1-11
歩いてきたのは、ふたりの男であった。ものすごい勢いでリニアを見るなり、近寄ってくる。背には大きな布袋を大事そうに背負っていた。
「ここにいたのか、リニア」
「君たちがリニアを保護していたのか?」
怯える彼女をリンは一瞥すると、
「あの、リニアとはどういう?」
「その子の父親に保護を頼まれたのだ」
「保護だって?」
横からロッジがいぶかしい表情で彼らをみた。
「君たちは、たしか、遠征隊の詰め所にいた者たちだな」
「ええ、そうですけど、このドームシェルターでいったい何が起こったのですか?」
二人の男は見合わせる。
「聞いていないのか?」
「着いたばかりだったので」
男たちは納得の表情になり、
「
怪しみながらもリンは、ひとまず状況を知る必要があるようだと判断し、ふたりの男のいう通り、あとについていくことにした。
依然として怯える少女にリンは違和感をもった。明らかに男たちに対してだった。
「ロッジ、油断はしないでよ」
リンは硬い表情のまま、後ろからついてくるロッジに小声でいった。
こじんまりとした古臭さの残る家屋が、大通りから少し外れた場所にあった。小さい家門が設置されており、庭が広がっている。そこに土はなくレンガで敷き詰められていた。家門をくぐり、リンたちは家屋へと入った。
中に入ると生活感のある家具や調度品が整えられている。元の主人はすでにいない様子だった。ふたりの男もなんらかの理由で滞在している風にみえた。避難してきた人はおらず、五人の靴音だけがこだましていた。
リンが靴を直角にし、床を叩いた。彼女は妙だ、と感じた。
(生活感はあるのに……なにか変だ)
ふたりの男は、リビングのある部屋へとむかい、柔らかいソファへと腰を下ろした。どうぞ、手を差し伸べ、リンたちに座るよう促した。
リンは柔らかい目をしながらも、どこか警戒を緩めない表情になる。リニアとロッジを後ろに下がらせ、ソファに浅く座った。
「それで、いったいドームシェルターの中で何が起こったのですか?」
「一週間前のことなんだ。ドームシェルター内で正体不明のヴィルスが撒かれたらしい」
男が淡々と話し始めた。
「正体不明だって?」
ロッジが大きな声を上げた。
「さいわい、一部の住人にしか感染はみられなかった」
もう一人の男が冷静に答えた。
「いったい誰がヴィルスを? 誰がこんなことを!」
今度はリンが叫んだ。彼女には数ヶ月前の情況がありありと浮かんでくる。
彼女の興奮する様子とは異なり男たちは冷静な顔つきだった。
「だれの指示か、は今のところ不明だ」
「……」
「我々はある組織に属しているが、確たる証拠となるものはすべて排除するというやり方から、科学者だと推測した。そして、今、ここに残っている科学者を人海戦術で拘束してそれぞれに調査をしている」
「科学者……?」
リンは冷静に判断し、ふたりの男を睨むようにみつめる。
「なるほど、おおかたの筋書きは読めた。ここに呼び寄せたのは、ボクを遠征隊の隊長と知って[何かの調査]という確信と事情を知るためか?」
「さすがは隊長様。地下通路から帰ってこれただけのことはある。よほど情報がほしかった、というところか? 拘束した科学者のことやその子供のことを」
男は憎々しくも鋭い眼差しを向けた。
リンはリニアに一瞥すると、鼻でわらった。
「生憎この子は、着いて早々にドームシェルターの住人に襲われたところを助けたんだ! あんたたちが素性を知っていると期待していたが、この子の怯えようからして違ったみたいだな」
「リニアはヴィルスにかかっている可能性がある。症状が出る前に抑制剤を打っておく必要があるんだ!」
「なぜ、そう言い切れるんだ! あんたたちの組織は、この子とどういう繋がりがあるんだ!」
ロッジが二人の男にどなり散らした。
「現段階ではなんとも言えない。確たる証明ができないからだ」
冷静にリンはロッジの声を制した。
「なら、あんたたちが拘束している科学者を連れて来てくれ!」
「それもできない相談だ。細かく調査をしないまま、遠征隊隊長に引き渡すわけにはいかないのだ」
このままでは、八方塞がりで進展が見られない、とリンは一か八かの賭けにでた。
「床の音からして地下があることはたしかだ。おそらくかなりデカい地下空間があるとみた」
懐からなにかを取りだす仕草をした。
「ボクはこれでも科学者の助手をしたことがあるくらいなんだ。この家くらい吹っ飛ばしてどうとでもなる」
「そんなことをして、科学者の拘束を解くとでも?」
直径10センチはありそうなブラックボールを取り出した。
「試してみるか?」
リンは男たちに不敵の笑いをみせた。
12へつづく
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