パパラッチフィーバー⑦
side L
パスタを食べ終えると、敦士の運転でおれのマンションまで走る。
おれはお腹がいっぱいになってウトウトしていると、敦士に揺り起こされた。
「凛さん、着きましたよ」
「あー…ごめ、寝てた」
おれは目を擦って身体を起こすと、ひとつあくびをする。
おれのマンションのゲスト用の駐車場に車を停めてもらうと、おれはキーをタッチしてマンションに入った。
「どうぞー散らかってるけど」
おれはラックに荷物を置くと、敦士を部屋に促す。
「お、お邪魔します……」
「何緊張してんだよ。別に入るの初めてでもないだろ」
「泊まるつもりで入ったことはないです!そもそも、タレントの部屋に泊まるマネージャーって……」
「別にいいじゃん。なんかダメなの?」
おれはそう言うとキーをフックに引っ掛けて、風呂場へと向かった。
「風呂の使い方教えるわ」
「凛さん先どうぞ」
「こういう場合は客が先だって。ほら、グダグダ言ってないで入れ!後で着替え持ってくるから」
おれはそう言って敦士をバスルームに押し込むと、一通りの使い方を教える。
何か腑に落ちない顔をしていた敦士だったが、おれは有無を言わさずバスルームのドアを閉めた。
おれはクローゼットから敦士が着られそうなTシャツとズボンを引っ張り出す。
……敦士、身長はおれより低いのに何気にガタイがいいから、多分これくらいなら着られるだろう。
おれはシャワーの音が聞こえ出したのを見計らって、バスタオルと一緒に着替えと下ろしたばかりの下着を脱衣所に置くと、敦士に声をかける。
「バスタオルと着替え、ここに置いとくからなー!」
「ありがとうございます」
磨りガラスに映る敦士の身体のシルエットはやっぱりいい身体をしている。
くそ、おれの身体貧弱だな……。
おれは部屋に戻るとソファに座った。
しばらくして敦士がシャワーから出てくると、おれはソファを勧める。
出したTシャツはちゃんと着られたようだ。
ただし、おれが着た時より明らかにジャストサイズだったけど……。
「適当に寛いでて」
おれはそういうと、バスルームに向かう。
「あ、凛さん。少し電源借りて仕事してていいですか?」
「ん、何でも使って」
こんな時間まで仕事とは、マネージャーって大変だな。
おれは熱めのシャワーを浴びると、さっぱりしてリビングへ向かう。
敦士はまだノートパソコンに向かって仕事をしていた。
「なあ、まだ仕事してんの?」
おれは敦士の背後から近づくと、その肩口に顎を乗せる。
「うわっ」
敦士は集中していたのか盛大に驚くと、おれの方を向く。
「凛さん、驚かせないでください……」
敦士はそう言って息をつくと、ノートパソコンを閉じた。
「今ちょうど終わりました」
敦士はそう言って肩と首を回すと、パソコンを鞄にしまう。
「今更かもしれませんが……一応例の画像の削除依頼をしておきました。まあ、あれだけ出回ってしまうと、もう難しいかも知れませんが……」
「そっか、さんきゅ」
おれはそう言うと、ニッと笑って缶ビールを差し出す。
「喉乾いたろ?ビール飲まない?」
「え?」
「いつも敦士は運転してるから一緒に飲んだことないもんな。たまには飲もうぜ」
「でも……」
「一本だけ、な?おれの今ハマってる台湾ビール!めちゃくちゃ美味いよ」
敦士はため息をついて苦笑する。
「……わかりました。一本だけですよ」
「そうこなくちゃ!」
おれは敦士を待ってる間に適当に作ったつまみ、『玉ねぎとベーコンとポテトチップスの炒め物』と『無限キャベツ』と果物やチーズをローテーブルに並べる。
この、ポテチベーコンは創作つまみながらなかなか簡単で美味いのだ。
グラスを準備すると敦士のグラスにビールを注ぐ。
「あ、やべ。全然泡立たなかった。悪い」
「いえ、ありがとうございます」
そう言うと、敦士もおれのグラスにビールを注いだ。
おれは敦士の横のソファに移動するとスマホを構える。
「敦士笑って!」
「え!またですか!」
「敦士が言ったんだぞ!」
おれはビールを持った二人の写真を撮ると、ツイッターにあげる。
「マネージャーとご飯からのうち飲み。台湾ビール。おつまみはお手製。……送信。さ、飲もうぜ!」
「まったく、あなたって人は……凛さんとおれとでは顔面偏差値が違いすぎるんだから、並べられる身にもなってくださいよ……」
「え、そんなことないじゃん。敦士イケメンじゃん?」
「凛さんがそれを言います?……まあ、褒め言葉として受け取っておきます」
敦士は諦めたように笑う。
「敦士、乾杯!」
「はい、乾杯」
「くー!美味い!」
「本当に美味しいですね」
敦士はそう言うと爽やかに笑った。
その笑顔に、おれはまたもやドキッとする。
おれは心臓の高鳴りを悟られないように、ビールを飲んだ。
ビールを一気に飲み、おれはなんとなくいい気分になりちょっとハイになる。
「敦士ー。ツマミもちょっと食べてみて?おれの自信作だから」
「いつの間に作ったんですか?」
「敦士がおれがシャワー出たのも気がつかず、仕事に夢中になってる間ですー」
「……なんですか、その拗ねたみたいな言い方は」
