1-4 純愛と運命





「それじゃあ、今日は帰るね。」


「うん、また明日学校でね」


「・・・ねぇ、俊くん。また、

 こうしてご飯つくりに来てもいい?」


「あぁ、俺もまた来てくれたら

 嬉しいよ。」


「やった!

 あとさあとさ、この前なしになった

 お出かけもしてくれる?」


「うん。また今度行こうね」


「えへへ、ありがと!

 あっ、ごめんね・・・玄関でこんな長話

 じゃあまた明日ね!」


そう言いながら彼に手を振り、

私は隣の部屋へと帰った。



「き、緊張したぁ〜」


ドアを閉めて、緊張がとけたのか

腰が抜けるて玄関に座り込む。


それにしても楽しかった。

今日は勇気を出して、メールして本当によかったと思う。


「えへへ・・・」


メールのやりとりを見るだけでニヤついてしまう。流石にこんな姿、誰かにみられたら恥ずかしさのあまり死んじゃうよ・・・


それにしても俊くん、昔は私より背もちっさくて可愛かったのに、今は背も随分高くなって格好よくなってるんだもん。

そりゃ緊張もしちゃうってもんだよ。


私は小学生の頃あまり友達もいなくて、

ずっと一人でいたが、ある出来事を経て俊くんと友達になった。


だが、両親の仕事の都合もあり引っ越すこととなった。そして、引っ越してからは俊くんに会えなくて毎日毎日泣いた。


何でこんな悲しい気持ちになるんだろって考えた時、気づいたんだ。


私は俊くんのことが友達としてじゃなく、

恋愛感情として好きなんだって。


そう気づいた時、行動するのは早かった。

毎日毎日、両親に日本に帰りたいと伝え続けた。だが、

決して首が縦に振られることはなかった。

けど決して私は諦めなかった。


そしたら、あまりの必死さに押されたのか

高校生になったら戻ってもいいという許しを得ることができた。

あの時の嬉しさは、今でも忘れない。


そこから、どうやったら俊くんに好かれるのだろうと考えた。

そしたら、テレビを一緒に観ていた時に出ていた女優さんを、キラキラした目でみていた俊くんを思い出したんだ。


それから私の進む道は決まった。

あの日、俊くんが観ていたような綺麗な女優さんになって俊くんに振り向いてもらう、と


私は必死に稽古して、約束通り去年帰国。

高校を卒業したら俊くんに会いに行くという目標だけを胸に、通信制の高校にかよいながらも、ようやく女優として日本で認知されるくらいになってきた。


だが、

私は我慢ができなくなった。


私も、同じ高校で青春をしたい・・・


ある恋愛映画に出ていた時ふと思ったこの感情。止めることは不可能だった。


それから私は、


一人で不安だから

知り合いがいる学校に通いたい


という理由をパパに伝え、俊くんのお父さんに連絡してもらい、俊くんが通っている高校を聞き出した。そして、その近くのマンションへと引っ越したのだ。そんな努力を神様が祝福してくれたのか奇跡が起こった。


なんと、挨拶にいった隣の部屋には

あの憧れの俊くんが住んでいたのだ!


運命を感じた私は、柄にもなくグイグイと彼に迫った。だが、人生はそう甘くはなく、

喜びと悲しみは一気に押し寄せた。


彼の肩からひょこっと出てきた女の子。

よく知っている、よく見たことがある顔。

今、人気のアイドルグループ『Amour』

センターの斉藤舞香ちゃん。


な、なんで?俊くん兄弟なんていなかったよね。え、もしかして二人は・・・


そんな事を考えていたら頭がパンパンになって、せっかく俊くんに部屋に入れてもらったのにテンションはどん底だった。


だが、彼はあの後親が再婚してできた

義理の妹だと説明してくれた。


よかった、本当によかった。

俊くんに彼女がいなくて・・・


ん?でも、今いないだけで昔はいたのかも、

そう考えたら少し不安になったが

今はこの幸せを噛み締めることにしよう。


だけど、私にもう一つの疑問が生まれる。


さっき紹介された義妹の目が、

恋する乙女のそれだったからである。


態度では悪態こそついているが、ところどころ照れたり、とろんとした目をしている。


え?妹だよね?大丈夫だよね?


そう思いながら、私は俊くんと話す。

その時に向けられる舞香ちゃんからの刺すような冷たい視線。私は気づいてしまった。


あぁ、この子も私と同じで俊くんに恋しているんだ・・・と


それからは、

俊くんを奪われない為に必死だった。


舞台でもないのに大勢の人の前に自分から飛び出したり、自分からメールをおくったり、男の人の部屋に一人で上がりこんだりして

今までの私を考えると慣れない事の連続だったが、意外と楽しかった。


これも俊くんのおかげなのかな・・・


それに、舞香ちゃんのこと好きなの?

って聞いたら恋愛としてではないって

言ってたし。


今は幼馴染として、一人帰国した寂しがりやの女の子として接してくれているだけかもしれないけど、今後アピールを続けていくときっと、振り向いてくれると思う、

思いたい・・・







朝を迎え、カーテンの隙間から

差し込む日光で目覚める。


目覚めたらここのところ日課となっている

俊くんへのおはようのメールを送り、

朝の支度をして、学校に向かう。

本当に連絡先を聞いておいてよかった。

毎朝幸せを感じることができるから・・・


この席は好きだ。

一番後ろだし、俊くんとは少し離れているけど誰に見られるわけでもなく授業中などに彼を見ることができるからだ。


はぁ・・・今日もかっこいい・・・


そんな事を考えていたら、いつの間にか授業が終わっていた。すると、毎度のように彼の

義妹 蒼舞香が学年も違う私達の教室へとやってきた。


だが、今日の私は昨日の食事会もあってか

心に余裕がある。なんだか、秘密を共有しているみたいで、勝手かもしれないが

彼と特別な関係なんだと感じているからだ。


今日も仕事終わったら行っていいか聞いてみよっかな。けど、そんな毎日行ったら嫌われるかな。どうしようかな・・・


などと悩んでいたら、彼の義妹の口から思いもよらぬ言葉が発せられる。


「私、明日からお兄ちゃんの家から学校に

 通うことになった!

 マネージャーさんとお母さん

 たちにはもう確認してるからね。

 じゃ、宜しく〜☆」


「え!?」


俊くんもその発言に驚いているが、

それ以上に大きな声を出して、

驚いてしまった私に俊くんを含め周囲の人たち全員が驚いていた。は、恥ずかしい・・・


けど、え?

今の、本当?


そう思い、舞香ちゃんの方を向くと

なんか、してやったり顔をしている。


ぜ、絶対わざとだ!

私と俊くんの仲を邪魔するつもりだ!

これじゃあ気軽に部屋に行けないじゃん!



ふ、ふーん。

そうなんだそんなことするんだ。

もうこうなったら、

恥ずかしさなんて考えてられない。

そっちがその気ならこっちだって・・・


絶対に俊くんと恋人になって、

あ、あんなことやこんなこと・・・


と、とにかく!

絶対に舞香ちゃんには渡さない!

俊くんの彼女になるのは、私だ!

そして、私は自らを奮い立たせるが如く呟く


「絶対に俊くんは・・・渡さない」


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