清十郎編
「何をそんなに悩んでるんだ?」
アンケート用紙と睨めっこをして悩んでいるおれの手元を覗き込みながら、清十郎はそう聞く。
「んんー。おれ、趣味が少なくてさぁ……」
いや、いくらなんでもBL作品漁りとか書けないしね。
歌や作詞作曲なんかは趣味じゃないし、ゲームって書くのもどうよって感じだし。
「清十郎はさあ、何?なんて書いた?」
「おれか?おれはバイクとキャンプだな」
うっわー!
趣味まで男前。
「キャンプってソロキャンプ?」
「普段はソロが多いな。バイクで最低限の荷物を持って、キャンプをする」
ワイルドー!
なんかモテる男の趣味って感じ。
「キャンプって楽しい?」
「もちろん楽しいぞ。凛も一度一緒に行ってみるか?」
「え、行きたい!」
おれがそう言うと、清十郎は少し笑う。
「なら次のオフはキャンプに行こう。ちょっと気になる所があってな、ちょうど良かった」
次のオフ、早速おれたちはキャンプ場へと車を走らせていた。
今回は二人だと言うことで、バイクではなくレンタカーを借りている。
バイク二人乗りでも良かったんだけど、それはこの次の機会にってことになった。
清十郎の運転、初めてみるけど新鮮!
ていうか、何やってもサマになるな、この男は……。
サングラスをかけて、RVを軽やかに運転する姿はいつも近くで清十郎を見ているおれでも見惚れる。
ていうか、おれが運転しても良かったんだけど、清十郎は頑なに「おれが運転する」と言って聞かなかった。
おれの運転技術はそんなに頼りないか……?
まあでも清十郎の運転見えたからよしとしよう。
途中、道の駅で少しだけ名物を食べたりして、おれたちはドライブも楽しんだ。
3時間ほど車を走らせ、着いた場所はいわゆるグランピングができるおしゃれな場所だ。
湖の辺りで、魚釣りもできるしボート遊びもできるらしい。
すでに豪華なコテージテント……ホテル並みの施設!が建っていて、係の人が迎え入れてくれる。
今日は一般的には平日ということで、比較的空いているらしい。
もちろん、混んでいてもコテージ内の客同士の目線が合わないような作りにはなっているが。
おれたちは案内されたコテージに入ると、荷物を置いて早速散策に出かけた。
夕食は十八時過ぎに食材をコテージの冷蔵庫に運んで置いてくれるらしい。
それを好きな時間に好きなように自分でバーベキューするそうだ。
おれたちはそれまでの間、湖の周りを散歩したりして過ごした。
「ここは足場が悪いぞ、気をつけろ」
そう言って散歩中、清十郎が手を差し出してくれる。
おれはその手を握るとその場所を通り過ぎるが、そこを通り過ぎても手を離される気配がないので、そのまま繋いでおいた。
あれか、迷子防止か?
おれもこんなところで逸れるのは嫌だから、そのままにしておく。
それにしても……。
周り、カップルしかいないな。
すれ違った数人は全員カップルだった。
いや別に寂しいとか悔しいとかじゃないぞ?
おれは清十郎と二人でこられて大満足だ。
側から見たらどう思われるか分からんけども……。
おれは清十郎をチラリと見る。
すると、向こうもおれを見ていたらしく、目線が合った。
「ん?なんだ?」
「いや、カップルばっかりだよなーって」
おれの言葉に、清十郎はしれっと答える。
「ああ、ここは有名なデートスポットだからな」
え!
そうなの?!
そりゃカップルが多いわけだ!
「おれたちもデートだし、いいだろう」
これ、デートだったんか!
おれは心の中でそう突っ込むとニコニコ笑う清十郎を見て苦笑した。
まあ、おれも楽しいし、清十郎も楽しそうだし、いいか……。
おれたちはしばらく散策を楽しむと、そろそろ日も暮れそうなのでコテージへ戻る。
コテージに着くと、果たして冷蔵庫には沢山のバーベキューの食材が入っていた。
肉や野菜、めっちゃ豪華だ!
おれたちは食材をバーベキューグリルに準備すると焼き始める。
中にはビザ生地の準備まであった。
おれは肉を清十郎に任せて、ピザの盛り付けにかかる。
「清十郎、嫌いなものある?」
「いや、無いぞ」
うん、無さそう。
おれはピザソースを生地に塗りたくると、ベーコン、パイナップル、玉ねぎ、コーン、チーズと乗せてゆく。
うん、なかなか美味しそうじゃね?
出来上がったピザを小さいピザ窯に入れる。
あとは焼き上がりを待つだけだ。
清十郎の肉もいい感じに焼けてきた。
ジュージューといい音と香りだ。
おれは清十郎の手元を覗き込むと、手際良く肉を焼く姿に惚れ惚れした。
さすが慣れてるね。
「一人で来る時は何を食べてるんだ?」
「そうだな……バーベキューの時もあれば、クッカーで簡単に料理する時もある。まあ、その時の旅の状態にもよるな」
肉を返しながら清十郎はそう言う。
「この場所は雑誌で見つけて、凛を是非連れてきたかったから……叶って良かったよ」
そ、そんな男前なこと言うなよ!
