パパラッチフィーバー!エピローグ
side L
それからおれたちは、曲の見直しから始まり、レコーディングのやり直し、ダンスレッスンと忙しい日々を過ごした。
今までもしっかり曲作りをしてきたが、やろうと思えばもっともっとブラッシュアップ出来るものだ。
特に、今回の曲はおれと優のソロを少し減らし、みんなで歌うコーラス部分を増やした。
これは、皆から敦士へのメッセージだ。
そうやって忙しい日々を過ごしていると、あっという間に二週間が過ぎた。
けど、おれたちは誰もオフをとろうとせず、時間があればプロモ用のダンスのレッスンをしている。
「清十郎、おれどうしてもここのステップが上手くいかない」
「多分だが……ここの腰の角度の問題だと思う」
「あ、成る程」
おれは清十郎が踊って見せてくれるダンスとおれとのダンスを比較し、納得する。
反対側では優と翔太が一哉の指導を受けていた。
「皆さん、そろそろ撮影入ります!」
浅見さんの声に、おれたちは顔を上げプロモの撮影に入る。
暗めのセットの中に、おれたちは立った。
前奏が始まり、おれたちはダンスを始める。
『君の瞳はいつも真っ直ぐで
まるで光のように曲がらない
僕らが挫けそうな時も
いつもいつだって
君だけは信じてくれていた
君の言葉はいつも真っ直ぐで
まるで光のように曲がらない
僕らが下を向いた時も
いつもいつだって
君だけは信じてくれていた
だからDo not believe
僕らは自分の限界を信じない
君のくれた自信を胸に
前を見て歩いていくよ
いつもDo not believe
僕らは不可能を壊していく
君がくれたパワーを秘めて
上を向いて走り続ける』
おれたちは何カットも撮影を繰り返し、漸く満足のいく出来のものができた。
最初はあんなに身体が痛くなるほど辛かったダンスも、今はちゃんと踊れるようになっている。
やればちゃんと出来るんだな。
あとはリリースを待つだけだ。
敦士の自宅謹慎も解けたようで、今は事務所で雑務をこなしているらしい。
その後もおれたちは精力的に新曲のプロモーションを続け、目まぐるしく時は動き、ついに今日はリリース当日。
まずはデイリーチャートが出る。
AshurA『Do not believe』速報、一位!!
やった!!
初めてZIPSに勝ったぞ!!
おれたちはひとまず抱き合って喜ぶ。
しかし、まだ安心はできない。
約束は「週間チャート」でのランキング一位だ。
明日以降、どれだけリードを保てるかが問題だ。
三日天下ならぬ一日天下になったら意味がない。
翌日、デイリーチャート惜しくも二位。
一位はZIPS。
しかし差はわずか。
三日目、デイリーチャート一位返り咲き。
そして、明日は週間チャート発表の日。
一位は……。
おれは、目の前の文字を理解できずにいた。
「オリコン週間ランキング……二位」
二位……一位じゃ、ない。
おれはスマホを取り落とすと、その場に膝をつく。
あんなに、頑張ったのに……。
「凛さん……大丈夫ですか?」
目の前には、たった二ヶ月ちょっとなのに、ひどく懐かしく見える敦士の姿があった。
敦士の目は涙で潤んでいる。
「お久しぶりです、凛さん。デイリーチャート、一位おめでとうございます!……浅見さんに変わってから、すぐにデイリーチャートでZIPSを抜くなんて……やっぱり、浅見さんはやり手なんですね」
「ばか。誰の為だと思ってるんだよ!」
おれは敦士に手を伸ばす。
「いや、そもそもはおれのせいなんだけど……でも、おれたちはお前に戻ってきてもらうために頑張ったんだ……」
「……はい、でも……」
「ごめん、敦士……ごめん……」
おれは、流れ落ちる涙を拭うこともできないまま、敦士に縋りついたーー。
ピピピピピピピピピピ!!
