第三位階
「みんなー、ただいまー」
魔族によって制圧された王国領土の城を利用した陣に、富皇が紫色のゲートを開いて帰ってきた。
彼女が現れた部屋にはちょうど奉政と淀美、そしてノスフェラトゥがいた。
「来たか、宇喜多氏……」
最初に顔を合わせた奉政は少し呆れたような顔をする。
「こちらは心配していたというのに……随分と楽しそうじゃないか」
「ええ、それは楽しいわよ。だって彼女が出てきたのよ? しかも勇者として。こんな心踊る事はないじゃないの」
「彼女……豊臣天光刑事か」
淀美がその名を呟く。すると奉政は苦虫を噛み潰したような顔に、富皇はとても嬉しそうな顔をした。
「まったく忌々しい……私が築き上げたものをすべて壊したあの女とまさかまたこの世界で顔を合わせるとは」
「ああ……まったくだな。さすがのアタシも驚いたよ」
「私は楽しくて仕方がないけれどね。また彼女と遊べるのは」
「あの……」
話している三人にノスフェラトゥが割り入ってきた。
彼はあからさまに疑問を表情に浮かべていた。
「皆様方はあの……四人目の勇者を知っておられるのですか? 密偵として仕込ませているドッペルゲンガー達からも入ってこなかった情報なのですが……」
「ああ、確かにそうね。いい、ノスフェラトゥ、彼女は私達と同じ世界の人間なのよ」
「魔王様方と……!?」
「ええ、そうなのよ。むしろノスフェラトゥ、私達が聞きたいのだけれど、どうやって彼女はこちらの世界にやって来たと思う? 彼女も誰かに召喚されたのかしら?」
驚くノスフェラトゥに対し富皇が聞き返す。
するとノスフェラトゥはしばらく悩むように「むぅ……」と顎を擦りながら部屋をくるくると回っていたが、そこで突如ふと気がついたように目を見開いた。
「もしや……この世界の守護神が働きかけているのでは……!?」
「守護神? そんなものがいるの?」
「ええ、神でありながらも人間に肩入れする憎き存在です。先の戦争で勇者が現れたのもその守護神の力によるものでした。あやつめ、また我らの邪魔を……!」
「ふぅーん、なるほどねぇ。だいたい分かったわ。つまり私達は神様相手にも戦争をしているのね。面白いじゃない」
ニッコリと笑いながら言う富皇。そんな彼女を見て、奉政が「はぁ……」と溜息をつく。
「まったく、宇喜多氏はそればかりだな。もっと物事を真面目に取れないのか」
「あら、私は真面目よ? 真面目に楽しんでるのよ」
「はぁ……」
再び溜息をつく奉政。
彼女はやれやれと手と頭を振り、呆れを態度で示していた。
だが奉政のそんなジェスチャーも富皇の笑顔を崩すことはなかった。
「ねぇ、そんなことより」
更に富皇はそこで話題を変えるように言った。
「さっきの戦いで、また多くの死と恐れを生み出したじゃない? それによって……私達、新しい力に目覚めたようよ?」
「……ああ、それは私も感じていた」
「アタシもだ、なんだか体の内から力が湧いてくるのを感じる」
「本当ですか!? 魔王様方!」
力を自覚する三人に驚きを見せるノスフェラトゥ。
彼に対し、富皇が頷く。
「ええ、私のうちでさらなる力の覚醒を感じるわ……以前にも増して、遥かに強力な力を震えるようになったようね、私は。他の二人はどう?」
「ああ……なかなか面白い事ができそうだぜ、アタシも」
「私もだ。相変わらず私自身に戦闘能力はないが、“この力”があれば戦場に出ても問題はないだろうな」
「おお……ではさっそくその力を試す意味でも、王国に最後の攻勢をしかけましょうぞ! そして、この王国も我ら魔族の手に落とすのです!」
「ええ、そうね。でも……」
富皇は人差し指を口に立て、パチリと片目を閉じてウィンクしながら言った。
「攻めるのは、王国だけじゃないわ。帝国も……よ」
◇◆◇◆◇
「……なるほど、あなたが異世界からやって来た勇者、という説明は理解したわ」
ソブゴ王国王都イラム。
そこから少し離れた街道を行く豪華な馬車の中でシャーロットは天光に向かって言った。
「でも、到底信じられる話じゃないわね……そもそも、あの埒外な魔王達もあなたと同じ異世界の人間だというのも信じられないわ」
「まあ、いきなり信じろというのが無理でしょうね……」
天光は苦笑しポリポリと頬をかく。
馬車にはシャーロットの他にヨアヒム、そして更にソブゴ王国女王であるアデライトも乗っていた。
「ですが、筋は通ります。異世界から召喚され人外の力を与えられた人間……それが魔王の正体。そして、守護神様が我々のために遣わされたのがあなた。それは古の勇者の誕生譚にも合致します」
「女王様、こんなどこの馬の骨かもしれない女の話を鵜呑みにするなんて……!」
「……いや、俺も彼女の話は信じるに値するものだと思う」
「ヨアヒム!?」
天光の話を肯定するヨアヒムに思わず声を上げるシャーロット。
だが、ヨアヒムはあくまで冷静な面持ちでいた。
「先の戦いで天光が使っていた武器……あれは魔族の使っていた未知の武器と同じものと考えられる。あれらが異世界の技術によって作られたものだとすれば、合点がいく」
「それは、そうだけれど……」
いまいち釈然としないと言った様子のシャーロット。
そんな彼女に、天光は真面目な表情を作って言う。
