第二話 ~少女と死神~

 ある日の昼下がり、死神は人通りの多い街中まちなか道路どうろを歩いていた。別にこれといった理由があるわけではない。死神は、余命が近い人に現れてはその人を死へみちびくため、人通りが多い方が余命が近い人を見つけやすいのだ。ただ、さすがに人通りが多いとつかれてくる。


 「…今日は病院びょういんにでも行ってみるか。」


 死神にとって病院は最高さいこうの場所だ。あそこには、余命が近い人が集まってくる。

 俺は人通りが多い道を抜け、ここから近い病院に足を進めた。病院まではそこそこ距離きょりはあるが、人通りが多い道を抜けためスムーズに進むことが出来た。そのため、さほど遠いという感じはない。



 病院につくと病院に入る前に俺はポケットからとあるくすりを取り出した。


 「この薬あまり飲みたくないんだよなぁ…」


 その薬はまなければいけないため、ポケットから出した薬に数秒目をおとして、それを噛んだ。


 「ゔっ……」


 感想としてはにがい。めちゃくちゃ苦い。

 ’’良薬りょうやくは口に苦し’’と言うが、これは苦すぎだ。カカオ99%のチョコレートを食べているみたいだ。(あまり体にいいという感じもしないしな。)

 ただ、これにより、一時的に姿すがたを人間にみられることがなくなる。欠点としては死が近い人にはこの薬を使ってもどうしても見えてしまう。まぁ、病院の関係者から見えなければいいだけなので、病人や患者にみられたところであまり問題はない。

 俺は病院の中に入ってく人の後ろについていき、一緒に病院の中に入っていく。


 「気をつけて進まないとな。」


 病院の中は、人が多く病院関係者には姿が見えないためよけながら進まなければならない。もし、ぶつかってしまったら相手からは見えもしない壁に当たった感じになってしまうからだ。ましてや、ここが病院ということもあり怪奇現象かいきげんしょう扱いされかねない。俺は、慎重しんちょうに病院の中を歩いていく。


 「……そこの人。ちょっとこれを外してもらえないか」

 「……」


 歩いている途中とちゅうでベットで横になっている高齢の男性が、俺を呼び止めた。薬を飲んだ状態じょうたいの俺が見えるということは、この男性の余命はそれほど長くはないだろう。見てみると男性の頭の上には9の数字が浮かんでいる。あと9日以内にこの男性は何らかの理由で死んでしまうだろう。しかし、俺はその男性の呼びかけに答えることはなかった。

 そして、男性の呼びかけを聞いたナースがる。


 「すいませんが、それは必要な時以外外すことはできないんです。」

 「わしは、あそこにいる人にたのんだんだ。あんたには頼んでいない。」


 男性は俺がいる方向に指を向ける。ナースは男性が向けた指の方を見てみるが、ナースの目には誰もうつらなかった。


 「…誰もいないじゃないですか。」

 「そんなことはない。あそこにいるだろう!」

 「いませんよ。とにかく、これは必要な時以外外せないので今はおとなしくしていてください」


 男性はナースにもう一度、俺がいる方向に指を向けるがナースの目にはやはり映らない。ナースは少し強引に男性に説明して、その場を離れる。俺もそれと同時にその場から離れて病院内を進みだす。

 階段かいだんを上って様々な病室を見て回り、気づくと病院の屋上おくじょうのドアの前まで来ていた。ドアには、『立ち入り禁止』の文字の張り紙がされている。しかし、ドアに手をかけるとなぜかかぎは開いていた。

 …ガチャ

 ドアをけ屋上に入る。


 「…たまたま、開いていただけか。」


 鍵が開いていたので誰かいると思ったが、屋上はとても静かで誰もいない。


 「静かだし、景色けしきも悪くないな。」


 俺は屋上のフェンスに近づき、外の景色をながめた。下を見てみると、忙しそうに動いている人や、カップルで歩いている人など様々な人がいる。

 忙しくしてる人も幸せそうにしている人もいつか死ぬのだと、景色を眺めながら思った。


 「思った以上にここにいてしまった。そろそろ行くか。」


 腕時計うでどけいを見てみると屋上に来てから20分ぐらい経過していた。景色が思いのほかよかったせいか時間がつのが早かった。

 俺はフェンスから離れ、先ほど来たドアに手をかけ開ける。

 …ガチャ

 開けた瞬間誰かが俺にドンっとぶつかってきた。


 「……うわぁ⁉。」


 ぶつかってきた人は反動でしりもちをついた。


 「いてて…。」

 「すまない。大丈夫か。」


 俺は倒れた人に手を差しべた。

 ただ、今倒れたのが余命が近い人じゃなかったら、俺のことを見ることが出来ない。その場合どうしよう。勝手にドアが開いた上に、見えない壁にぶつかって、大丈夫かと声だけが聞こえることになる。しかも、ここは病院。

 ホラーだ。

 俺はそんなことを思い、差し伸べた手を戻そうとしたが、倒れた人は俺の手をとりき上がる。


 「ありがとう。いきなりぶつかってごめんなさい。」

 「いや、こっちこそすまない。まさかドアの前に人がいると思わなくて。」

 「ううん、元々ここ立ち入り禁止の場所だしドアの前に立っていた私が悪いんです。ごめんなさい。」


 倒れた人は、高校生ぐらいの少女だった。髪は黒髪で肩ぐらいの長さで、目はクリッと大きく二重ふたえでとてもかわいらしい感じだった。少女は、どうやら俺のことが見えているらしい。ということはこの少女も余命が近いのだろうか。俺は頭の上にある数字を見てみると、そこには〈?〉と表されていた。

 (どういうことだ?。〈?〉なんて数字見たことないぞ。)


 「君はここにいる患者かんじゃなのか。」


 俺は少女に質問する。


 「…まぁね。私、よくここに来るんだ。ここ静かだし景色もいいでしょ。ほんとは来ちゃダメなんだけどね。でも、まさか人がいるとは思わなかったよ。」


 少女は笑いながら答えた。

 さっき病室を見て回った時には、こんな少女を見ることはなかった。おそらく、外かどっかに出ていて気付かなかったのだろうか。


 「君、名前はなんて言うんだ…。」

 「ふふ。急に聞いてくるね。まさか、口説くどこうとしてるの?」


 変に警戒けいかいされてしまった。いきなり名前を聞くのはミスったか。人とあまり関わってなかったから接し方に戸惑とまどってしまう。


 「…そんなわけないだろ。」

 「冗談じょうだんだよ。に受けないでよ。」


 死神ともあろうものが、初めて会った少女にからかわれた。

 

 「あなた面白そうだから、特別に教えてあげるよ。私の名前は凛。’’坂下さかした りん’’だよ。」



これが、俺と少女の出会いだった。

 

 

 


 



 










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