2-3 変装とヒーロー





「よし!

 じゃあテーマはどうぶつビスケット

 全種類たべてみた!に、けってーい!」


「いや、決まってないし!

 なにその売れない

 YouTuberの企画みたいなの!」


白鳥さんと甲斐が漫才のように会話する。

それをみて、絵梨花ちゃんがクスクス笑う。


結局、1日じゃテーマは決まらなかった。


他の班をみるに、みんな難航しているようだった。だが、最初おそるおそるだった班も打ち解けることができた。仲良くなれただけでも今回の話し合いは上々だろう。


ん?また携帯が振動している。

きっと絵梨花ちゃんだろう。

携帯を持ってニヤニヤしている。


『今日さ、お仕事ないんだ。

 もしよかったら、この前のお出かけ

 につきあってほしいなって。』


こ、これは・・・放課後デート!?


『どうかな?』


更にメールで送ってくる彼女。

俺は無言で、こくりと頷く。

だが、こんなすんなりと決めても

よかったものか。


『放課後デートだね』


ぶっ!?

今日はすごい攻めてくるなこの方は!


「ん?どうしたの?絵梨花ちゃん。

 顔真っ赤だよ?」


「へ!?そ、そうかな?

 暑いのかな?えへへ・・・」


白鳥さんの問いに照れ笑いで返す絵梨花ちゃん。

恥ずかしがりながらもこうやって誘ってくれたのか・・・

その様子を見てたらこっちまで顔が熱くなるが凄く、凄く!嬉しい!

なんだ、この愛されてる感!


こ、こうなったら彼女に俺ができることは

周囲にバレないように最大限注意することだけだ!







キーンコーン カーンコーン



「はーい。今日はこれでおしまいです。

 みんな気をつけて帰るのよ。

 さようなら」


田村先生がそう言って、本日の学校は終了だ。

ん?今日は舞香は迎えにこないのかって?

今日は、収録が午後からあるから

学校を早退する旨のメールが届いている。

それと、絵梨花ちゃんとあんまりべたべた

するなって内容のメールも・・・大量にな。


「よし!じゃあな俊介〜

 バスケやってくるわ!」


「おう!またな!

 がんばれよ〜」


「なんかあったら教えろよ〜親友!」


「はいはい」


そうやって小吉は体育館へと走る。

本当に気持ちのいいやつだ、あれはモテるな

そうこうしていたら、また携帯が振動する。


『じゃあ、駅前のメック前に集合ね!』


メ、メック!?

メックとは有名ファストフードチェーン店であり、放課後学生がたまることでも有名な店だ。なぜ、わざわざ学生がたまるようなところに!?


『大丈夫なの?

 結構、人集まると思うけど』


『うん!大丈夫だよ!

 じゃ30分後にね!』


は、本当に大丈夫なのか?

何日間か過ごしてわかったが、絵梨花ちゃんはちゃんとしてそうで少し抜けている節がある。これは、俺ががんばるしかない・・・!





俺は約束の5分前にメック付近へとつく。

やはり想像通り、平日のこの場所は

学生の数が凄い。絵梨花ちゃんは、どこだ?

キョロキョロと辺りを見回してもどこにも

それっぽい人は見つけることはできない。


もしかして、場所でもまちがえたか?

そんなことをしていると携帯が着信し、

通話ボタンを押し絵梨花ちゃんと通話をはじめる。


『は、はい!』


『ふふ、俊くん。

 私はどこでしょう?』


『え?もうついてるの?』


『うん!ついてるよ?

 私からは見えてる』


『え?』


またキョロキョロと探すが、

え?どこにもいない・・・


「ここだよ俊くん」


肩をトントンとたたかれて、

後ろを振り向く。そこにいたのは

銀髪と青い目の絵梨花ちゃんではなく、

黒髪に茶色の目をした美少女が立っていた。


「え!?えり ブフッ!」


驚いて彼女の名前を言ってしまいそうになる俺の口をとっさに塞ぐ黒髪の美少女もとい

絵梨花ちゃん。


「ふふ。だめだよ?俊くん。


 けど、こんな大勢と俊くんにも

 気づかれなかったら大丈夫だね!