「ーー?!」
おれは鳴り響くスマホの音に驚いて目を開くと、目に飛び込んできたのは見慣れた天井だった。
「ーーゆ、夢……」
おれはびっしょりかいた汗を拭うと、大きくため息をつく。
スマホの日付を見ると、今日は週間チャートが発表される日だ。
……まったく、縁起でもない夢を見た。
おれはベッドから起き上がると、流れ落ちる汗を拭う。
おれは嫌なことを振り払うように顔を洗うと、出かける支度を始めた。
おれたちは、事務所に着くと各々そわそわと落ち着かない様子で椅子から立ったり座ったりしている。
「おい、おまえら……少しは落ち着け」
そう言う一哉も、顔が硬っている。
おれは震える手を押さえつけると、椅子に腰掛けた。
「……雄谷は、皆さんに愛されてるんですね」
その様子を見て、浅見さんはにっこりと微笑む。
「え……あ……。あの、別に浅見さんが嫌なわけじゃないんだ!」
おれはそう言うと、浅見さんの方を向く。
そう、浅見さんはすごくいい人だし、有能だと思う。
敦士がいなければ、この人をメンバーとして慕っていただろう。
しかし、それよりも先に敦士と出会ってしまっていた。
苦しい時期を一緒に過ごした仲間として。
「ええ、わかってますよ。そして、皆さんがとても頑張ってきたことも。……大丈夫です、きっと一位取れますよ。そうしたら、ぼくも皆さんのお役に立てたことが嬉しい」
浅見さんの言葉に、おれたちは全員黙る。
発表まであと五分を切った。
おれたちはドキドキと破裂しそうな胸を押さえつけて、更新を待つ。
あと一分。
あと三十秒。
「…………出ました!速報……AshurA 『Do not believe』週間ランキング……一位です!!」
瞬間、おれたちは全員気が抜けたように座り込んだ。
喜びというより、ホッとした方が強い。
「皆さんどうしたんですか!喜んでください!一位なんです!ZIPSに勝ちましたよ!!」
浅見さんの言葉に、漸くおれたちは喜んで良い事態だという事に気がつき、お互いの顔を見合わせた。
「…………っし!」
誰よりも先に、優が拳を振り上げる。
それを皮切りに、おれたちは各々歓声をあげた。
「よっしゃああああ!」
「よおおおおし!」
「やったあああ!」
「うおおおおお!」
全員涙目でハイタッチをする。
それをニコニコと見ていた浅見さんがドアの外を見た。
「雄谷、いるんだろう?入ってこいよ」
その声におれたちは全員ドアを見る。
しばらくすると、静かにドアを開けて敦士が入ってきた。
その目には、おれたちと同じく光るものがある。
「皆さん……チャート一位……おめでとうございます!!」
「敦士ーー!」
「敦士!」
「いたんなら声かけろよ!」
「水くせえぞ!」
おれは、込み上げるものを飲み込むと、精一杯の笑顔を敦士に向けた。
「敦士……おかえり!!」
「凛さん……皆さん……ただいま帰りました!!」
side A
おれはコンサート前の独特の緊張感に包まれていた。
あの騒動からおよそニヶ月半。
今はこうやって二人でコンサートが出来ることにとても感謝している。
下手をすれば、おれはあの時潰されていた。
それ程に、SNSの力は大きいことを痛感する。
今回のコンサートにはAshurAのメンバーとマネージャーの雄谷も招待している。
今回の件の仲間でもあるし、大切な事を伝えたい相手でもあったから、今日おれが招待した。
今日の舞台は武道館。
ありがたい事にチケットは即日完売。
おれは、舞台袖で気合を入れるべく頬を叩いた。
綾斗がおれのそばに並ぶ。
おれは無言で視線を合わせると、綾斗と拳を合わせた。
「行こうか、アキ」
「ああ、行こう!」
会場が暗くなり、歓声が上がる。
おれたちはステージへと駆け上がった。
『線路の上を 二人歩く
夕日が僕たちを照らし
長い影が伸びている
君の瞳が 赤く染まり
キラキラと輝いていて
僕はその横顔を見つめた』
まずは『Trust』。
おれたちはスポットライトの下で、踊りながら歌う。
続いてアップテンポな曲が二曲続き、バラードへ。
舞台上でバラードをしっとりと歌い上げ、再びアップテンポな曲。
「武道館!盛り上がってるかーー!?」
わあああああ!!と歓声が上がる。
「もっともっと盛り上がっていくぞーーー!」
途中MCを挟み、衣装チェンジをして再び何曲か続く。
あっという間に15曲が済んで、もう終盤だ。
ここでお互いのソロ。
まずは綾斗のアルバムソロ曲が流れて、綾斗が歌い上げる。
おれは、刻一刻と近づくおれの計画の時間にトクトクと心臓が高鳴っていくのを感じた。
綾斗のソロ曲が終わり、おれのソロ曲。
前奏が流れる予定だが、流れない。
綾斗が心配そうにおれをみる。
おれは、綾斗の目を見つめると、スウと息を吸い、口を開いた。
「皆、聞いてくれ。本来ならここで、おれのソロ曲『ひかり』を歌うところなんだけど……良ければ、今日はおれの新曲を一曲聴いてほしい」
綾斗が目を丸くしておれを見る。
当然だ、これは綾斗に内緒で企画した事だから。
「今回おれは、綾斗の作詞した『energy』のアンサーソングを作った。曲は『I can't live without you.』」
おれの言葉に、音楽が流れ始める。
『恋というものを知らなかった頃は
こんな痛みなど知る事もなかった
恋に恋して キラキラ光る
綺麗なものばかりを見ていた気がするよ
君の視線の先が気になって
夜も眠れない日々が続く毎日に
胸の痛みが チクリと刺さる
この痛みすら君を思えば愛しい
I can't live without you.
