さすが私の子ね!賢い!」


「でもそれは、一人暮らしさせない事が1番の解決策なんじゃない?」


「それはそうだけど、彼女の決意がとっても硬いのよ。彼も心配だけど尊重したいって言ってるし・・・」


なるほど、その子にはやると言ったらやる凄みがあるのか。コーヒーを飲みながら、どこぞのギャングの声が脳内にリピートされる。


「でさー、俊介への相談なんだけど」


「ん?」


「俊介ってさ一人暮らしだったわよね。」


「・・・ん?」



・・・嫌な予感しかしない。

俺はここ最近でようやく学んだのだ。


こうやっておそるおそる相手の出方をうかがってくる人は、厄介な事しか持ち込まないということを・・・



「その子と一緒に住んであげれない?」



「・・・はい!?

 ムリだよムリ!

 何で俺が見ず知らずの人と暮らすの!?」


「いやー俊介なら私もよく知ってるし、

 彼も安心だって言っててさ。」


「と、とにかく!俺は無理だから!」


やっぱり厄介な事だった・・・

確かに可哀想だけど、今は舞香も住んでるし隣には絵梨花ちゃんもいる。


彼女らの秘密がバレる可能性を考えると、その提案はそうやすやすとは飲み込めない。


「まぁ、そういうと思ったわ」


「え?」


あの頑固な母さんがあっさり・・・引いた?


おかしな事が起こったと呆気にとられていると、母さんは変な事を言った

 


「なら、お隣さんとして見守ってあげて?」



「・・・へ?」


お、お隣さん?


「前に私に住所送ってきたでしょう。

それでそのマンション調べたらさ、俊介の部屋の隣がまだ空いててね!

 すぐに契約しちゃった♡」


「いや、契約しちゃった♡じゃないわ!

 何が相談だよ!もう事後じゃねーか!」


「1度大きな事をいって、それより小さな事を言ったら受け入れられやすいみたいなのあるじゃない?それよそれー」


「ドア・イン・ザ・フェイスは事後に使う事じゃない!」


「あはは、さすが俊介。二人とも喜んでたわよ?良かったじゃないの!


 それでさ突然で悪いんだけど、あとでその子が来る事になってるから挨拶でもしてくれない?」


「知ってたけど、俺の決定権はないわけね…

 あと、絶対悪いって思ってないだろ!」


「そんなことないって、今度なんか埋め合わせするからさー!お願いしますよ!愛する息子様!」


頭を下げて両手を合わせ、

精一杯俺にお願いする母。


「はぁ・・・まぁ、いいよ。

 けど俺、特に何もできないよ?

 ただのお隣さんなんだし」


「それで充分よ。

 相談にのってあげれる人が近くにいたら彼女も安心だし、私たちにもすぐに情報がくるようになるからね。


 けど、俊介ー可愛いからって恋しちゃダメよ?私としてはいいと思うんだけど、彼女のお仕事の事もあるし・・・」


「しないわ!

 って、ん?お仕事?」


「うん。実は彼女・・・ん?あら、もうそんな時間?

 こっちよ、こっち!」


母さんが何かに気づいたのか、俺の後方に向けて手招きをする。きっとその女の子が来たのだろうな。


「少し遅れてしまい、申し訳ありません。

 それと、この度はこんな突然の申し出を受け入れてくれてありがとう・・・」


「いやいや、全然大丈夫ですよ・・・」


俺はこちらへ来た母さんの義娘に向けて挨拶しようと、彼女の方を向くが俺たちはお互いの顔を見ると次の言葉が出てこなかった。


二人とも状況をすぐに把握することは出来なかったのだ。だって



「あれ?・・・もしかして、俊介くん?」


「なんで雪音さんがここに・・・?」



母の義娘として現れた人物は俺の中学時代のバスケ部マネージャーであり、超人気配信者 Yuki こと 新藤 雪音 その人だったから ———



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