 さ、いくよ〜!」


あ、危なかった。

あれだけ心配してたのに

自らへまをするところだった。

それにしても、教室での清楚な絵梨花ちゃんもいいけど、スカートを短くして可愛さにふりきった絵梨花ちゃんもまたいい。

ていうか、黒髪でも似合いすぎだろ!

なんか別の意味で注目浴びてる気もする。

ていうか、なんて呼べばいいんだ?

俺は絵梨花ちゃんへ聞いてみる。


「ねぇ・・・なんて呼べばいい?」


「んー?

 俊くんに名付けてほしいな」


「俺!?

 なら、 ・・・りかちゃん、とかは?」


我ながらなんてひどいネーミングセンスだ。

それにその呼び方だと捻りなさすぎてばれるか?そう思ってると


「・・・うん。それ、私もそれがいい。」


絵梨花ちゃんが顔を真っ赤にして、

照れながらそう言う。

え?今のどこに照れる要素あんの?


「と、とにかく!

 私、洋服とかみたいから!

 ついてきてよね!」


「・・・りかちゃん絶対

 舞香の真似してるだろ。」


「し、してないよ!

 あ、してないんだから!

 ほら!いくわよ!」


またもやばれて恥ずかしいのか顔を真っ赤にして歩く絵梨花ちゃん。

きっと、こういう感じの服装を着なれてなさすぎて、着てそうな舞香の真似をしているんだろう。あー・・・本当にかわいい。



それから俺たちは絵梨花ちゃんが見たい

洋服屋さんやデザートショップ、雑貨屋さんなどをめぐった。最初はたどたどしかった、

舞香の真似もやっていくうちに板につき、

そのかいあってか全然身バレはしなかった。


「ほら!

 次はあっちいくわよ!」


なんか最初に比べて本当に舞香そのものだな・・・役が降りてくるってやつか?

やっぱ女優って凄いんだな。


きっと、この演技力を得るために

毎日毎日頑張って練習したんだろう。

だからこそ、一年という短い期間でここまで成功できたんだ。


「・・・ど、どうしたの俊くん。

 ぼーっとして、なんかおかしかった?」


「あ、違う違う!

 いつも頑張ってるんだなって思ってた

 だけだよ!さ、行こ!」


「そ、そんなことないよ・・・

 あ、次はあっちのお店にいく!」


「うん。行こう!」




絵梨花ちゃんと一緒にいるのは楽しい。

だが、今日あらためて

彼女の頑張りを感じてわかった。


やっぱり、俺たちは付き合えない ———






日も暮れてきた。

そろそろ帰ろうかという話になって、

繁華街を抜け、帰路につく。


「ごめん、

 ちょっとお手洗いにいってきていい?」


「うん!ここでまってるね〜」


もう、暗いしあんまり人もいない事もあってか絵梨花ちゃん本来の話し方にもどってきた。


それにしても今日は楽しかった。

放課後デートなんてしたことがないから

少し不安だったが終わってみたら

幸福感が凄い。本当の彼女とだったらもっと楽しいのかな・・・いや、だめだろ。

ついさっき決めたはずだろ俊介!


今日告げよう。

俺のことは、忘れてくれ。と・・・


決意を固めるかのごとく両頬をパチンと叩く。そして、トイレをでて絵梨花ちゃんの元へと向かうが、彼女の側には二人の男がいた。


知り合い?けど、絵梨花ちゃんが嫌がっている感じもする。これは、ナンパ・・・!?




