2-10
移動しながらブリュッサムは、並行して走ってくるキャサリンに、時折、後ろを振り返りながら壕の近くに設置された建物へと急いでいた。
「あの巨躯の人間は、地下通路にいた巨躯の仲間とみていい」
キャサリンは、驚いていた。地下通路の都市遺跡にいた巨躯のことをどうして知っているのか。
「教官は地下通路に巨躯がいることを?」
「昔から知っていたよ。だが、太刀打ちができずにいた。ハリーたちが倒したということを知ったときには驚いたさ」
キャサリンは、ハリーから
しばらくすると林の奥の方に、高さ数メートルの建造物の影がみえ始めた。だんだん近づくにつれ、ブリュッサムは足の速度を緩めはじめた。
「いいか、キャサリン。少人数で戦うには、少人数なりの闘い方をしなければならない」
ふたりは砦の建物の扉にはいり、階段を上り始める。
「致命的な弱点に相当するところはないにしても、奴らの移動を妨げることを重点的に行うべきだ」
「移動を妨げる? つまり、通常の人間でも弱点になる踝や踵を狙うということですか?」
地下通路にいた巨躯も移動はなかったにせよ、ハリーたちと連携した際に、かかと、腰、背中、そして視力を奪う眼を重点的に攻撃したことを彼女は憶えていた。
ブリュッサムは納得の表情でキャサリンを見た。
「さすがね。君も地下の巨躯と戦っただけのことはある。だが、地下のと違い地上の巨躯は、移動し素早い面もあるからトラップにかけるのは一筋縄ではいかない場合も多々あるんだ!」
ブリュッサムの言った言葉が終わろうとするとき、爆発音が聞こえてきた。地雷の罠が発動したようであった。屋上に到達したふたりは、訓練場の入口付近にみえる見張り塔の近くから爆発の煙が上がるのをながめる。
ブリュッサムはもっていたスコープを手に巨躯の動きを観察した。巨躯のよろめく姿から、所々に、黒煙にまみれた黒い部分が確認できた。キャサリンも裸眼で巨躯のよろめきを確認していた。すぐに、屋上におかれた投槍機—――数本の長い槍が並びボウガン要領で遠くの的に発射される台に載っている――移動を始めた。巨躯の通るであろう方向を見据え、発射台を設置する。移動させる際に、ブリュッサムは、槍の先端に何かを塗り始める。植物樹脂のような匂いが、キャサリンの鼻に刺さってきた。
槍の先端に塗られたものが彼女には見当がついていた。ただ単に、巨躯の足を狙うだけでなく、状態異常を起こさせるのだと直感でおもった。
強い地鳴りがあたりに響いてくる。巨躯が近づいてくるようであった。
砦の扉を開く音が、キャサリンの耳に入ってくる。
「教官!」
声を上げ、屋上にミッチェルをはじめ数人の生徒がやってきた。
「上手くいきました。今、動いている暴走した狂気人間は、ダメージを負っています。それと、ここに来るまでの間に電流罠を仕掛けておきました。これで倒したも同然です」
「うむ、だが油断はするな。最後まで気を引き締めておけ! いつ、いかなる時も緊張感を持っておくんだ!」
「はい!」
一同は緩む顔にならず、投槍機の配置を始める。一致団結の状況をみたキャサリンは、シェルター内でハリーたちと訓練をしてきたときのことを思い出していた。エルシェントやホルクの指示で、ハリーたち、彼らが一致団結して訓練をこなしてきたのを間近で見守っていたのを憶えていた。
近くの草木の方で、フラッシュがおこる。巨躯に接触して電流罠が作動したようだった。なおもよろめきながら狂気人間は、砦へと近づいてきていた。
「いいか、みんな。姿を現した時に、脚に向けて槍を放て」
「はい!」
投槍機の前で準備をし、現れるのを待った。地鳴りと共に砦に向けて
「はなてっ!」
槍が一斉に飛び出し、暴走人間の左脚にめがけ突きささった。断末魔に似た声を発し、よろめき倒れた。
二弾目の槍が、倒れた時に背中と腰に三発目の槍が、首筋にあたり貫通し、四つん這いのまま動かなくなった。
キャサリンをはじめとして訓練生たちは歓喜に沸いた。
訓練場に平穏が訪れた。訓練生たちは巨躯の侵入に壊れたものを撤去し、復旧に取り掛かる。キャサリンも参加することになった。
三日後、巨躯からの侵入による復旧が一段落し、ブリュッサムをはじめとする合同訓練は幕を閉じた。
防衛本部に戻ったキャサリンは、リンの帰還を待つ間、トラップ技術と体力づくりに専念する。
そして、数か月が過ぎようとしていた。
11へつづく
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