2.樹海へ

 男子たちの後を追っていった女子たちは、しばらく進んでいくうちに則之の赤いウインドブレーカーの端がちらりと見えたような気がして、夢中でその後を追っていった。

 やっとの事で倒木に座り込んでいる三人を見つけた知絵は、

「さあ、もう十分でしょ。早く帰りましょ」

と言うと、哲弥の腕を掴んで立ち上がらせようとした。すると哲弥は、

「なあ、もう少しくらいいいだろ」

と言って知絵の腕を離そうとした。

「いい加減にしてよ! こうなったら班長の権限をふりかざしてでもあなたたちを引っ張っていくわ」

知絵が怒ったので、哲弥は渋々立ち上がった。

「じゃ、行くよ」

「あなただけじゃ駄目よ。そこの二人も立ち上がらせなくちゃ」

知絵にせき立てられ、哲弥は二人をどやしつけた。

「早く立てよ!」

二人がぶつぶつ言いながら立ち上がったのを見ると、知絵は歩き出した。

「じゃ、帰りましょ」

 しばらく五人は知絵の後に続いて歩いていたが、突然知絵が立ち止まった。

「あなたたち、わたしが同じところを回っていたのに気づかなかったの?」

「もちろん知ってたさ。ただ磯野は帰り道が分かってると思ってついてったまでさ」

そう答えた哲弥も、次の知絵の言葉にはびっくりした。

「わたし、帰り道なんて知らないわよ。ここまで来れたのは今坂くんの服が見えたからなんだから」

話を振られた則之は焦りだした。

「そんな、困るよ! 僕たち夢中で入ってっただけで、帰り道なんて覚えてないよ」

他の四人も互いに顔を見合わせた。

「でも、辺りの様子や方角を確かめながら行けば、きっと道は見つかるわ」

ゆかりが励ます。

「いつも目がいいって自慢してた良原さんなら、何か見えるかもね」

奈緖子の問いに秀夫は頭を振った。

「いくら視力が1.5でも、これだけ木があると無理だよ」

「みんな、この樹海では磁石は効かないってこと、忘れてるだろ。それに、ここだけの話だけど俺はすごい方向オンチなんだ」

「それじゃわたしたち、もう永久にここから出られないの? 嫌よ、そんなの嫌! こうなったらわたし一人でも出口を見つけ出すわ!」

 知絵はそう叫ぶと駆けだそうとした。が、ゆかりと奈緖子がとりすがる。

「このハイキングは、班対抗合唱大会に向けて団結力を強めるために来たんでしょ? そんなことをしたら班がますますバラバラになっちゃうじゃない」

「磯野さん、お願いだから単独行動だけはやめてください」

二人の言葉を聞いているうちに落ち着いてきた知絵は、

「分かったわ」

と言うと、ナップザックからビニールシートを取り出した。

「とりあえず、座ってゆっくり考えましょう」

「そうだな、体力を消耗させないためにも休もう」

哲弥も同意した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る