「私の出自に関しては信じてもらわなくても結構です。ですが、これだけは信じてください。私はあなた達と志を共にするもの。あの魔王、宇喜多富皇を討つためにやって来たのだと」
「うう……」
真摯な態度で言う天光。
そんな彼女の純粋な瞳を見て、シャーロットはむずむずとした顔になる。
「わ、分かったわよ! 信じてあげる! あなたの話! とりあえず、これからよろしくねっ!」
シャーロットはそう言うと天光に手を突き出した。
天光は最初その意味が分からなかったが、手を広げて顔を赤くする彼女の姿を見て察する。
彼女は、握手をしたいのだと。
「……ええ、よろしく」
天光はシャーロットの手を握り握手をする。
穏やかな表情で握手をする彼女に対し、シャーロットは口を一文字に結び緊張しているのを隠さなかった。
そんな二人を見て、アデライトは和やかな笑みを見せる。
「よかったですね、シャーロット。新しい友人ができて」
「は、はぁ!? じょ、女王様何言って……!」
「……しかし、今でも心が痛みますね。こうして王都を捨て逃げ去るなど」
馬車の窓から外を見ながら女王がふと言った。
その言葉に、先程までの穏やかな雰囲気から一転、張り詰めた空気になる。
「……仕方ありません。もはや王都に守備能力はない。そのまま籠城したとしてもすぐさま打ち破られ全滅がオチです。我ら勇者の力を総動員しても、崩壊の時間稼ぎにしかならなかったかと」
ヨアヒムが沈痛な面持ちで言う。
それに、天光も頷く。
「私が現れたことで、魔軍はきっと防備を固め堅実に攻めて来るようになるでしょう。また、帝国も危機にさらされることになると思われます。帝国は、魔軍との戦いに参加を表明しましたからね」
「俺が裏で魔族とつながっていた汚職貴族達を捕まえたからな……しかし、王国だけでなく帝国もとなると、魔族もいよいよ大陸制圧に王手だな……」
「ええ、なんとかして私達がそれを防がないと。そのためにも、女王様には帝国に亡命してもらわなければならないんです」
「分かっています。ですが、心はやはり痛むのです……」
「女王様……」
重々しい空気が馬車を支配し、中にいた四人が言葉を失った。
そんなときだった。
「っ!? 何か、来る……!」
天光が、異変を感じ急に走る馬車の外、馬車の屋根の上に出たのだ。
「どうしたの、天光!?」
シャーロット達は未だ気づいていない。だが、天光は気づいていた。
何らかの悪意が迫ってきていると。
「……っ!? みんな、伏せろーっ!」
そして、“ソレ”に気づいた天光は、大声で叫び馬車を守るように空に向けてシールドを貼った。
刹那、それは起こった。
バララララという音と共に、地面が突如小さく爆ぜ、馬車を護衛していた騎兵が次々に倒れたのだ。
「ぐっ……!」
天光のシールドにもヒビが入る。馬車は急停止せざるをえなかった。
その事態にシャーロットとヨアヒムも外に出る。
二人は、そこで見た。空からの、その脅威を。
「何よ、あれは……!?」
「鉄の竜か……!?」
「いや、違う。あれは……戦闘機だ!」
女王を乗せた馬車の隊列を襲ったものの正体。それは、レシプロ戦闘機――スピリットファイアであった。
三機のスピリットファイアが編隊を組み、天光達一行を襲ったのだ。
そのスピリットファイアに乗っているのはもちろん――
「――ハッハッハッハアアアアアアアア! 航空戦力ってのは最高だなぁ!」
淀美であった。彼女は他にグレムリンを乗せたスピリットファイアを先導し、地上に機銃で攻撃を与えていたのだ。
「な、何よアレ!? あんなの反則でしょ!?」
「速度も攻撃性も竜とは段違いだ……! いつの間にあんなものを……!」
「……もしや、人の死と恐怖によって魔王達はさらなる力を……!?」
天光のその読みは当たっていた。
淀美の新たに得た力。それはついに乗り物としての兵器を生み出し、操れるようになったことであった。
淀美はそれでスピリットファイアを生み出し、攻撃を仕掛けてきたのだ。
「ハハハハハハ! 流石に最新鋭の戦闘機は無理だったが、第二次大戦の戦闘機なら頭にしっかり入ってるんでなぁ! 作り放題よ! はっはっは!」
上機嫌に攻撃を仕掛けてくる淀美。
その苛烈な攻撃に防戦一方となる天光達。
だが、敵はそれだけではなかった。
「ウ……アアア……」
突如聞こえる、悲痛なうめき声。それは、先程まで動揺していた他の兵士達の声だった。
「ど、どうしたのよ。あなた達……」
シャーロットが兵士達に聞く。すると、兵士達は――
「――ガアアアアアアアアアア!」
突如三人と王女に向かって襲いかかってきたのだ。
「きゃあっ!?」
シャーロット達に向かって槍や剣を振るってくる兵士達。
それをまた天光がバリアで防ぐ。
「くっ! もしや操られているのか!? 一体だれが……はっ、もしやこれも魔王が……!?」
ヨアヒムが気づく。それもまた、正解だった。
兵士達を操っている者。それははるか後方にいる奉政であった。
「洗脳能力の拡大……まさかここまでとはな。さて、別部隊が帝国へ攻め入っている間に、女王を始末させてもらうとするか」
奉政はあくまで無表情で兵士達を操り三人と女王を攻める。
更に空からは淀美が飛行隊を率いて攻めてくる。
勇者と女王一行は今、絶体絶命のピンチに陥っていた。
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