敦士編

「なんか新鮮!」

「そうですか?」

「うん」

おれは敦士の運転する車の助手席に座り、その横顔を見ながらはしゃいでいた。

普段も敦士の運転する車に乗っているが、それは事務所の車だし、そもそもおれは後部座席に乗っている。

今日は敦士のプライベートの車で、しかも助手席だ。

服装もスーツではなくラフなカジュアルスタイル。

なんだかとても新鮮に感じる。

敦士のプライベートカーはトヨタのヤリスクロス。

なかなか可愛くて乗り心地が良い。

おれは、運転する敦士の横顔を再び覗き込んだ。

「……あの、あんまり見られると照れるんですけど」

「あ、悪い。でもなんか嬉しくて!」

今日はおれも敦士もオフだ。

わざわざ、数少ないオフの日に敦士はおれに付き合ってくれている。

それが嬉しくておれは頬が緩むのだ。

「そんなことより……今日は本当におれのプランで良いんですか?」

「うん。おれ、敦士の趣味知りたい!」

おれの言葉に、敦士は少し照れたように笑うと、そのまま運転を続ける。

そもそも、なぜおれたちがオフに二人で出かけているのか。

おれはとある番組のアンケートシートの趣味欄が書けなかった事から、他の皆の趣味が気になり出し、リサーチし始めたことにはじまる。

おれが無趣味(公に言えるものとしては)なのに対し、皆はとても良い趣味を持っている。

趣味までイケメンとが狡い、狡すぎだ。

そこで、敦士の趣味も気になって尋ねてみたところ、今回の休日の行動に着いて行かせてもらうことになったのである。

「さて、そろそろ着きます」

敦士はそう言って車を駐車場に止めると、おれを外に促した。

「こ、ここって……」

「はい……ガッカリしましたか?」

「いや、全然!」

着いた先は少し郊外にある『わんにゃん動物園』という、愛玩動物に特化した、触れ合い動物園だった。

最近よくCMでやってて、気になっていた所だ。

おれたちは早速チケットを買い、入場する。

中には自分のペットを連れてきている人もいて、犬や猫が沢山だ。

やばい、すでに可愛い……。

おれたちが園内マップを見ていると、早速そういった客のうちの一匹がおれの足元に擦り寄ってきた。

トイプーかな?

かっわいい!

「あっ!すみません……!」

飼い主さんはおれに謝ると、トイプーのリードを引こうとするが、トイプーはおれの足元から動かない。

「全然大丈夫ですよ、ていうか撫でて良いですか?」

おれはしゃがみ込むと飼い主さんを見上げる。

「あ、はい!撫でてやってください……ってえ?!」

飼い主さんはおれに気がついたようだが、おれはさして気にもせずトイプーちゃんを撫でる。

トイプーちゃんは気持ちよさそうに目を細めると、ペロペロとおれの手を舐めた。

「……ありがとう、またな!」

おれはトイプーから手を離して立ち上がると、飼い主さんにお礼を言う。

「ありがとうございます、かわいいですね!」

「あ、いえっ!」

トイプーは撫でられて満足したのか、飼い主さんの足元へ戻っていく。

「まったく……凛さんは犬にまでモテるんですね」

敦士はそう言って苦笑すると、地図を頼りに歩き出した。

「まずは触れ合い動物園に行きましょう」

「賛成!」

おれは園内を歩きながら、敦士に問いかける。

「敦士はよくここに来るの?」

「いえ……ここは初めてです。普段は近くのドッグカフェとか行きますね」

「ドッグカフェか!」

「はい。実家にいた頃は犬を飼ってたんですけど……今は一人暮らしで留守が長いので、ペットが飼えないんですよね。だから、時々こういうところに来て犬や猫と遊んでもらってます」

「なるほどな」

確かに癒されるかもしれない。

そう言いながら歩くと、触れ合い動物園が見えてくる。

柵の中に沢山の犬たちがいて、わちゃわちゃと遊んでいた。

もう、既にそれだけでテンションが上がってくる。

可愛すぎるだろ!

おれたちは手の消毒をして柵の中に入れてもらうと、早速犬たちと触れ合おうとした。

……が、なぜか犬たちがおれたちの方へわらわらと集まってくる。

「わ、ちょっと待て!一匹づつ……コラコラ!っはは!くすぐったい」

おれはあっという間に犬たちに囲まれると、舐められたり身体を擦り付けられたり、じゃれつかれたりした。

敦士はそれを楽しそうに見ている。


「凛さん……人にも犬にもモテすぎです」

そう言うと、スマホで犬と戯れ合うおれの写真を撮ってくれる。

……あれ、何枚撮るの?

