魔王の脅威
「魔王……今日こそあなたを討ってみせる!」
富皇と対峙しながら剣をぎゅっと握りながら叫ぶシャーロット。
彼女の横に、同じく武器を構えたエマニュエルが並ぶ。
「おっと、独り占めはよくないぜシャーロット。この俺にも活躍させてくれよ?」
二本の斧を構え不敵に笑うエマニュエル。
そんな二人を見て、富皇は楽しそうに笑う。
「クククク……面白そうだから第二位階で手にいれた力を使って来てみれば……なかなかに楽しませてくれそうね……」
戦場でありながら一瞬の静寂が三人を包む。
そんな中、先に動いたのは勇者二人だった。
「はああああああああああああああっ!」
「だああああああああああああああっ!」
シャーロットとエマニュエルが、同時に駆けたのだ。
二人は一直線に富皇目掛けて走り、そして剣と斧を同時に振り下ろした。
「っと!」
その二人の一撃を、バク宙で避ける富皇。
二人の刃が地面に振り下ろされると同時に着地すると、すかさず二人に襲いかかる。
「ちっ!」
「とっ!」
富皇の左手が、空を薙ぐ。
彼女の一撃を二人が避けたのだ。
シャーロットとエマニュエルはそのまま次の一撃を富皇目掛けて放つ。
斧と剣による横薙ぎである。
が、それも富皇は避ける。
避けて、次に放つのはエマニュエル目掛けて縦に振り下ろす右腕。
「ぐっ!」
エマニュエルはそれを避けられず、斧と体を光らせながら二本の斧を交差させ受け止める。
ズン! という衝撃が辺り一帯に響きエマニュエルは足を地面にめり込ませる。
「ぐう……! 相変わらずなんつうパワーだ……!」
「あなたこそ、人とは思えない防御力ね」
右手と斧を鍔迫合わせながら言葉を交わすエマニュエルと富皇。
「……っ!」
その背後を、瞬間移動して狙うシャーロット。
彼女の刃が、富皇の背後で振るわれる。
だが富皇はその刃を左手で受ける。
すると、刃は富皇の左手によって止められた。
「なっ……!?」
「ふふっ、その程度?」
困惑するシャーロットを、富皇は蹴り飛ばす。
「がっ……!?」
蹴られたシャーロットは、後方へと大きく吹き飛び、地面をごろごろと転がる。
「シャーロット!」
「あら、他人を心配している場合じゃなくてよ?」
富皇はそう言うと、右手を一度引き、もう一度放つ。
と、そのとき右手が紫色に輝いたかと思うと、富皇の右手から激しい衝撃波が放たれたのだ。
「何っ!? ぐふっ!?」
富皇の放った衝撃波の威力は凄まじく、エマニュエルを吹き飛ばした。
彼はなんとか地面に転がることなく踏ん張って立つが、そのまま後ろに飛ばされた彼の顔からは余裕が消えていた。
「なんつう一撃だ……お前、前回やり合ったときは手の内を隠してやがったな……!」
「ええ、まあね。それで、どうするのかしら? 二人がかりでもあなた達に私に勝ち目はなさそうだけれど?」
「……それでもっ!」
「俺達はっ……!」
立ち上がるシャーロット。
斧を握りしめるエマニュエル。
『戦う……っ!』
そうして彼らは再び挑む。
シャーロットは瞬間移動を繰り返し。
エマニュエルは能力強化を駆使し。
富皇に立ち向かう。
だが、その圧倒的暴力に二人は刃を彼女に当てることすらできなくなっていた。
「ほらほらどうしたのかしらっ!? もっと、もっと私を楽しませなさいっ!」
「舐めやがって……!」
大きく振るわれるエマニュエルの斧。
だが、その一撃は富皇にとっては隙だらけの一撃であり、すべてはかわされ逆に攻撃を食らわされてしまう。
「うぐっ……!?」
「エマニュエルっ! くっ、やってやるわよ……!」
次々に空間を移動し、不意打ちに不意打ちを重ねるシャーロット。
だが、彼女のその攻撃も避けられ、または防がれる。
彼女の攻撃には力が足りなかった。富皇に対して致命打とはなり得なかったのだ。
そんな彼女を、富皇は弄ぶ。
致命打を与えず、攻撃を避け、撫でるような攻撃ばかりしてくる。
それにより徐々に傷を増やしていくシャーロット。
彼女の体力はゆっくりと削られていった。
やがて、エマニュエルとシャーロットは共に肩で息をするほどになっていた。
「あら、最初の威勢はどこへいったのかしら? すっかり疲弊しているようだけれど?」
そんな二人に対し、富皇は一切笑みを崩さない。
「なんの、まだまだ……!」
「ええ、あなたを討つまで私達は、折れない……!」
「そう……」
富皇は二人の言葉を聞き流すように言う。
そんな彼女から、ふっと笑顔が消えた。
「つまらない。つまらないわ、あなた達」
「何……!?」
富皇からの突然の言葉。それはエマニュエルを困惑させ、シャーロットに過去を思い出させる。
「あなた……! また……!」
「つまらないのよ。あなた達との遊びも悪くはなかったけど、結局飽きが来てしまうのよね。ここで終わりにしてしまいましょう。ええ、そうしましょう」
そうして富皇が構える。それまでとはまったく違った、おぞましい雰囲気を放ちながら彼女が構える。
富皇のその姿に、エマニュエルとシャーロットは本能で察知する。
これは、まずい、と。
「エマニュエルっ!」
「分かってる!」
二人はとっさに回避の姿勢を取る。
完全な受けの姿勢。これまで攻撃の手を休めなかった二人が見せた、初めての姿だった。
「さあ、これで終わりよ――」
そうして富皇が、次の一撃を出そうとした、そのときだった。
「――悪いが、そうはいかない」
突然聞こえたその言葉と共に、富皇の周りが突如次々と爆発したのだ。
「ほう……!?」
その不意打ちに、富皇の体勢が崩れる。よって、彼女が放とうとしていた一撃は不発に終わった。
「今のはっ……!?」
シャーロットとエマニュエルは辺りを見回す。
先程の一撃に、二人は見覚えがあった。そして、二人は見つける。よく知った、その姿を。空の上に浮いている、その男を。
「あなたは……!?」
「ヨアヒム……!? どうしてここに……!?」
空の上で黒いマントをはためかせるその男の名は、ヨアヒム・フィッツェンハーゲン。第三の人類国家、ファード帝国の勇者である。
「二人共、ひどいざまだな。だが安心しろ……この戦場は、俺達が勝利を収める。帝国の力によってな……」
「帝国の……!?」
彼の言葉にエマニュエルが反応する。
それに答えるかのように、ヨアヒムが指をさす。その方向を見ると、そこには大軍がこちらにやって来ているのが見えた。
黒い甲冑をまとい旗をなびかせる、帝国の軍勢だ。
「ファード帝国、これより魔族討伐のため、ソブゴ王国を支援する!」
ヨアヒムの言葉が、高らかに戦場に響いた。
帝国の戦争介入である。
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