What is the meaning of my existence?
君にとって必要な人になりたい
もう君無しでは生きられないから
君と出会うために生まれた
そう信じているから
愛というものを知らなかった頃は
こんな痛みなんて知る由もなかった
愛という言葉が キラキラ光る
綺麗なだけのものだと思っていたよ
僕の視線の先を辿れば
常に君の優しい笑顔がある
その笑顔を 向けた先には
どうか僕の姿がありますように
I can't live without you.
What is the meaning of my existence?
君にとって必要な人になりたい
もう君無しでは生きられないから
君と出会うために生まれた
そう信じているから
どうか神様
生まれ変わっても またあの人の隣に
いさせてください
それ以外 何もいらないから』
どうか、おれの気持ちが綾斗に伝わりますように。
そして、おれの出した答えが凛に伝わりますように。
曲が終わると、おれは綾斗に視線をやりながら、言葉を継ぐ。
「二ヶ月ちょっと前、おれたちは皆に沢山の不安を感じさせてしまった。でも、その事があったから、おれはよりA’sの大切さをーー綾斗の大切さを思い知ったんだ。だから、ファンのみんなの前でどうしてもこの言葉を言いたかった。おれは、これからもずっとA’sの日比野秋生として、綾斗と活動を続けていく。だから、これからもよろしくお願いします」
おれの言葉に、観客から歓声が上がる。
良かった、皆には受け入れてもらえた。
おれは次いで綾斗を見る。
綾斗は無言でおれに近づくと、おれを強く抱きしめた。
その腕は僅かに震えている。
「アキ……アキ……好きだ、愛してる……」
マイクに入らない程度の音量で、綾斗はおれにそう囁く。
おれは綾斗を抱きしめ返すと、ずっと心に秘めていた一言を絞り出した。
「おれもだ……綾斗、おれも愛してる」
観客から見たら、おれたちはメンバー同士の友情を確かめ合っているように見えるだろう。
歓声がおれたちを包む。
おれたちは視線を合わせると、身体を離しコンサートのラストスパートをかけた。
「いくぞ!次は『energy』!」
コンサート曲が全て終わり、アンコール前に衣装チェンジスペースに入った瞬間、綾斗がおれを抱き寄せる。
そのまま噛み付くような勢いでキスをすると、そのまま激しく口内に舌を差し込んで蹂躙した。
そのあまりの激しさに、おれは腰から力が抜けそうになりながら綾斗に掴まる。
綾斗はおれの腰を支えると、息継ぎもできないほどの激しさでキスを続けた。
舌が歯列を這い、口内の至る所をなぞる。
角度を何度も変え、激しく舌を吸われた。
「……んっ……ふっ……」
おれは自身の口から甘い声が漏れるのを感じる。
綾斗のキスで頭の芯からトロトロに溶かされ、何も考えられない。
漸く唇を離された頃には、アンコールの声が会場中に響き渡っていた。
「……アキ……」
「……続きは後で、な」
おれは、以前言われた言葉を言い返すと、綾斗はその端正な顔をフッと緩ませた。
「言ったな。覚悟しておけよ」
綾斗はそういうと、拳を突き出す。
おれは綾斗の拳に自分の拳を突き合わせると、おれたちはアンコールに応えるべく、再びステージへと駆け上がっていった。
第二章 パパラッチフィーバー! 完
転生したらBLゲームの攻略キャラになってたんですけど! 朝比奈歩 @ashvenus
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