オワリノハジマリ

 帝国は絶望に飲まれていた。

 領地は次々と占領され、民や兵士も次々と殺されていく。

 魔軍は圧倒的な力を持っているため勝てる見込みはなく、頼みの綱の勇者も敵の圧倒的な数の前には限界がある。

 そんな状況で民は、貴族は、そして兵士はみなどうしようもなく絶望していた。


「くそっ、どうすれば……!」


 勇者であるヨアヒムと天光も、絶望こそしないにすれ圧倒的な差の前にどうすればいいか分からなくなっていた。

 魔王を討つ。

 それが最善手なのは分かっている。だが、それもできずにここまで来てしまっているため、手がないのと同じであった。


「このままでは帝国は滅んでしまう、しかし、一体どうすれば……」


 帝国も勇者も、共に窮状に追い込まれていた。

 そんなときだった。


「はぁい、二人共」


 彼女が――富皇が、突如二人の目の前に現れたのは。


「なっ!?」

「富皇!?」


 二人はすぐさま臨戦態勢を取る。だが、彼女の様子からは戦いの意思は感じられなかった。


「ふふ、落ち着いて。今日は私、あなたたちにチャンスをあげようと思ってやって来たのよ」

「チャンス、だと……?」


 天光が聞き返す。富皇はコクリと頷く。


「ええ、これから宮城の前に魔城へと繋がる大きなゲートを開いてあげる。今は私と他二人の魔王、そして僅かな兵しかいないから攻めるなら今よ?」

「なっ、何を言って……?」


 富皇の言葉に動揺する二人。

 一方で富皇は、そんな二人の反応も予想の内だったように語り続ける。


「言っておくけど、嘘じゃないわよ。ああ、こちらから帝国には攻めないから安心して。それに、このゲートを開けること自体知っているのは私だけだから、誰かが勝手にゲートを通ることもないわ」