おれは赤くなった頬を手で隠すと、清十郎を見上げる。
「なんだ、照れたのか?」
「……照れた」
おれの言葉に清十郎はクックッと笑うと、かわいいと呟く。
いやだからおれは……まあいいか。
おれが何言っても、かわいいで丸め込まれるのがオチだからな。
「さあ、焼けたぞ」
「ピザも焼けた!」
おれたちはテラス席に座ると、湖畔に沈む夕日を眺めながら食事を開始した。
「清十郎、ワイン飲む?」
「そうだな、少し貰おうか」
おれたちは互いのグラスにワインを注ぐと、乾杯をする。
うん、美味い。
肉も野菜もピザもワインも全部美味い!
ロケーションも良いんだろうな。
おれはほろ酔いになると、いい感じに焼けた肉を頬張る。
うん、清十郎肉焼くの天才。
幸せに目尻が緩むのを感じる。
ふと隣を見れば、清十郎が笑いながらこちらを見ていた。
「……気に入ってもらえたか?」
「めちゃくちゃ気に入った!」
おれがそう言うと、清十郎は嬉しそうに微笑んでワインを傾けた。
ワインっていうと一哉のイメージがあるけど、清十郎も似合う。
ていうか、イケメンは何しても似合うんだよな……。
おれたちは腹一杯食事をすると、さっと後片付けをし、テラスのリクライニングソファに寝転がる。
このソファは所謂カップルシートのように二人掛けになっていて、二人で寝そべって夜空を眺めることができるようになっていた。
おれたちは並んで満天の星空を見上げる。
うっわー……めちゃくちゃ綺麗……。
おれは星空が見やすいよう部屋の電気を消したため、薄暗い中隣の清十郎を見つめた。
うん、暗闇でもイケメンだ。
不意に清十郎がこちらを見る。
「……?なんだ?」
「いや、相変わらずイケメンだなーって思って」
おれがそう言うと、清十郎は吐息だけで笑う。
そんな仕草も色っぽく見えるから不思議だ。
清十郎は腕を伸ばし、おれを腕枕すると顔を寄せる。
「おまえはかわいいな」
「何度も言うけど、おれそんな可愛く無いと思う」
「いいんだ。お前がどう思おうと、おれがそう思ってるんだから」
そう言うと、その唇をおれの額に寄せる。
清十郎の吐息が顔にかかってくすぐったい。
おれは清十郎を見つめると、清十郎もおれを見つめている。
不意に視線が絡み、清十郎の顔がおれに近づくと、突如として清十郎がその動きを止める。
その直後、おれにもその理由がわかった。
隣のコテージから声が聞こえるのだ。
その、真っ最中の声が。
いや、コテージ同士それなりに距離は離れてると思うのに、これだけ聞こえると言うことは……おそらくおれたちと同じ状況……つまりテラスでいたしているということだ。
清十郎は眉を顰めると、近づけていた顔を離す。
「……せっかくの星空だが……ここはその……あまりロケーションが良く無いな」
「ん……そうだな。部屋に入ろう」
おれたちはすごすごと部屋に入ると、サッとシャワーを浴びる。
キャンプに来てるのにこんな綺麗なシャワーを浴びられるなんて、最近の施設はすごいなぁ。
おれは髪を拭きながらシャワーを出ると、珍しく清十郎がソファでうたた寝をしていた。
運転が疲れたのかな。
良い機会だから、おれはマジマジと清十郎の男前な顔を見つめる。
……鼻筋綺麗に通ってるな!
眉毛も凛々しい!
少し開いた唇はめっちゃ色っぽい……!
おれは清十郎が寝ているのをいいことに、イケメンを観察しまくる。
と、不意に背中に手を回され抱き寄せられると、おれはドサリと清十郎の腕の中に倒れ込んだ。
「うっわ!」
「……おれの寝顔は満足に見えたか?」
珍しく、清十郎が意地悪そうな笑顔でおれを見る。
「お、起きてたのかよ!」
「途中からな」
清十郎はそう言って笑うと、おれの頬にキスを落とす。
「起きてたなら言えよ!」
「真剣におれを見てる凛が可愛くてな」
フッと笑うと、清十郎はおれを腕の中から解放する。
「あんまりかわいいことしてると、狼に食べられるぞ」
「お、狼って誰だよ!」
「おれだな」
そう言って笑うと、清十郎はシャワーへと消えてゆく。
し、心臓に悪い。
当然のことながら、その日もシャワーを出た清十郎に、まるで抱き枕かのように抱きすくめられて寝たのは内緒だ。
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