魔なる企み

「じゃあ、状況を整理しましょう」


 魔城にある作戦会議室にて、テーブルを挟んで椅子に座り向かい合う三人を代表して富皇が言った。


「とりあえず火薬製造の目処は立ったよ。富皇が沢山の獣皮を確保してくれたおかげで、必要な材料は全部揃った。硝石、硫酸、獣皮、木片、塩素にカルシウムシアナミド……これらを魔族の錬金術師であるデーモンアルケミストや魔術師であるデーモンプリースト達を労働力として使ってニトログリセリン、ニトロセルロース、ニトログアニジンにする。そうすれば、無煙火薬の原料が揃うってわけだ」


 答えたのは淀美である。彼女の片手には大量の羊皮紙が握られていた。


「そして根幹たる火薬を作ったあとは、武器製造の場を作る。それは私の出番だな。金属は鉱山を見つけたから確保済み。鉄を溶かす高炉の火力もとりあえず今は魔術で解決済み。まったく魔術さまさまだな。そして私の『鬼謀』によって淀美から教えられた技術や知識を他の魔物……最たる労働力のゴブリンにそれらに植え付ける。ゴブリンにも様々な種類がいて、鍛冶ができる連中がいるからな。そうして製造ラインを生成し、武器を生産する体制を作り上げる」


 続いて奉政が言う。奉政は淀美から羊皮紙を受け取り、それらに目を通していた。

 それは、武器の設計図であった。


「二人共よくやったわ。まったく、ノーマンズランドと言いながらも案外資源が豊富なのは助かったわね。いや、むしろ人がいないからこそ資源があるのか……ともかく、あとはゆっくりと武器を製造して尖兵達に持たせていくわけだけど……まあゆっくりとやっていきましょう。幸い、私達は老いることはないのだから」

「そうだな。これはいわば国造りだ。性急にしては事を仕損じる」

「だな。銃を作るにしても弾を作るにしても、今の労働力じゃ一気に大量生産ってわけにもいかなそうだしな」


 頷いて言う奉政と淀美。

 次に、富皇はテーブルに地図を広げた。ノーマンズランドから先に広がる、人間界の地図である。


「じゃあ次は、侵略する人間世界の把握ね。このノーマンズランドのある大陸には、三つの国家が並び立っているらしいわね、ノスフェラトゥ」

「はっ、その通りでございます」


 富皇の言葉に、部屋の隅で控えていたノスフェラトゥが答える。


「それがこの『スピリ教国』『ソブゴ王国』『ファード帝国』の三国でございます」


 そしてノスフェラトゥは、三人の近くに寄り、地図を指しながら言った。


「このノーマンズランドの東側の境に接しているのがスピリ教国であり、スピリ教国のさらに東北にファード帝国、東南にソブゴ王国となっております」

「ふむ……となると、アタシ達が最初に侵略するのは必然的にスピリ教国ってことになるな」

「そうだな。海路を使えば別の国から侵攻できるかもしれんが、わざわざそんな事をする必要はないし、そもそもこのノーマンズランドの海は荒れていて普通の船は使用できそうもない。穏やかな港の確保も、いずれ必要になってくるだろうな」

「そうね。それじゃあノスフェラトゥ、引き続きスピリ教国の説明をお願い」

「はっ」


 ノスフェラトゥは富皇の言葉に頭を下げて答えた。


「スピリ教国は大陸で最大規模を誇る一神教『トリニト教』を国教とする国であり、法王たるホルブルック家によって収められている国家であります。スピリ教国は首都ユディアを含め八つの領地に分かれており、我らが魔族の領域ノーマンズランドと接しているのは先の大戦の英雄たるエドワード公爵家の末裔が収めるエドワード領になります」

「なるほどね。それぞれの国や軍備、とりわけエドワード領がどういう場所かは分かるかしら?」

「いえ、それが魔族としてこのノーマンズランドに押し込められて二百年経ちますので、外がどうなっているかは今のような概要ぐらいしか……」

「そう。分かったわ。もういいわよ、ありがとう」

「はい」


 そうしてノスフェラトゥを下げる富皇。そして、三人は地図を再び見つめる。


「相手の国力が分からないのは痛いな……戦争を仕掛けるに当たって、そこは非常に重要だ」

「だな。半端な状態で攻めても、痛い目を見るのがオチだ」

「あら、だったら自分達で確かめればいいのよ」


 悩む二人に、富皇は言う。

 彼女のその言葉に、淀美と奉政は一瞬驚きを見せる。


「調べるって……そう簡単に行くのか?」

「大丈夫よ。それができる、面白い魔族だって見つけたしね」

「面白い魔族か……それはどういった魔族なんだ?」

「ええ、それはね――」


 そうして富皇は語る。彼女の魔族を使った恐るべき計画を。人の理から離れた作戦を。

 悪魔のような企みが今、動き出そうとしていた……。

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