「……信じられるか、そもそも、そんなことして一体なんのメリットが貴様にある」


 ヨアヒムが疑い深い目で聞く。

 だが富皇は、そんな彼の反応も楽しむように笑った。


「ふふ、メリットね。普通に見ればないけれど……あるのよ。私には。退屈を潰せる、というね」

「何をバカな――」


 否定しようとするヨアヒム。だが、そんな彼の言葉を遮るように天光が手を横に出した。


「――分かった。貴様の言葉、信じよう」

「なっ!? 天光!?」

「そう。それでいいのよ。それじゃあ、楽しみにしているわよ、天光さん」


 そこまで言って富皇は消えた。そしてそれと同時に宮城の外から声が聞こえてくる。

 どうやら本当にゲートが現れたらしかった。


「……信じるのか? どう考えても罠だぞ!?」

「いや、私はやつを私の世界で何年も追い続けてきたから分かるんです。こういうときのやつの言葉には、嘘はありません。ヨアヒムさん、今すぐ兵の準備を」

「……分かった。俺は奴は信じないが、奴のことを知っているお前の事を信じよう」

「ありがとうございます……それと、万一の事を考えてヨアヒムさんはこちら側に残ってくれますか?」

「万一、か……分かった。でも、必ず帰ってこいよ」

「ええ、もちろん」


 二人はそう言って頷き合い、それぞれ分かれていった。

 そうして、ヨアヒムと天光に集められた兵はゲートの前に集まり、天光を先頭にしてゲートを渡っていったのだった。



   ◇◆◇◆◇



「なぜです……なぜです富皇様!」


 ノスフェラトゥは人類の大軍を前に、富皇に言い寄った。


「どうして人類をこの城に招き寄せたのですか!? もう少しで……もう少しで我ら魔族の世がなるというところで!」

「あら、今更私のやり方に口を出すと言うの? 今まで私達の言うことをすべて受けれいてきたあなたが。私達をこの世界に召喚しすべてを任せていたあなたが」

「……っ! そ、それとこれとは話が別です!」


 動揺と怒りが混ざった様子で詰めかけるノスフェラトゥに対し、やはり富皇はニタニタと笑みを浮かべるだけだった。

 それで、彼はそれ以上の追求が無意味だということを悟ってしまう。


「く……今はとにかく、あの人類達をなんとかしなければ!」

「集められるだけの兵を集めてくれ! アタシが前線で応戦する!」

「ならば私は後方からゾンビ兵を出そう」


 ノスフェラトゥ、淀美、奉政の三人が慌ただしくそう言いながらバルコニーを出ていく。

 一方で、富皇は楽しげに未だに人類の軍勢を眺めているのだった。



「全軍、突撃ーっ!」


 人類軍の指揮官が号令を出す。

 その号令に従って、何万もの兵が魔城に向かって突撃する。

 並み居る軍勢はまさに津波の如くであり、わずかしかいない魔軍を次々に飲み込んでいった。

 だが、その人類が魔城を目前に足を止めることになる。

 激しい弾幕に晒されたからだ。


「オラオラオラオラァ! 目に入るものはすべて撃て! 皆殺しだぁ!」


 迫りくる人類軍を前に戦っていたのは、淀美だった。

 淀美は彼女の部下と共に、彼女の力で創り出した戦車や戦闘機を地上から操り人類に応戦していた。

 その弾幕に人類軍はなかなか前に出ることができずにいた。


「ははははは! いくら数を束ねたところで、結局のところ優れた兵器を持っている方が勝つんだ!」


 淀美は笑いながら近代兵器を操り攻撃する。

 だが、人類も負けたままではいなかった。

「引くな! ここが命の散らしどころと思えっ!」

 人類の兵士は次々と倒れていきながらも、着実に戦線を前に進めていった。

 仲間が倒れても退かず、怯まず、前に進み続けた。


「戦闘機は私に任せてください! だあっ!」


 また、厄介な戦闘機は天光が次々に落としていった。

 それにより空の支援は失われ、淀美は地上での対応をセざるを得なくなった。

 どんどんと距離を詰められていく魔軍の前線。そしてそこで、それは起きた。


「淀美様! 弾が! 弾が尽きました!」

「こちらもです! もう残弾ゼロです!」

「なんだと!? ええい! 倉庫からありったけを持ってきたはずなのに!」


 前線を務める兵の弾が切れたのだ。

 結果、魔軍は弾幕を張ることができなくなり、唯一武器召喚できる淀美の攻撃に頼ることとなってしまった。

 そこを逃す人類軍ではなかった。

 人類軍は弾幕が切れた瞬間に一気に距離を詰めてきて、次々と魔軍の前線の兵を倒していった。


「淀美様! このままではまずいです! お逃げください!」

「ばかなっ!? 逃げるだって!? 技術格差が圧倒的にある状態で、逃げる!? そんな、そんなバカな事があってたまるか! まだだ! まだ私の武器と兵器があるっ!」


 淀美は逃げることなく攻撃を続けた。

 召喚した戦車の主砲や、空に浮かせた機関銃でなどである。

 それは見事に前線の人類の兵を倒していったが、しかし、着実に距離を詰められていることは間違いなかった。


「や……やめろ! 来るな!」


 淀美はついに下がりながら発砲するほどに追い詰められる。

 召喚する兵器はすべて天光に潰され、頼れるのは手に持った機関銃だけだった。

 その機関銃でも相手にできないほどに、人類の兵は圧倒的な数で迫っていた。迫ってくる人類の兵はすでに武器すら投げ捨て、ただただ近づいてくることだけを目的としていた。

 撃っても撃っても、次々に湧いて出る人類軍の兵。

 そして、ついに――


「あ……ああああああああああああああっ!?」


 一人の兵の拳が、淀美の顔を殴りつけた。

 それに続くように、どんどんと肉薄してくる人類の兵。

 やがて、淀美はその兵達に押し倒され、囲まれて踏まれ、殴られていった。


「がああああああああああああああっ!?」


 淀美の悲鳴が響き渡る。

 もはや彼女は武器も失い、ただ兵に袋叩きにされていた。


「お願いだ……せめて銃で、いや剣でもいい! 槍でもいいから、武器で殺してくれ!? そんな……そんな原始的な方法で殺されたくないいいいいいいいいっ!」


 それが彼女の断末魔だった。

 あれほど武器を愛し、その武器で人を殺めることを楽しんでいた淀美は、最後は武器すら使われず兵士達の手足によって殺されるのであった。



「奉政サマ……本当ニコレデイイノデショウカ?」


 奉政は魔城の中庭でリッチからそう聞かれた。

 彼女は今、輸送ヘリコプターの中に座っていた。


「いいのだ。この戦い、もはや勝ち目はない。いや、勝ったとしても魔軍はもはや組織として機能しない。宇喜多氏がそれを一人で壊してしまったからな。ならば私は、内通している帝国の貴族の元に逃げ隠れさせてもらう。魔軍で甘い蜜が吸えないなら、別の場所で吸うのみだ。なあに、せいぜい向こうでも人を裏から操って、楽しませてもらうさ。それよりも早く乗れ。私には戦う力はないからな」