「バレたー?折角うちに来たのに仕事してるからちょっと拗ねた!ははっ」
おれの言葉に、敦士は目を見開く。
そのまま口元を押さえて視線を逸らした。
「そんな事……」
「わかってるよ、仕事だから仕方ないよな?」
「そうじゃなくて」
敦士は視線をおれに戻すと、じっとおれの目を見つめる。
「なんで、そんなかわいい事言うんですか……」
「へっ?!」
敦士はおれの方に身体を向けると、ビールのグラスを置く。
「だいたい……凛さん、あなたは警戒心がなさすぎます。言ったでしょ、おれはあなたを……口説き落とす気でいるんですからね」
そう言うと、敦士はその指でおれの頬を撫でる。
「あ、敦士……」
敦士の言葉に、おれは破裂しそうなくらい心臓をドキドキさせると敦士の瞳を見つめる。
その真剣な瞳に、おれの心臓は一際大きく高鳴った。
敦士の顔が近づいてきて、おれは思わず目をギュッと閉じる。
敦士の唇がおれの額に触れ、そのまますぐに離れた。
「ーーキス、されると思いました?」
「ーー?!」
敦士の言葉に、おれは顔を真っ赤に火照らせて目を開けると、悪戯っぽく笑う敦士の顔がある。
その顔は妙に大人っぽくて格好良くて、おれはまるで金魚のように口をパクパクとさせた。
「ちょっと、残念って思ってくれました?」
敦士の言葉に、おれの顔はこれ以上無いくらい赤くなる。
それはまるで敦士の言葉に無言ながら肯定をしたみたいで、おれは内心でめちゃくちゃ焦っていた。
残念?
おれが?
キスされなくて?
心の奥底に、ほんの少しそう思ってる自分を見つけて、おれは口元を手で押さえる。
「凛さん……可愛すぎます」
敦士は微笑みながらおれの手を退けると、今度こそその唇をおれの唇に重ねた。
優しく何度も唇を啄まれ、おれは脳内がジンジンと痺れたように甘く溶け出す。
敦士はひょいとおれの身体を抱え上げ、リビングに隣接する寝室のベッドに下ろした。
そのままおれの上に覆い被さると、先ほどまでとは打って変わって激しいキスをする。
口内に舌を差し入れ、おれの舌と絡めると、何度も吸い上げ甘噛みをした。
「んん…っふ…っ」
自分の口から漏れる甘い声に、羞恥心を煽られ余計に身体に力が入らない。
敦士は最後にチュッと音をさせて唇を離すと、おれをベッドに縫いつけたまま見下ろす。
「んーーー………っ!」
そして、気合を入れるように突然唸ると、おれの上から身体を離した。
「……これ以上先は……正規の手段を踏んでからにします」
せ、正規の手段って……。
敦士はおれを起こすと、そっと抱きしめた。
「だから……あんまりかわいい事言って、おれを煽らないでください……」
おれはなんと言っていいか分からず、敦士の背中に手を回した。
敦士はおれを抱きしめたままベッドに横になる。
「でも……これくらいは許してください……」
そのまま、歯を磨いた後もまるで敦士の抱き枕のような状態で一夜を明かしたおれたちであった……。
翌朝おれが目覚めると、そこには既に目を覚まして自分のスマホを見ている敦士の姿があった。
「……はよ」
「おはようございます、凛さん」
敦士は隣で眠るおれの髪をそっと撫で付けると、頬に触れるだけのキスをする。
なんか、最近メンバーや敦士にキスされることが当たり前になってきているな……。
「……何見てるの?」
「ーー例の画像です。大元の画像は削除されましたが、やはり大勢が保存をして再アップロードしてますから、まだあちこちで見られますね……」
「……何が目的なんだろ」
「わかりません……。ただ、例の画像が上がった瞬間から、目撃談もチラホラ出てきました」
「目撃って……おれたちじゃないのに」
「そうですね……」
そう言うと、敦士は自分の前髪をかきあげてため息をつく。
「なんか、気持ち悪いな」
目的がわからないから、余計に気持ち悪さを感じる。
おれたちになりすまして、何がしたいのだろう。
「凛さん。これは前回の事件の教訓として言いますが……これからしばらくは、ネットはあまり見ないようにしてください。特に、不特定多数の書き込む掲示板のような所は見ないほうがいいです」
「あー……わかった。おまえがそう言うならそうする。しばらくはAshurAのサイトと自分のツイッター位にしとくわ」
つまり、それはおれが見ない方いいようなことがたくさん書かれていたと言う事だろう。
前回の経験上、敦士が『見ない方が良い』と言うものは見ない方が良い。
おそらく、今のおれのメンタルには耐えきれないようなことが書かれているのだろう。
「そうですね、それがいいと思います」
敦士はそう言うと、ベッドから起き上がる。
「さあ、凛さんも起きたのならそろそろ支度をしましょうか。今日は午前からダンスレッスンですよ」
う……またあのハードなダンスか……。
側から見てるとめちゃくちゃカッコいいんだけど、実際踊るとめちゃくちゃハードなんだよな……。
おれはベッドから起き上がると、盛大なため息をついた。
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