「なぁ、いいじゃん。

 俺らと遊ぼうって」


「いや、待ってる人いるんで・・・」


「あの、なにしてるんすか?」


「俊くん!」


俺は二人と絵梨花ちゃんの間にはいる。

正直、めちゃくちゃ怖い。

しかも、あたりが暗いこともあり

誰も人も通ってない。

負けるな。彼女を守れるのは、俺だけだ。


「いや、俺ら友達の君には興味なくて

 後ろの女の子に興味あんの。

 どいてくんないかな」


「そんなことできません。

 さ、りかちゃん。かえろ?」


「う、うん」


「だからぁ!

 無視してんじゃねーよ!

 なに?なんか文句でもあるわけ?」


怒鳴って俺たちの前に立ち塞がる男たち。

怖い。だけど、

引けないんだよ!


「こ、これ以上するなら、ここで大声だして

 警察に電話しますよ?

 ここ暗いですけど団地です。

 はやく、どいてください!」


「・・・ちっ!びびってるくせに。

 しらけたわー。いこうぜ!」


男たちは顔を見合わすと、そう言って繁華街の方へと歩いて行った。


ふぅ、怖かったぁ〜〜

こんなことになるのは人生で2だ。


「絵梨花ちゃん?もう大丈夫だ・・・」


言い終わる前に、

絵梨花ちゃんは俺に抱きついた。


「怖かった・・・

 ごめんね、ありがとう俊くん・・・」


体が震えている。

本当に怖かったんだろう。

大事がなくてよかった。


それから二人で、マンションへと歩く。

それから帰るまで、ずっと絵梨花ちゃんの

腕は俺の体を巻きつけていた。



俺たちはマンションにたどり着いた。


帰りつく頃には絵梨花ちゃんの

鼻を啜る音もしなくなっていた。


「さ、着いたよ。」


そう言うが、

絵梨花ちゃんは俺の腕を離す気配がない。


「絵梨花、ちゃん?」


「・・・ごめん。

 もう少し、このままでいたい・・・」


そういう彼女をほおってはおけず。

俺たちはあの公園に行き、ベンチに座る。


「・・・ごめんね、絵梨花ちゃん。

 最後の最後であんなことになっちゃって」


「何で俊くんがあやまるの?

 私は楽しかったし、嬉しかったよ?

 

 それに、かっこよかった。

 ますます惚れ直しちゃった・・・

 やっぱり、俊くんは私のヒーローだね。」


「そんな、大したもんじゃないよ。

 俺一人じゃ何もできなかったし・・・」


「けど、私の前に立って

 守ってくれたよ?

 嬉しかった。本当に大好き。」


「・・・」


「・・・俊くん。」


「っ!?」


俺が黙っていると、

絵梨花ちゃんが俺の名前を呼んだ。

それに気づき振り向くと、


絵梨花ちゃんは俺にキスをした。



突然の出来事に俺は驚き、体を引く。



「へへっ。ごめんね?

 でも、我慢できなかったの。


 ・・・絶対に、絶対。

 私は俊くんの事

 好きじゃなくなることなんてないから。


 だから、まだ、

 俊くんのことを好きでいることを

 許して・・・お願い・・・」


絵梨花ちゃんは泣く事もなく、

笑顔でそう言った。


・・・態度にでていたのか、もしくは何を考えていたのか感じてしまったのか。

今の絵梨花ちゃんをみたらわかる。


俺は、なんて無責任な事をしようとしていたんだろうということに。


芸能人だから付き合えないということに嘆くばかりで、彼女達の気持ちを

真正面から受け取る事を避けてきただけだ。

そんなことじゃ、

何の解決にもならないじゃないか。


「・・・うん。」


俺は決めた。

何で彼女達が俺のことを好きになったのかを聞こうと。俺はまだ彼女達のことを何も知らないじゃないか。まずはそれから知ろう。

そうすれば、もっと真摯に向き合えるだろう


「良かった・・・」


俺の答えをきき、安堵の言葉を漏らす

と共に俺の肩に彼女の頭がのる。

彼女の体が重なる左腕に感じる体温は熱く、

少しだけ震えていた ————


 

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