「ハッ……」


 奉政はリッチをヘリに乗せると、ヘリを操縦しているリッチに指示を出し、ヘリを上空に飛ばし始めた。

 奉政は眼下に広がる光景を眺める。

 そこには、数多くの人類が魔軍の兵を倒している姿があった。


「まったく……せっかく魔族を一つの社会にまで育て上げようとしたところで忌々しい……残ったのは結局、私の能力と松永氏に創らせたこのヘリだけか……ま、命あっての物種だ。私が生きているだけでも、よしとするか――」


 彼女がそう鼻で笑いながら言った、そのときだった。


「……ん?」


 浮上を始めたヘリに向かって、何かを構える魔軍のドラゴニュート兵が見えたのだ。それは彼女が手塩にかけて育てた重臣の一人であった。

 彼の構えているもの。それは、ロケットランチャー――RPG7であった。

 一人のドラゴニュート兵が、奉政の行為を裏切りと見なし、逃すまいと魔軍の武器庫から武器を持ち出し、彼女を狙っていたのだ。


「なっ!? まずい、早く上昇を――」


 奉政がヘリのパイロットに叫んだときには、もう遅かった。

 地上からロケット弾が発射され、ヘリは撃墜された。

 そのまま奉政は、ヘリもろとも地上に落ち炎と鉄くずの中に消えた。

 彼女は、自らが甘い蜜を吸うために育てた者によって、命を落とした。



「でやああああああああああああああああああああああああっ!」

「ハハハハハハハハハハハハハハハハハハ! 殺す殺す殺すぅ!」


 ノスフェラトゥとシャーロットが、魔城の中、玉座の間の目の前で戦っていた。

 相手は、人類の兵、そして天光である。


「ふんっ! はっ!」


 天光は二人の攻撃を受け止め、弾き返す。


「があっ!?」

「きゃあっ!?」


 跳ね飛ばされた二人は、そのまま勢いよく壁にぶつかる。

 だが、それで諦める二人ではない。

 すぐさま体勢を整え、天光達に突撃してくる。


「私とて誇りあるヴァンパイアの一人! こんなところで人間相手に負けてたまるかぁっ!」

「殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺すぅ! ひゃははははははははは!」


 ノスフェラトゥは怒りながら素手で、シャーロットは笑い狂いながら剣で天光に攻撃を繰り出す。

 赤いオーラをまとったノスフェラトゥの一撃が、瞬間移動によって繰り返されるシャーロットの連撃が天光を襲う。


「……っ!」


 天光はその攻撃すべてをかわす。

 そして逆に天光は銃を引き抜き、迫りくるノスフェラトゥの心臓に銃口を突きつけた。


「なっ!?」

「貴様がこの世界に彼女らを召喚しなければ、こうはならなかった……その罪、命で贖え!」


 天光はその言葉と共に、銃の引き金を引く。

 すると、眩ゆい閃光がノスフェラトゥの心臓を貫いた。


「がっ……!? バカな、ヴァンパイアである私がそんな武器で……!? 私はただ、魔族の復興を……」


 ノスフェラトゥはその言葉を最後に、塵となって消えた。


「ははははははははははははは! 殺す! 殺すぅ!」


 ノスフェラトゥを倒したのもつかの間、シャーロットが天光に襲いかかる。

 だが、シャーロットの攻撃はすべて避けられ、大振りをしたシャーロット目掛けて天光が蹴りを繰り出す。


「ぐっ!?」


 蹴り飛ばされたシャーロットが飛んでいった先は、玉座の間の扉だった。

 シャーロットは扉にぶつかり、そのまま扉を開いていく。


「この先は、私一人で行きます。それが恐らく奴の望みであり、その障害はすべて排除されてしまうでしょうから……」


 天光は兵達にそう告げると、扉の先へと駆ける。

 彼女は思っていた。富皇はきっと、自分と決着をつけるためにこの戦いを起こしたのだと。ならば、あえてその考えに乗ることで、彼女を打倒できるチャンスが生まれると。

 そう考え、天光は玉座の間に足を踏み入れた。


「いらっしゃい、よく来たわね」


 その扉の向こう側、玉座には、富皇が座っていた。いつもどおりのいやらしい笑みを浮かべた彼女が、まるで友人を迎えるかのような口調で待っていた。


「富皇……!」


 天光が睨み銃を向ける。

 だがその間に、立ち上がったシャーロットが立ちふさがった。


