黒に染まる世界

 魔族の侵攻はとどまることを知らなかった。

 勇者を撃退し、やすやすと帝国の領地に侵入した魔族は、加速度的にその勢力圏を広げていった。

 その中でも、やはり淀美率いる航空部隊と奉政率いるゾンビ部隊の活躍は目覚ましいものがあった。


「はっはっは! こりゃあ一方的すぎるマンハントだな!」


 淀美は第二次大戦時の戦闘機を操り、次々に地上目標を掃討していった。

 ドラゴンよりも遥かに早く、固く、そして高高度で攻撃してくる戦闘機に人類は一切の太刀打ちが出来なかった。


「死んだ者はすべてゾンビに変えてしまえ! 我々の手駒を増やしていくのだ!」


 奉政のゾンビ部隊も地上を圧倒した。彼女のゾンビ兵は腐敗した肉体からは考えられない素早い動きを見せ、人々を襲った。

 またそれだけでなく、奉政は一部のゾンビ達に武器を使わせていた。

 銃器はさすがに扱えなかったが、斧や槍、剣といった単純な武器なら扱えるゾンビがいた。

 奉政はそういった高等なゾンビ達に武器を教え込み、突撃させた。

 さらにそれを地上部隊の魔法兵や戦車兵が支援する。

 地上においても魔軍の敵はいなかった。

 魔王が直属で指揮する部隊以外の活躍も目覚ましかった。


「人間共を一人たりとも逃すな! 掃討部隊の名にかけて皆殺しだ!」


 ウェアウルフのリーダー、グリスの率いる魔狼部隊は人間狩りにおいて更に成果を上げていた。

 彼らが強靭な爪や牙以外にも、銃や手榴弾と言った武器を使い始めたのが大きかった。

 普段はその体に備わったものを使い、場面に応じて近代兵器によっての殺戮を行う姿はまさに脅威であった。


「淀美様に遅れを取るな! 竜の誇りを示すのだ!」


 ガイウェル率いるドラゴニュート隊は、安定した活躍を見せていた。

 元々エリート部隊として運用されていた彼らは、魔軍がさらなる近代兵器を使い始めても扱いは変わらなかった。

 彼らには常に最新式の武器が与えられ、戦場をその翼で駆け巡っていた。

 空から機関銃やロケットランチャーを放ち、人類に的確な打撃を与えていた。


「ふぇふぇふぇ……ワシらの魔法に敵うものなしよ」


 ソルド達デーモンプリーストは、戦場の花形ではなかったが魔軍を影から支えていた。

 傷ついた兵が来れば治癒魔法で癒やし、敵の姿があればその強力な魔法で殲滅し、敵が砦に籠もっていれば大掛かりな呪いで呪殺した。

 その活躍は決して派手なものではなかったが、しかし確実に人類を追い詰めていた。


「さあわたくしのかわいい化け物達……人類を攻め滅ぼしなさい」


 アラクネのジル率いる人外の怪物達は、ソルド達デーモンプリーストとは反対に非常に戦場で目立っていた。

 それはそうだろう。その体が十数メートルはある巨人や触るものを溶かすスライムなど、そのすべてが人類に魔族の恐ろしさを知らしめていたのだから。

 彼女の指揮する魔族達はまさに人類の想像する恐ろしい魔族そのものであり、人々に根源的な恐怖を与えていた。

 そして、それら魔族の尋常ならざる力を更に後押ししていたのが、魔族に洗脳された勇者、シャーロットの存在だった。


「あーはっはっはっはっは! 人間共! 魔王様の糧となりなさい!」


 シャーロットは戦場をこのように大笑いしながら駆け巡り、次々と人々を殺めていった。

 その殺害数は、近代兵器を駆使する二人の魔王の指揮する部隊にも勝らずとも劣らない程であった。

 彼女は自慢の瞬間移動を駆使し、戦場の至るところに現れた。

「私から逃れられると思ってるの? おばかさん!」

 そして何より、洗脳されたことによりシャーロットは人殺しを心から楽しむようになっていた。それが、人類にとってさらなる痛打へとつながっていったのだった。


「あのシャーロット様があんなことを……!」

「信じられない……なんと恐ろしいのだ魔族は……!」

「ああ、神よどうかお救いください……」


 勇者であったシャーロットが人を裏切り魔族に洗脳されたことにより、人々はより深い絶望へと落ちていったのだ。

 その絶望がより魔族の力を強め、数を増やしていくことになり、増えた魔族が更に人を殺していく。

 魔族が強くなるだけの邪悪な循環が完成してしまっていたのだ。

 だが、そんな魔族が圧倒的な中で、すべてを司る富皇は一人、そんな戦場を見ながらつぶやくのだった。


「つまらないわね……」

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