1-1 口論と我慢
「で、だ。
もう一度繰り返すぞ。
小学生の時に上田さんと友達になり、
中学生の時に親の再婚で斉藤さんと
家族になった、と。」
「お、大まかにはその通りだな。」
「はぁ!?なんだそりゃ!
羨ましいの極みかよ、くそぉぉお!」
「お、おい。
あんまり騒ぐなよ・・・」
食堂から教室に戻った俺は
小吉から事情聴取をされていた。
教室に戻ったはいいが、
絵梨花ちゃん目当ての他クラス、他学年の奴らが休み時間に殺到している。
その中での、先程の小吉の絶叫。
今、俺らに普段浴びるはずのない量の視線が向けられている。こ、これは何もしていないとはいえ厳しいもんがある・・・
そんな時、廊下から騒がしい音が聞こえる。
もうこの音を聞いて俺は嫌な予感しか
しなかった。
ガラガラと教室のドアが開く音が鳴り、
現れたのはやっぱり我が義妹 蒼舞香だった。
「ねぇ、お兄ちゃん。
今日撮影なくなったから、
帰りに買い物いきたいんだけど
ついてきてほしいな」
・・・!?
さ、さっきからなんなんだその声色は。
普段聞く女王のような声色ではない、
純度100%の売れっ子アイドルの声色。
猫をかぶってない舞香を知っている
俺からしたら逆にこえーよそっちの方が。
「お、おう。いいぞ。
あと、あんまり話さない方がいいんじゃ
ないか?変な噂たってもあれ、だし」
「え?
何でそんなこと言うのお兄ちゃん!
もしかして、私のこと、嫌い?」
えぇぇぇ。なんで目をうるうるさせてんの!?普段こんなこと言ったら
怒鳴られることはあれど、こんな反応が返ってくるとは夢にも思ってなかった。
周りも、ひどーい やら なんで? やら何やら
ガヤガヤしてきやがった。
くっそこいつ。アイドルパワー全開で外堀から埋めて来やがる・・・
「そのくらいにしてあげなよ舞香ちゃん。
俊くん困ってるじゃない。」
オロオロしていると後ろから凛々しい声がした。
誰かと思えば・・・ え?今の絵梨花ちゃん?
いつもの、のほほんとした雰囲気は微塵も感じさせないクールな喋り方で俺に助け舟を出してくれた。
「そんなことないですよ絵梨花センパイ。
お兄ちゃんは照れてるだけですよ。
こんな大勢に囲まれ慣れてないから。」
「そうかしら?側からみたら、
貴方の言動に困り果ててたように
見えたわ。ほら、もう少しで
一限が始まる時間よ。早く自分の
教室にかえりなさい。」
美少女アイドルと美人女優のこのやりとりの迫力に周りは凍りついていたが、一部生徒からドラマみたいという声もチラホラ出ている。
確かに、ドラマでよくある意中の人を取り合う感じに見えなくもないが勘違いしてはいけない。これはドラマではなく現実で
二人は恋愛すればすぐ話題に上がる芸能人
対する俺はイケメン俳優でもない、
ただの冴えない一般人。
なんなら舞香に関しては家族だ。
さっき小吉は羨ましいといったが、
俺からしてみれば全然嬉しくはない!
せめて、この二人が芸能人じゃなければ・・・って舞香はダメだろ!
何て愚考を重ねているうちに
一限がはじまる5分前のチャイムがなり、辺りの生徒は元の教室へともどっていくが、
渦中の二人は未だにバチバチと擬音がきこえてくるような迫力で互いを睨みつけている。
「ま、いいです。
じゃあお兄ちゃん。あとでね〜☆」
「お、おう。」
ヒラヒラと手を振りそう言い残すと、
舞香は一年の教室の方へと帰っていった。
絵梨花ちゃんも何事なかったかのように自分の席へと戻る。
「す、すげぇな。
さすが芸能人、口論の迫力がレベチ」
「これでも、羨ましいのか?」
「・・・上田さんに踏まれて
斉藤さんになぐさめられたい。」
うん。
小吉はおそらくMの素質があるのだろう。
それに俺からしたら正反対で、言うならば
舞香に踏まれて、
絵梨花ちゃんになぐさめられる
である。まぁ、それはおいといて
一限がはじまる。国語かぁ。眠いんだよな。
そんなことを思いつつ船を漕ぎそうになっていたら
ブブ
ポケットの携帯が揺れる。
幸い廊下側の一番奥の席ということもあり、
先生にはバレなかったようだ。
一体誰だ?
『俊くん。今日仕事ないから
もしよかったら一緒に帰らない?』
絵梨花ちゃんだ・・・
俺と正反対の窓側一番奥の席に座る彼女、
なんかそういえばチラチラと視線を感じなくもない。
と、とりあえず返すか。
『嬉しいけど、さすがにこの状況じゃ
それは厳しいんじゃないかな。』
『そっか。そうだよね。
ごめんね困らせちゃって。
じゃあ、今日の夜に
ご飯作りにいってもいい?』
これは彼女なりの譲歩ということだろうか、
まぁ、夜中で隣の部屋ならいっしょに帰るよりはいいか・・・
『うん。だけど誰にも見られないよう
気をつけてね。』
『うん!そうするね、ありがとう!
それじゃ20時頃いくね〜^_^』
かわいい・・・
はぁ、こんな彼女が欲しかった。
でもこの可愛い幼馴染は俺とは違う世界に身を置いている。彼女の経歴を、努力の結果を邪魔をすることなんて出来るはずがない。
「はぁ。なんで芸能人なんだよ・・・」
誰にも聞こえないような声量で
声にでてしまった。頭では綺麗事を並べたが、この気持ちをこれからも我慢できるのか俺には正直、定かではない。
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