「ははははは……! 殺す、殺すぅ……! 魔王様の障害となるものはすべて、殺すぅ……!」


 目を見開き、口を大きく開けて笑いながら言うその姿は完全に壊れており、天光は強い憐憫を感じた。


「…………」


 そんな二人の前に、富皇が玉座から立ち上がり歩み寄ってくる。

 すると――


「邪魔よ。私と彼女の間を邪魔しないで」


 と言って、富皇はシャーロットの背後から心臓を手で貫いたのだ。


「……あっ……?」


 シャーロットは最初何が起きたか分からず、自分の胸を見つめていた。

 だが、富皇に胸を貫かれたと認識すると、彼女は富皇を見て、


「ああ……富皇様に殺して頂けるなんて、光栄の極みですぅ……」


 と、恍惚とした顔で言ったのだ。


「…………」


 そのまま富皇が無言で手を引き抜くと、シャーロットは幸せそうな顔のまま床に倒れ込み、そのまま絶命した。

 洗脳された少女の、哀れな末路だった。


「貴様……なんてことを! 貴様自身がシャーロットを洗脳したというのに……!」


 天光は怒った。富皇の所業が許せなかった。

 だが、富皇はクスリと笑って言う。


「あら、私が私のおもちゃをどうしようと勝手でしょう? それに、あなただって彼女を殺す覚悟でいたでしょうから、結果としては変わりないじゃないの」

「だとしても……こんなことが許されていいわけがない!」


 天光は激高しながら富皇を睨む。

 睨まれた富皇は、にっこりと、しかしべたつくような笑みで言った。


「まったく、青臭い正義感ね……でもだからこそ、私を追い詰める役に選んであげたかいがあるわ」

「……選んだ、だと?」


 富皇の言葉に引っかかりを覚えた天光。


「どういうことだ、選んだとは……! 貴様は私と一対一で戦う享楽のためにこの戦いを起こしたのではないのか!?」


 故に、再度その言葉の意味を聞き返す。

 すると、富皇は言った。


「選んだのよ。私の終焉を導く者として、あなたをね。一回目は日本での逮捕。そして二回目は、この世界で私を直接殺す者として、ね」


 天光は唖然とした。

 確かに、今回の攻撃は富皇自らがゲートを開いたことによるものだった。だがそれはあくまで彼女が楽しむためであり、彼女自身が破滅を望んでいるものとは考えていなかったのだ。それも、二回目である。つまり、現代日本でも彼女はそうだったのだ。

 それが、解せなかった。


「お前はわざわざ、自分が死ぬために私にわざと逮捕されたと言うのか……?」

「ええ、そうよ。だって普通に考えたら今まで一万人以上もの人間を殺してきて捕まらなかった私が、日本の刑事一人に捕まるわけがないじゃない? すべては私が企んだ破滅へのシナリオだったのよ。分かる? あなたの行動とその結果はすべて、あなたじゃなく私の手のひらの上だったのよ」


 富皇は両手を広げ、その場でくるくると回り始めた。

 まるで、少女が気持ちのいい陽光にあたって心が浮ついているかのように。


「あなたは見事に私を現代日本で逮捕してくれたわ……そんなあなたがこちらの世界にもあらわれてくれたんですもの。これは、再びあなたに私の幕引きをさせるしかないじゃない? 本当に嬉しかったわぁ……あなた以外に、私が飽いたときの殺させられる人間はこの世界にいなかったんだから」

「そんなことのために……お前は、お前の率いていた魔族すら裏切ったのか……魔族だって、自分達の生き残りのために戦っていたんじゃないのか!? それを、お前は……!」

「あら、今更魔族の事も気にかけるの? 優しいのね……。でも、これはゲームなのよ。私にとっては命はゲームの中の消費物でしかない。私を含めてね。そして、ゲームには終わりが必要。どんなゲームも終わりがなくてはつまらない。だから私は終えるの。私の、命をね」

「……っ!!!!」


 天光は言葉にならない感情で胸が溢れさせていた。

 それは怒りでもあり悲しみでもあり、恐怖でもあった。

 様々な負の感情を同時にまぜこぜに抱く。そんな心境に天光はなっていた。


「さあ、ここまで事実を明かしたけどあなたはどうするのかしら? 私の思い通りにならないようここで私を殺すのを諦める? それならそれでいいわ。私はこの世界でのゲームをまた再開するだけだから」

