1-12
手前に座っていた男が、拳銃らしきものを取り出そうとした瞬間、リンの太腿に装着していた投擲物が手前と奥側にいた男にあたり瞬間、ふたりの男は口から泡を吹き気絶した。ロッジには一体何が起こったのか、目を
「おねえちゃん、スゴォイ!」
いつの間にか立っていたリンがロッジに振り向き叫んだ。
「ロッジ、何か縛るものを探してこい。はやくっ!」
呆然と立ちすくむロッジに、
「オイ、聞いているのか?」
リンが顎に蹴りを入れようとする。当たる寸前で彼女が脚を止めた。蹴りの風圧に気づき、ロッジは玄関先へと急いで捜しにいった。
「おねえちゃん」
「怪我、してない? 大丈夫?」
「うん」
リニアが床にあるなにかを注視して首を動かさずに立ちすくんでいた。奇妙におもったリンが彼女と同じように床のなにかを見つめる。
興味を示し首をもたげ、リニアが指を差した。キッチンを入ったすぐの場所に床が盛り上がった小さい何かがあった。地下への入り口だった。
ロープを持って戻ってきたロッジが、キッチンの床にある取っ手を持ち上げているリンをみた。
「地下に降りてみる。リニアを……」
「おねえちゃん」
ぐずつく表情をリンは、すぐ感じ取った。しかたないとばかりにため息を吐いた。
ライトスティックを持ち、隣には、リニアがしゃがんで床の下を眺めていた。
「そういうことだから。ロッジ、あのソファに気絶している男たちを縛っといて」
振り向いたリンは、床の下へと消えていく。
リニアも彼女の真似をして、
「しばっといて、ね」
明るい声でロッジに笑顔を見せた。ガックリと、うなだれて彼はリビングへと戻っていった。
ゆっくりとライトスティックを掲げ、周囲の状況を照らした。ときおり、階段を気をつけながら降りていく。
「リニア、階段の歩幅に気をつけて。狭いから滑らないよう……」
に、と言いかけたとき、リンはバランスを崩し、両端にある壁にもたれかかった。
「おねえちゃんも……」
ね、とリンの腰から顔を出して笑顔になった。リニアの無邪気な瞳に癒されていた。
ライトスティックを正面に照らしていると目の前にふるびたドアが現れる。訝しくリニアが、首を右に横に動かし眺めていた。錆のみえるノブをまわした。
「おねえちゃん」
ドアが開いた。暗がりの続く廊下が奥の方へと続いている。
どこに続いているのだろうか、しばらく歩いていたリンは、また下に降りる階段があることに気づいた。
「また、下に続いているね」
薄暗い中で、リニアがリンに見上げて話しかけてきた。
階段の下を覗いたリンが、薄明かりが灯っているのをたしかめた。
「リニア、離れないで」
「うん」
ゆっくりと階段を下に降り、ほのかに明かりの灯る場所へと移動した。微かだが叫ぶ声がリンの耳に響いてくる。訴えかけているようだった。薄暗い中に人影が浮かんだ。
「おい、そこに誰かいるのか」
鎖の音が僅かながらにこだまする。拘束され動けないようであった。
男の声でリンには聞き覚えのある声だった。
「いたら返事をしてくれ。私は正気だ。感染なんかしていない!」
ライトスティックに眩しさを感じ男は、光を遮る仕草をする。彼女の姿を確かめた男は、次の瞬間叫んでいた。
「リン! リンではないかっ!」
細ふちの眼鏡を彼女の顔の間近に近づける。口ひげ、顎髭を携えたフォーイック・ライン博士であった。
「博士、なぜこんなところに? 待って下さい。いま鎖を」
「上にいたふたりの男はどうした? 最初に科学者だと名乗ったのだが、一向に信じてもらえなかったのだ」
「足蹴りを喰らわせて気絶してます」
「上にいた二人は、強い意志で科学者を片っ端から軟禁状態にしている。お前たちも感じたと思うが、ドームシェルター内一部の地域で特殊なヴィルスが撒かれた」
「それで、こんなところに監禁されたのですか? 例のファイドマン博士の?」
ライン博士は首を振り否定した。
とにかく、鎖を外さなければ、リンは必死にライン博士の繋がれている鎖を解いた。
傍らで見守るリニアは、彼女に
「いいや、彼らは少なくともファイドマンに抵抗している組織とみていい。ヴィルスを撒いた犯人と、中枢神経を麻痺させる注射を打つように誘導した人物を特定しようと動いている組織だ。だが、ドームシェルター内で放置はできない」
「ホルクさんは? 一緒ではなかったのですか?」
「彼なら、ヴェイクとかいう青年がきて、アルファシェルターに引き返した」
ライン博士の肩をもち、小柄な隊長は彼を立たせた。
「リン、やっとのことで見つけたぞ。希望を捨てずにいて正解だった」
ラインの希望に満ちた表情に、リンは訝しく顔をかたむけた。
「あの大災害の中で、やはり各地に散らばってしまい、おれたちはこの時代に取り残されてしまった」
興奮気味に目を丸くしリンが博士に問いただす。
「あの、鉱物が見つかったのですか?」
「とうとう、見つけたんだよ。いや、まだ手にしていないから見つけたというのは語弊があるか。だが、確実だ」
ライン博士も興奮気味にいった。
「博士、とりあえず、ここを出ましょう。話は後ほど聞きます」
「おねえ……ちゃん」
隣にいたリニアが
「リニア! リニア、どうしたの?」
寄り添ったリンが、リニアの顔色がひどく悪いことに気づく。
「この子は?」
「ここに来る前にトグルに追われていたのを助けた子供です」
「例のヴィルスによる影響かもしれない。とにかく上にいって対策を考えよう」
リンはリニアの身体が次第に冷たくなっていくことに気づく。目元や口元も血の気がなくなり、血色が悪くなっていく。どうすることもできない彼女は落ち着きを失くしていた。
「リニア、しっかり」
突然のライトスティックの淡く緑色に光る光線が、リンに当たる。まぶしさのあまりリンは、光を手で遮った。
「隊長、無事ですか?」
ロッジの声だった。
「ロッジ、丁度いいところに。リニアを上まで負ぶって連れてって」
リンはライン博士の肩を担ぎ、地下室をあとにした。
13へつづく
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