2-5 お詫びと初めて
「え、あんなところにパン屋さんとかあったっけ?なんか外観はお洒落ね、今度いってみようよ!」
「おーほんとな。いいぞ行こっか」
「やった!」
舞香がうちに越してきてからは、
予定がない限りは登校を共にしている。
昨日はあれから少しあのまま休憩をして、
絵梨花ちゃんと共に各々の部屋へと帰った。
少し落ち着けたのか、別れる頃にはいつも通りの笑顔も見えるようになっていた。
それにしても1日で色々なことがあったな。
初めて放課後デート(疑似)をして、
不良に絡まれて、心境も変化して、
・・・キスも、した。
あの時は雰囲気に飲み込まれたというか、
そこまで重くは考えてはなかったが、よくよく考えてみたらやばすぎないか!?
時間が経つごとに考えてしまう。
そりゃ、意識してしまうだろ!
相手はあの絵梨花ちゃんだぞ!
ソワソワこえてガクガクに震えるわ!
でも、あのあと連絡をしたが未だに彼女からの返信はない。
なにかあったのだろうか・・・
もしかして、やっぱあんたの事好きだったのは気の迷いだったオチか?
うん。まぁ。うん。考えるのはやめよう。
「ねぇ!話聞いてないでしょ!」
舞香が顔を近づけてそう言う。
考え込みすぎて無視をしてしまっていたようだ。ていうか、もう学校ついてんじゃん。
朝からぼーっとしすぎだろ・・・
「ごめん、ぼーっとしてた。
もっかいお願いしてもいい?」
「はぁ、もういいわよ・・・
とにかく!放課後は私が予約したんだから
他の用事、特にあの女のとか受けないでよ?
じゃあ、私あっちだから。またね〜」
「わかってるよ。またな〜」
そう言って舞香は、手を振りながら一年の教室がある方へと向かった。
そんな義妹を見送っていると、後ろからいつもの衝撃が背中を襲う。
「いよっ色男!」
「ったく、いってぇな」
「よおよお俊介〜兄妹仲良く登校か?」
「おっす小吉。まぁな、そんなとこ」
「即答かよ羨ましいなおい・・・俺もあんな美少女な妹が欲しい人生だったぜ」
「今でこそ仲はいいけど、昔・・・いやつい最近までは女王と下僕のような関係だったぞ」
「な!?お前、アイドルからそんな扱いうけるとか、そんなの最高じゃねえか!
朝から自慢してんじゃねぇぞ!」
「はいはい。早よ行くぞーM吉ー」
「だれがM吉だ!」
毎度毎度の馬鹿話をしながら俺たちは教室へと向かう。案外早い時間に着いたと思ったが絵梨花ちゃんも含め、結構みんな揃っていた。
絵梨花ちゃんの周りに珍しく人はおらず、
何やら勉強をしているようだった。
時々仕事の関係で学校を早退することもあったが、この前行われた英語の小テストでは
彼女は満点を記録していた。
結構難しかったはずなのにな・・・
それもこれも彼女のストイックに妥協しない性格によるものだろう。
そんな事を考えながら、ぼーっと絵梨花ちゃんを見つめてしまっていたら、彼女は突然手を止めて携帯を操作しだした。
ブブ
ポケットに入れた携帯が振動する。
『おはよう俊くん。
ごめんね返信が遅くなって。
あと、見過ぎだよ〜うれしいけど!』
どうやら俺の視線に気づき、恥ずかしくなったようだ。遠目でも頬が少し紅潮しているのがわかる。
『おはよう。ごめんね。
つい、ぼーっとみてたよ。』
『なにそれw あとさ、
もし何もなかったら渡したいものがあるので
お昼休みに屋上に来てくれませんか?』
『うん、わかった。
ならお昼休みに行くね』
『ありがとう。お互い勉強がんばろうね』
青春ってこういうことなのか。
なんだかフワフワした感覚になる。
まぁ、嫌いではない。むしろ好き。
「おいおい・・・何画面見てニヤニヤしてんだよ。キモ」
左前の席の小吉が、
椅子に跨り俺を見ながら顔をしかめている。
「・・・顔に出てたか?」
「出てしかいなかったぞ」
・・・なんにしても見られたのがM吉だけでよかった。陰キャと呼ばれる部類の俺がそんなことをしていたら、プラスアルファがつく事は避けられないだろうからな。
*
そうこうしているうちに昼休みの時間になった。間の授業に林間学校の班学習があったが今回もテーマが確定するところまではいけなかった。
まぁ、正直発表といってもそこまで固いものでもないので、次の班学習で決まればいいだろう。
それと次の班学習からは、二限連続行われるようになり、レクリエーションの際に同じ班に振り分けられる一年も合流してくる。
去年の林間学校は小吉しか友達といえる友達がいなかったこともあり、そこまで楽しくはなかった。今年こそ心から楽しかったと言えるようにしたいものだ。
「俊介、俺いまから体育館にバスケしに行くけど、来るか?」
「いや、大丈夫だ。気にせず行ってこい」
「そうか?また放課後とか遊びに来いよ?」
「気が向いたらいくよ、ありがとうな」
そう返すと、そうか。と言い小吉は体育館へと向かった。優しいやつだ。俺が一人になることがないようにここまで気にかけてくれている。本当にいい友達をもった。
そんな小吉を見届け、
俺は屋上へと向かった。
*
「あ、俊くん!