撮りすぎじゃね?

「可愛すぎるのが悪いんですよ」

「まあ、確かにかわいいな!」

「いや、犬もですけど主に凛さんが……」

「おれ?!」

こんな天使たちを前に、なんてことを言うんだ敦士!

そんな会話をしていると、スタッフさんの一人が近づいてきてお二人で写真をお取りしましょうか?と聞いてくれる。

おれは二つ返事で頷くと、二人で犬を抱っこして写真に収まる。

うん、犬もおれたちも良い笑顔だ。

「敦士、この写真いる?」

「送ってもらえますか?」

「オーケー」

おれは敦士に写真を送ると、敦士は真剣な顔をして写真を眺めている。

「……凛さん」

「あれ?写真気に入らない?もう一回撮ってもらう?」

「いえ、そうじゃなくて……この写真、スマホの壁紙にしていいですか?」

「へ?あ、ああ、いいけど……なら、犬とお前だけで撮ってやろうか?」

「いや!これがいいんです!」

敦士はそう言うと、素早くスマホの壁紙にした。

よく分からんけど、楽しそうだからいいか。

おれは、ジャレついてきたポメラニアンを抱きかかえると、よしよしと撫でる。

ああ、可愛い。

可愛すぎる。

癒されすぎる。

「はあ、めちゃくちゃ癒されますね」

「本当だな!」

敦士の言葉に頷くと、敦士は真剣な表情で写真を撮っている。

いや、だから撮りすぎじゃね?

「天使と天使のコラボレーションの破壊力と言ったら……」

いやいや、何言ってるの敦士大丈夫?

おれは、普段見ることのできない敦士のはっちゃけた姿に思わず笑いが込み上げる。

「敦士でもこうやって、はしゃぐことがあるんだな!」

おれの言葉に敦士は目を丸くした。

「おれだって人間ですからね。プライベートの時間はそれなりに気を抜きますよ」

なんだか敦士の素に触れたみたいで、おれはちょっと嬉しくなる。

「なんか、敦士の別の一面見えたみたいで嬉しい」

「……凛さん」

心なしか敦士の頬が赤い。

「狡いです、可愛すぎます……」

いやいや、今の言葉のどこにかわいい要素があるんだよ。

可愛い犬たちに囲まれて感覚おかしくなったんじゃないの?

おれは苦笑いをすると抱いているポメラニアンに話しかける。

「このお兄ちゃん変な事言ってまちゅねー」

すると、敦士も抱いていたチワワに向かって話しかけた。

「このお兄ちゃんが無自覚なのが悪いんでしゅよねー」

無自覚って。

何に対して無自覚だって言うんだ。

おれたちは満足いくまで犬と触れ合った後、園内併設のドッグカフェへ向かう。

猫カフェと迷ったが、今回は犬にした。

さっき触れ合ったワンちゃんたちが可愛すぎたからだ。

おれたちはそれぞれ飲み物とフードと犬用おやつを頼むと、お気に入りの子達を膝に乗せて撫でる。

おれは頭を撫でながら、犬用おやつの鳥ささみを小さくちぎってあげた。

ハグハグと食べる豆柴ちゃんの可愛い事!

敦士の膝の上にはポメラニアンが乗っている。

同じようにおやつをあげるとその顔を敦士に擦り寄せた。

ああ、幸せだ……。

「敦士、ポメラニアン好きなの?」

おれが何気なく聞くと、敦士が一瞬頬を染める。

「えと……この子、なんだか凛さんに似てるような気がして……」

確かに毛色とか似てるな。

敦士の膝の上のポメラニアンは、それを知ってか知らずか小さく欠伸をした。

おれたちはカフェでゆっくりとした時間を過ごすと、そろそろ閉園時間になった。

「今日はありがとな!めっちゃ楽しかった!」

おれは、敦士の車に乗り込むと、大満足でそう言う。

「いえ、おれこそ楽しかったです」

「動物って可愛いとは思ってたけど、実際触れ合うとヤバいくらい可愛いのな」

おれの言葉に、敦士は嬉しそうに目を細める。

「はい。その……もし良ければまたドッグカフェとか猫カフェ行きませんか」

「え!また一緒に行ってくれるの?!サンキュー!」

おれが喜ぶと、敦士は少し笑っておれの手を取る。

「はい、是非」

そういって、まるで王子様がお姫様にやるように、おれの指先にそっと口付けた。

おれは思わず顔を赤くすると、敦士は少し笑う。

そのまま帰りの車の中も、おれはずっと手を取られ繋いだまま帰ったのは……秘密の話。

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