1-3 後悔と決意





「「「「ありがとうございました!」」」」


パチパチパチパチ



私達は収録を終えて、楽屋へと帰ってきた。


「ひゃー疲れた。

 今日も一日お疲れさんです!」


「なんかおっさんくさ。

 まぁ、たしかに疲れたねー。」


「あぁ、お腹すいた。

 ご飯食べたいけどもうおそいしな・・・

 今日は炭水化物は我慢かな。

 

 ・・・てか、

 舞香なんでそんなニヤついてんの・・・」


「・・・へ?」


「へ?じゃないんだけど!

 携帯みてめちゃくちゃニヤニヤしてるし

 なに?なんの画像!ちょっとお姉さんに

 みせてごらん!」


「ちょ、ちょっと可奈!やめなさいよ!」


「こーら。舞香が困ってるでしょ。

 ほら、送ってくから、車に乗って乗って」


「「「「はーい」」」」



「はい、ついたわよ舞香。

 今日はお疲れ様。明日は学校17時まで

 だったわね。19時からインタビューが

 はいってるからまた向かえに行くわね。」


「ありがとうございますゆかりさん。

 みんな。お疲れ様でした。

 おやすみなさい。」


「ん。おやすみー」


「「「おやすみー!!!」」」


そうして、マネージャーさんが運転する

黒いバンは私の家から離れていった。


「はぁ、疲れたー。」


私たちのグループも更に人気がでてきて

ありがたいことに更に忙しくなった。

それにしても、今日は結構ハードな撮影でメンバーのみんなも目に見えて疲弊してたな。


去年なんて受験勉強を行う時間も、

学校に行く時間もほとんど取れず

収録、ライブ、レッスンなど大忙しの一年

だった。


だけど、そんな日々を乗り越えることが出来たのは、あいつの存在が大きかったからだと思う。


蒼俊介。一個上の私の義兄。


冴えないし、いや、冴えなくはないか。

かっこ悪いし・・・いや、別に悪くないか。

優しくはなくも、ない・・・

って!違うわよ!


はぁ。自分で言っててほんとばからし・・・


「ただいまー。」


「あら、おかえり。今日もがんばったのね」


「んー。ありがとうお父さんは?」


「まだ仕事があるみたいよ。」


「そっか。じゃあお風呂もらってもいい?」


「えぇ。ゆっくりねぇ」


・・・この家にはもう、俊介はいない。

一年前、俊介の高校進学を機に一人暮らしをするって聞いた時は絶望したのを今でも覚えている。

本当は引っ越してほしくなかったけど、

思春期真っ盛りの私は特に何も言えず、

・・・いや、それだけならともかく

逆に悪態ばっかりついてしまった。


あぁ!もう!

なんで私はいっつも素直になれないの!?

なんか変に照れちゃって俊介に対していつも悪態をついてしまう。まぁ。

こんなこと考えても後悔先にたたずだ。


それに、今私がこうしてまた後悔をかかえているのには一つの大きな理由がある。


俊介の隣に越してきたあの女のことだ。


これに関してはなんなのよ本当に。

なんで隣に、あの上坂絵里が越してきて

しかも、俊介と幼馴染とか神様何してくれてんの本当に!!!

てかあいつもあいつで、何あの出会い方!

漫画の主人公かよ、くそ!


はぁ・・・これも、後悔先に立たずか・・・

今まで義兄に浮ついた話がないことにうつつを抜かしていたのは事実。


俊介は私がずっと独り占めにできる。


そうたかをくくってたから神様が

罰を与えたんだ。


上坂絵里もとい上田絵梨花・・・

ずっと俊介を見てきた私にはわかる。

あいつの俊介を見る目は恋する乙女のそれだ。俊介を含めてみんなは頭の中で大女優の絵里が、そんなことはないって考えてるからあまり気にして無いのかもしれないけど。

わたしにはわかる。


だって、私も同じだから・・・


「もう・・・なんで私は妹なの・・・」


お風呂は好きだ。

1日の疲れを忘れてリラックスできる。

だが、お風呂に入れない時にもリラックスする方法がある。

それは一度だけ、一年前に俊介と二人きりでとった写真を見返すことだ。


不思議とその写真を見るだけで、

疲れた心も元気になる。

・・・今日は顔に出てたみたいで可奈に

みられそうになったけど。

てか、見られて他のメンバーに惚れられても困る。

ま、まぁ、俊介この前私が一番かわいいって言ってたから、万が一そんなことが起こっても大丈夫なんだけどね!



・・・あの時は、今ほど悪態癖もひどくなく

比較的素直に話すことができていた。

だが、意識すればするほど感情とは

かけ離れた行動を私はするようになり、

たまに俊介はそれを

本当に嫌がってるように感じる時もある。


収録とかで、憧れていた俳優とかと話す時でもそんな事一切ないのに・・・

もう、ここまできたら私は認めてしまった。

いや、認めるしかない。


私は義兄である蒼俊介が、

恋愛感情として好きだ。


だけど私は、この想いを誰かに相談も告白もすることはできない。


だって私は、恋愛禁止のアイドルである前に

彼の妹でもあるから・・・


けど、このままじゃ絶対

あの女に俊介をとられちゃう。


・・・はぁ


「・・・どうしよっかな。

 本当に、とられたくない・・・」


完全に諦めムードになっているのに、

諦めたくないと心では思っている。



なんかこんな事ばかり考えてたら

無性に寂しくなって、無意識に俊介にメールを飛ばしてしまった。


『今、何してんの?』


・・・ん?何この文面!恋する乙女か!

ちょ、まってやばい。

なんか・・・めちゃくちゃ恥ずい!


そうやって一人で騒いでいると携帯がメールを受信した音がした。


「返信早くない?

 そんなに嬉しかったのかな。」


そして、私は画面に目を向ける。


「・・・は?」


『今、絵梨花ちゃんとご飯を食べてる』




・・・・・・ん?

な、な、何なの!何なの本当に!

あの女はぁ!!!!!!!!!!!


てか、てかさ!あの女さ!

この前も隣人ってことにかこつけて

手料理とかふるまってたわよね!?

しかも、部屋にもしれっとあがりこんでたし


あーなんか思い出したらイライラしてきた。


そうよ!なんで私が諦めなきゃいけないの?

1番の理由である妹っていっても義理でしょ?

別に血がつながってるわけでもないじゃない!


もし、もしよ?俊介とそうなってもいいか

お父さんとお母さんに説明して、了承をえたら、その・・・キ、キスだってその先だって

な、なんでもできるじゃない!


そうよ諦めちゃだめよ、蒼舞香。

初めて好きになった人じゃん!


あっちが隣人の立場を使うなら、

こっちだって義妹の立場を使うわよ!

早速明日、マネージャーさんに相談しよう。

うん!それがいい!


もう、弱音はなしよ。

あっちがその気ならもう後にはひかない。

絶対に、絶対に!


「俊介は・・・誰にも渡さない。」

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