えへへ、さっきぶりだね」
校庭を見下ろしていた絵梨花ちゃんが
ドアを開けた音で俺に気づく。
「えーと、一応来たけど、いいの?
学校で二人きりになって」
「うん!全然大丈夫だよ!
それと、昨日はごめんね。
連絡もしてくれてたのに返せなくて。」
「怖かったのは絵梨花ちゃんなんだから、
そんなに気にしないでいいよ。ありがとうね
ところで、今日はどうしたの?」
「あ、ありがとう・・・
でね、昨日のお礼にってクッキーを焼いてきたの。受け取ってくれたら嬉しいな」
そう言いつつ、照れながらクッキーを俺に見せる絵梨花ちゃん。美味しそうな三色のクッキーが綺麗に袋詰めされている。
「え!?いいの?」
「うん!これくらいじゃまだお礼したりないくらいだけど・・・」
「いやいや充分嬉しいよ!
手作りクッキーなんて今まで食べたことないし。食べてもいい?」
「うん、どうぞ。お口にあったらいいけど」
そう言ってニコニコ笑う絵梨花ちゃん。
よかった、元の絵梨花ちゃんだ。
けど、昨日のキスの事
何にも感じてないのかな。
やっぱり女優さんってキスの一つや二つなんてどうってことないものなのか?
少し悲しいというか、
モヤっとするというか・・・
「いただきます!」
そういって口にしたクッキーは甘さも丁度よく、とても美味しかった。本当に料理が上手いんだな絵梨花ちゃん。
「ん!めちゃくちゃ美味しい!」
「ほんと?よかったぁ。
早起きしたかいがありました」
そう言って彼女は更に笑顔になる。
「・・・昨日のさ、アレ覚えてる?」
「アレ?」
「うん。私が俊くんにチューしたの」
「・・・覚えてるよ」
「本当にごめんなさい。いきなり襲っちゃうみたいな感じのことして。
あの後、帰ってから少し軽率だったなって
反省したの。だから、なんて返信したらいいかわかんなくて遅れちゃった・・・ごめん」
絵梨花ちゃんは俯きながらそう言った。
そうか、返信が来なかったのにはそういう理由があったのか
「全然大丈夫だよ。正直、嫌われたのかと
思って怖かったけど」
「そんなことないよ!俊くんのこと嫌いになる時なんてこないよ・・・」
絵梨花ちゃんがそう言うと、恥ずかしさからか二人の会話は途絶え、辺りの静寂に一気にのみこまれる。
その空気感にいたたまれなくなり、
俺は絵梨花ちゃんに話しかける。
「け、けど!本当に気にしないで。なんなら、俺は、その、う、嬉しかったし・・・」
「・・・それ、ほんと?」
「うん。本当」
そう俺が言うと、絵梨花ちゃんは一瞬驚くと
すぐに笑顔になり、ふふふと笑い出す。
「そっか。そっか。嬉しかったのかぁ。」
手で口元をおさえ笑う彼女の仕草が
余りに可愛くて少しドキッとする。
「よかった。
私こそ俊くんに嫌われたって思ってたから。
よし!
これで午後からの授業とお仕事もがんばれるよ!ありがとうね俊くん!」
「っ!?」
彼女の太陽みたいにキラキラした笑顔が
あまりにも眩しすぎて咄嗟に目を背けてしまった。
「じゃあ、渡せたし私は先に戻るね!
あ!あとさ、俊くん」
そう言って戻ってきた絵梨花ちゃんは、
俺の耳元でヒソヒソと
「あれね、私のファーストキスだよ」
「・・・」
彼女はそれだけを言い残し、少し恥ずかしそうな笑みをうかべ屋上を後にした。
俺はというと、彼女の爆弾発言による
キャパオーバーで完全に硬直してしまった。
これは、直ぐには動けそうにないな・・・
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます