1-2 嘘と元カノ




キーンコーン カーンコーン


六限の終わりのチャイムが校内に鳴り響き、

帰りのホームルームも終わった。

やっとのことで夏休み明け初日を乗り越えることができた。

あれから、休み時間のたびに

舞香とはどんな関係、家での舞香はどんな感じ、絵梨花ちゃんとどんなことして遊んでたの、絵梨花ちゃんに踏んでもらったことある

等の多種多様な質問を絶え間なく浴びせられて俺のSAN値は風前の灯火である。


はぁ、早く帰って寝よ。


そう思っていたのも束の間外がガヤガヤしだした。あ、そっか、思い出した。

我が義妹との約束をすっかり忘れていたのだ。


「お兄ちゃん!早く買い物いくよ〜」


わーお。アイドルオーラ全開の舞香が目の前に現れた。こいつ、家での姿が素のはずだろ?いっつもこうなの?疲れないのか?

そんな素朴な疑問を抱きつつ

早く早くと急かされながら帰り支度をすませる。


「じゃあな、小吉」


「おう!またな!」


「お兄ちゃんお借りしますね〜」


「うん!うん!どうぞ!

 じゃあね〜舞香ちゃ〜ん!」


話しかけられて嬉しそうな小吉に笑顔で

ヒラヒラと手を振る舞香

これがトップアイドル。

心を掴むの上手ぇ・・・


ん?なんか背後に悪寒が

そう思い振り向くと、椅子に座ったまま

絵梨花ちゃんがこちらをジッと見ていた。


なんか、怖いぞ・・・ん?

俺じゃない?

絵梨花ちゃんの視線の先にいる我が義妹を

見上げてみるとこれまたびっくり、

先程のアイドルモードは一変、極道のような

着物座った目をして絵梨花ちゃんをジッと見ている。二人の間には心なしか火花がちっているような気もする。

と、とりあえずここは距離を置くしか方法がない!


「じゃ、じゃあ行くか舞香!」


そう言い絵梨花ちゃんにペコっと軽く会釈して教室をでる。





「はぁ・・・散々だった。

 お前いつもあんな中生きてんの?凄いな」


「別にー。

 あんなの余裕じゃん。俊介がきょどり

 すぎなだけよ。朝なんか何あの顔

 思い出しただけでも・・・ぷぷ

 お腹痛くなっちゃう」


俺たちの実家へと帰る道を歩きながら

お腹を押さえて笑う舞香。


「で、どこに何を買いに行くんだ?

 この先、特になんもめぼしい所はないが」


「あー。やっぱり特に買うものないかも。

 そういえば、私これから仕事だったし

 家に帰って準備したらマネージャーが

 迎えにくるから、そのまま帰る。」


・・・なんなんだこのワガママ義妹は。

まぁ、義母さんから聞いた話だと今仕事が忙しいみたいだし、しょうがないか。


「わかった。じゃあ家まで送るよ。」


「当たり前でしょ!ほら!早く行くわよ」


そう悪態をつきつつも舞香の顔をチラッと見たら口元がニヤニヤしていた。

きっと、

今日の学校が楽しかったんだろう。

仕事で忙しく、あまり学校にいけてなかった去年を知っているので、そう思うとこちらも嬉しくなってくる。


「・・・よかったな舞香」


「・・・なにがよ。

 なんか悟った顔してキモい」


・・・やっぱりこいつ怖い。






夜になり、今日うけた授業の復習をしているとインターホンがなった。 


「はーい」


「こんばんわ。入ってもいい?」


「うん、いいよ」


「それじゃ、お邪魔しまーす」


そう言い、

約束通り絵梨花ちゃんが家にきた。


「えーっと、何か食べれないものとかって

 あるかな?」


「いいや、ないよ」


「なら、本日は鮭の香草焼きになります!

 いいでしょーか?」


「やったー!」


「ふふ。ちょっとまっててねー」


そう言いニコニコしながらキッチンにたつ

絵梨花ちゃん。これは、幸せだ。

私服姿も制服姿も良かったが、エプロン姿はまた一味違ってとてもいい。それになんか特別感がすごくあってこれはやばい。


少し顔が熱くなって焦った俺は、

適当に流していたテレビのチャンネルをカチカチと変える。すると絵梨花ちゃんが出ている番組があり手が止まる。


「あーはは。なんか目の前で番組観られると

 恥ずかしいもんだね・・・」


絵梨花ちゃんの顔が赤くなってきた。

やっぱり恥ずかしいものなんだな。


「けど、今日の朝は驚いたよ。

 舞香と話してた時、あんな凛々しい

 というかクールというか、あんな絵梨花

 ちゃん初めて見たからさ」


「あはは・・・

 あんまりああいう場で話すのになれてない

 からさ、いつも演技している感じで

 話してみたの。

 余計なお世話だったらごめんね?」


「いやいや、事実困ってたし

 ありがとうだよ本当に。

 まったく、舞香のワガママにも

 困ったもんだ・・・」


「舞香ちゃんったら俊くんのこと

 大好きだもんね。

 だから、ちょっかいかけちゃうん

 じゃない?」


「舞香が俺を?ないない。

 出会った頃は丁寧な感じだったけど

 今ではあれだよ?事務所から異性とは

 家族以外プライベートであっちゃいけない

 らしいから仕方なく俺と絡んでるだけ」


ないないと言う俺に絵梨花ちゃんは料理をしながら続ける


「・・・へぇ。

 けど舞香ちゃん凄くかわいいよね。

 好きになっちゃうことなんてなかったの」


「たしかにあいつは憎たらしいが

 可愛い。けど、あいつに対する愛情は

 家族にむけるものだよ。それに、

 あいつが頑張ってたの知ってる分

 邪魔はできる限りしたくないんだ。」


「そうなんだ・・・

 舞香ちゃんはそう思ってないかも

 しれないけど・・・」


「ん?何て?」


「んーん!何にもないよ!」


なんかぼそっと言ったような気もするが、

まぁ本人が何にもないって言うならそうなんだろう


「・・・俊くんって今まで彼女とか

 できたことあるの?元カノとかいるの?」


ゴフッ


「だ、だいじょうぶ?」


水を飲んでいたこともあり、急な質問にびっくりしてむせてしまった。


「か、彼女?ないけど・・・

 どうしたの?」


「あ、いや、俊くんかっこいいし

 一人くらいいるんだろうなーって」


なんか心なしか口元がニヤニヤしているような気がする。え?もしかして

童貞なの?ぷぷぷ的なやつなのか?


「またまたー。

 絵梨花ちゃんがいつもみている人達に

 比べたら俺なんかミジンコも

 いいところだよ」


「そんなことないよ!!」


おお、いきなり声量がぐぐんとあがり

ちょっとびっくりした。

ポカーンとしていると絵梨花ちゃんもハッと気づいたらしく


「ご、ごめんね。

 俊くんはかっこいいよ、今も昔もずっと」


「はは、ありがとう。

 絵梨花ちゃんに褒められると嬉しいよ」


「えへへ、はい、出来たよ。

 食べよ食べよ」


「相変わらず美味しそうだね・・・」


「ありがとっ!

 それじゃあいただきまーす」


「いただきます」


美味しいご飯を可愛い幼馴染と食べる

これって最上の幸せじゃん!

・・・相手が一般ならな。付き合えたらな。


けど、あの元カノの質問の後から心なしか絵梨花ちゃんが嬉しそうなのは気のせいなのだろうか。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る