「ふざ……けるな……」

「ん? なんだって?」

「ふざけるなと言っている! お前はここで私が殺す! それが例え、貴様の思い通りになったとしても、だ! 貴様は、生きてはいけない存在なんだっ!」


 天光はそう言って富皇の胸元目掛けて駆ける。


「ああ、それでこそ、あなたよ……! 豊臣天光ッッ!」


 それを、両腕を開いて受け止めるかのように待ちわびる富皇。

 直後、天光の腕は富皇の胸を貫き――


「がっはっ……!? ふ、ふふふ……ゲームオーバー……」


 富皇を、絶命させるのであった。



   ◇◆◇◆◇



 富皇を失った魔族は、急速にその力を失うことになる。

 各地に建てられた工場は潰され、魔王を失い士気が低下した魔族は次々と討ち取られた。

 その討伐には、勇者であるヨアヒムと天光の姿もあった。

 勇者である二人は魔族討伐で名を馳せ、また絶滅寸前にまで追いやられた人類の復興にも尽力した。

 リベゴッツの人類は、絶滅の危機を免れたのだ。



『……どうにか、事が済みましたか』


 リベゴッツの守護神は、一人安心したように言った。

 天界で意識が存在する彼――または彼女――は自分の世界なのに自分が手出しをできないことに歯がゆさを感じながらも事の顛末を見守っていた。

 そうして、人類が救済されたことに、守護神は安堵したのだ。


『これで私も安心してまた世界を見守る事ができる……あとは、彼女を元の世界に帰して――』


 守護神がそう思った、そのときだった。


「あら、そうはいかないんじゃないかしら?」


 突如、聞き覚えのある声が守護神に語りかけてきたのだ。

 それは、守護神と同じく精神に直接語りかける声だった。

 驚き守護神は声の主を探す。そして、見つけたのだ。驚くべき相手を。


『貴様は、宇喜多富皇……!?』

「ええ、そうよ」


 そこには、富皇がいた。守護神が招いた者しか存在できないはずの空間に、彼女がいたのだ。


『貴様、どうして……!?』

「うーん、どうやら私もなっちゃったみたいなのよねぇ、神様というやつに」

『なっ……!?』


 あまりに常軌を逸した富皇の発言。だが、その言葉に守護神は思い当たる節があった。


『まさか、第四位階……!?』

「ああ、やっぱりそれなのね。この世界でたくさん殺して負の感情を集めてきたけれど、最後にあなたが勇者として選んだ天光の負の感情と、魔王二人の死、そして魔王である私自身の死が第四位階へと到達するきっかけになった、といったところかしら? しかしまさか第四位階が神の座への道とは思ってもいなかったわ」


 富皇はいつものようなニヤつきで言う。

 それに驚いた神だったが、同時にある考えに思い至った。


『哀れだな、宇喜多富皇よ……貴様は命をゲームのコマにしたいてが、貴様が神になったことで貴様のゲームに終わりが訪れることはなくなった……貴様は永遠に退屈と言う名の飢えに苦しむのだ……!』

「ええ、どうやらそうみたいね……でも、その飢えを紛らわせないわけじゃあないのよ……?」

『なに……?』


 富皇の言葉を思わず聞き返す守護神。富皇はそんな守護神に向かって、邪な笑みを浮かべて言った。


「これから、私は神の力を使って他の世界に干渉して遊ぼうと思うの。より大きな力によって、世界規模の悲しみや苦しみ、絶望を生む新たなゲームをね……どうやら、異世界転移してから神になったことで、世界というくびきからも解放されたようだし……」

『なん、だと……!? そんなこと、許されるものか……! 神が過干渉によって世界を不幸にするなど……!』


「神様の決まりごとなんて知らないわよ。私は私のやりたいようにやらせてもらうわ。じゃないと、あなたの言う永遠の退屈に飲み込まれてしまうし。そして、まずその手始めに、私の力を試させてもらうわね……」


 そう言って富皇は、両手を軽く広げる。すると、守護神は自らの存在にすぐさま違和感を覚えた。


『こ、これは……!? 私の存在が、吸われている……!?』

「ああ、成功したのね。あなたの力を、私のものにしようと思って。どうやら、力は私の方が上のようね、神様」

『や、やめろ……! やめ……!』

「うるさいわね。消えなさい、無力な神よ」

『…………っ!?!?』


 それが、最後だった。リベゴッツの守護神はそれを最後に、富皇に存在を消されてしまったのだ。


「……ふむ、まあまあね」


 自分の力を確かめた富皇。

 彼女はそのままその空間に椅子を出現させ、そこに座り邪悪なる意思をもって言った。


「さて……最初はどの世界で遊ぼうかしら」

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【完結】極悪令嬢侵略記~殺人鬼ですが異世界に魔王として召喚されたので世界征服したいと思います~ 御船アイ @Narrenfreiheit

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