2-4 寝言と幸せ





「・・・んんっー!」


カーテンの隙間から差し込む日光により、

私は目覚めた。背伸びをし、携帯を確認するとどうやら設定した目覚ましの15分前に起きてしまったようだ。


私の今いる部屋は、

元々は俊介がつかっていた寝室だ。

正直、毎度毎度遊びに来るたびにベッドを奪ってしまうのは気が引けたが、昔の私はここで俊介の匂いに包まれながら寝るのが至福のひと時だった。


・・・いや、自分で言っててさすがにきもいな。アイドルが言うことじゃないぞ本当に。


と、とにかく!

この部屋に住むことになってからは

私がこのベッドを貰ったが、それに伴った弊害もあるわけで、ずっと私が寝てるから俊介の匂いが消えてきたわけで。

正直、欲求不満なわけで・・・

そんな理由もあってか、

こんな変態じみた思考をしてしまうわけです。


とにかく!私が言いたいのは、

い、一緒に寝たいと言うことだ。

別に、エッチな意味でじゃないから!


私はただ、たまに寝付けない時におしゃべりしたり、俊介が先に寝た時に寝顔を見たり、

俊介に抱き合って匂いを堪能したり・・・

ね、寝顔にキスを・・・もう!違うから!


だめだ。

恋は人をダメにするというが

どうやら本当らしい・・・


ていうか、妄想を繰り広げていたら

結局15分の早起きは無駄となった。

俊介を起こして、学校に行く準備をしよう。


「俊介ー。

 おきて、朝よ。」


「スーッ。スーッ。」


ふふ。ぐっすり寝てる。

寝顔も可愛い・・・

この天使のような寝顔はずっと見続けても飽きない自信しかない。昨日は私より遅く帰ってきて、顔も少し浮かない感じだったけど、

寝顔は幸せそうでなによりだ。


「おーい。起きなさーい」


ほっぺをツンツンしてみる。

プニプニだ。かわいい!


「・・・か」


「ん?」


俊介が寝言いってる。ほんとかわいいなぁ。


「まいか・・・」


「へ!?」


え?

これってもしかして!もしかして!

もしかしなくても!?

俊介の夢に私がでてきてる!?

う、うれしい・・・

何でこんな些細なことで喜べるのだろう。

つくづく単純な女だ私は。


「はーい。

 俊介の愛しの舞香はここだよ。」


普段絶対恥ずかしくて言えないことを言ってみた。そうだよ。浮かれてるんだよ悪いか!


「・・・んー」


「・・・へ?」


ん?今どうなってる。

私今、どうなってる?

俊介に近づいて顔を覗き込んでたら、

引き寄せられてがっしりと抱きつかれてるんだが・・・


え?

エ?

ナニコノ神イベント・・・


到底処理できないであろう事が現実でおき、

私の頭をショートしてしまったようだ。


「ま、いか」


「は、はい・・・」


も、も、もしかしてこれは!!!


「好きだ・・・」


きーーーーたーーーーー!!!!!!


蒼舞香16歳。14歳から斉藤舞香として

アイドル活動してきて、はや2年。

何千、何万回と聞いてきた

好きという言葉をようやく私は、

本来の意味で好きになれそうです。


ありがとう神様。ありがとう世界。


てか、これもうキスしていいよね!?

この距離でダメなわけないよね!?

夢で出てきてダメとかありえないよね!!!


「わ、私も・・・」


「好きだ・・・絵梨花ちゃん・・・」


「・・・は?」


こいつ、今、絵梨花って言った?

言ったよねあの乳デカ女優の名前を!


「ど、ど、堂々と二股宣言

 してんじゃねーよ!!!!!」


「ごふっ!!」


私の鉄拳が俊介のお腹に突き刺さる。

しばらく悶えていたが、しーらないっと。





「どうしたんだよ舞香。

 俺なんかした?」


「知らなーい」  


「何で怒ってんだよ・・・」


「怒ってなーい」


「もしかして、昨日絵梨花ちゃんと

 出かけたことが関係してんのか?」


「は?初耳なんだけど。」


「はい!?」


朝食を食べながら衝撃の事実が発覚した。

抜け駆けしてやがった、あの乳デカクソ婆!

ていうか俊介の昨日の悲しい顔は、

あいつが関わってるってこと?

なんか、無性に腹立ってきたんだけど。


「・・・さいよ。」


「ん?」


「私ともデートしなさいって

 言ってんのよ!この、ばかぁ!!!」


「ふげっ」


手元にあったクッションが

俊介の顔面に直撃する。

これに関しても絶対あやまらないからね!


「いったいなぁ。何すんだよ・・・」


「とにかく!今日、私仕事ないから!

 放課後あけといてよね!

 約束だから!絶対だから!」


「はいはい。わかったよ」


「えっ!やった!

 それじゃ、学校に早く行きましょ!」


はぁ。

遊ぶ約束をしたくらいでこんなに

喜べるなんて。

本当につくづく単純な女だな私は。

けど、事実この約束一つでさっきの事も全部

許せてしまえた自分がいた。


「てか、絵梨花ちゃんのやつじゃ

 ないとしたら、さっき何で怒ってたの?」


俊介が困り顔で聞いてくる。

私は少し間をあけて返す




「・・・そんなの決まってんじゃん。


 俊介が私に『』って言ったのを

 覚えてない事に、だよ?」


「!? えっ!? 本当!?」


「ふふっ。教えなーい!

 さ、早く行くわよ!」


「え、ちょ、早いって!」


「ねぇ、俊介?」


「・・・ん?」


「私も大好きだよ♡」


「っ!?!?」


そう言って私は俊介をおいて、

先に部屋を出る。


あードキドキした。

さっきの俊介、めちゃくちゃ顔赤くして狼狽うろたえてたな。

少しはやり返せたかな。

少しは・・・私のこと意識してくれたかな。


俊介を好きになってから、

言い表せないくらいの大きな幸せを感じると同時に、この先を見るのが怖いと感じる時もある。


だけど、一度この味を知ってしまったら

もう止まることはできない。

何があっても止まりたいとは、思わない。



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