6◇貴族が本当に貴い一族ってことある?
───例の事件が起きた場所から15分位歩いたところ。
まあそうは言ってもaglが大幅に上がった今、歩いた時間はあんま当てにならないけど場所にセリアの家、つまりティーミール伯爵家はあった。
何か物々しい雰囲気漂ってるけど大丈夫なのこれ?
なんか同時多発テロ起きたみたいな警備体制なんだけど。
「セリア様、いつもこのような感じなのですか?」
貴族様のお屋敷って、こう……なんだろうね、もうちょっと物々しくないというか、優雅で余裕がある感じを想定していたんだけど。
それともあれかな、なんか非常事態でも起きて緊急!みたいな状況なのかな?
もしかしなくてもさっきのエネステラ?みたいなやつが原因だったりするのかな。
「いえ、今日は特別騒がしいですね……今日は夜食会等の用事はなかった筈ですが……」
どうやらセリア様にとっても特別事態っぽく、不思議がっている。
こてん、と首をかしげるその仕草から清楚さというか純粋さを感じさせるよね。
既に私には失われているもの……いやいや、そんなわけないか。
私だって花の15歳、純粋さに溢れた一般人だから……!
「只今帰りました、誰かいませんか?」
「セリア!無事だったのか。お前が向かった方向で『エネステラ』が出たっていうから今兵を動員してたんだが……おーい!セリアが無事だったから元の持ち場に戻れ!……で、そこのお嬢ちゃんは誰だ?貴族令嬢じゃあないだろ?」
そう言って屋敷から出てきたのは中年のおっさん(推定セリア様のお父さん)だった。
このままだと不審者扱いされて駆除されそうだし、ここは私から自己紹介したほうが良いよね。
いやでも貴族だから言葉を遮った罪として罰せられる可能性も……うむむ。
どっちの可能性が高い……?
まあいざとなったらセリア様が減刑してくれるでしょう。
よし、自己紹介にしよう……!
「冒険者のハナと申します、セリア様と──」
「ハナさんが『エネステラ』から守って下さったのです。もしハナさんがもしいなかったら今頃どうなっていたか…」
セリアさんに話を遮られてしまった。最初遮ったのは私のほうだから文句も何もないんだけども。
まあでも的確というか事実……でもないか。
メルケルトさんがいなかったら助けられなかったんだから。
セリア様自体は別かもしれないけど、少なくとも周りの人はね……
「ほう……ハナと言ったな、冒険者ギルドのランクは何だ?」
ここで嘘を言っても仕方ないよね?
というか嘘をついてもすぐにバレると思うし。
「Fです。なにゆえ一昨日に登録したばかりなので」
この2日、長いように見えてなかなか短いなぁ。
「……まあランクなどはどうでもよい、セリアを助けてくれたことには変わらない。何か欲しいものはあるか?ある程度ならお礼として差し上げよう」
む、今あからさまに困惑してなかった?
まあいいや、お礼、お礼、そうだなぁ……正直今欲しいのは「安住できる家」か「安定した収入」だけども……
うん、強欲極まっててよくないよね。
しょうがないし、直接お金を貰うか、金貨1枚位ね……いや、待てよ。
ここはお礼要らないって言って、恩を売るっていうのはどうだろう?
我ながら良案かもしれない。貴族に伝手があれば何かと楽だろうし……
ただより高い物はないとか言うしね。
それにそんなにヤバそうな人じゃないし。
そもそもあの純粋無垢セリア様を育てた人でしょ、
「すみません、今は特に欲しいものはないので大丈夫です」
「無欲な子娘じゃなぁ…そういえばお主は学校に通っておるか?」
「いえ、通ってないです」
元の世界では中学に通っていたけど、ここでは通用しないだろうし……そもそももうすぐ中学卒業の時期だったんだから、どちらにせよ通ってない扱いで良いと思う。
言い方はあれだけど意図せず中卒になっているわけね、最終学歴が。
「じゃあ、折角だしセリアの同級生になってくれ。ワシが王立高等学院に受験金を出しておくからのう。確か受験は明日の9時からだっけか?まあ頑張れよ」
どういうこと?
要は「王立高等学院」ってとこを明日、受験することになった。
…ってなんでよりによって明日なの?
それに名前からして難しそうだけど受かる気がしな……そういうことか!
このおっさんはもし私が受かれば自分がお金を出したし入試の権利をあげたという事で貸しがなくなるどころか私に精神的な貸しを作れる。
落ちれば、一応貸し借りはなくしたことにできるからどちらにせよ良い…ってことか。
それに私が特に欲しいものはないって言ったから今から決定を覆すのは不自然……謀られたな。
やっぱ貴族って面倒くさいね。
というか地味に落ちる前提で進んでいるんだろうね、それで万が一受かってもいいように……みたいな感じなのか。
「わかりました…不肖の身なれど精一杯努力させて頂きます。御期待に添えない可能性もありますがご了承下さい」
精一杯の皮肉で対抗する。
文系……というか、もっと語彙力とか煽り語彙が豊富なら上手く言い返せたんだろうね。
「おお、そうだ!今日は泊まって行ってくれ。ワシが無理言って受験させようとしているわけだしセリアに教えさせよう。そうすればセリア自身の勉強にもなるじゃろう」
皮肉をガン無視された私の気持ちを答えよ。
本格的に私が受かった時用に恩を売って来たよね。逃げ道が塞がれたとも言うんだけど。
まあでも勉強がヤバいのは事実だし、セリア様と会話するのは会話するのは楽しいしいいや。
それにここの常識とかも集められそうだしね。
情報収集はいつでも大事、最優先事項だからね。
……それに、普段の宿屋にいるよりは安全性高そうっていうのもある。
夜中に殺されかけたら『
その後がヤバそう、貴族パワーに圧殺される気しかしない。
「わかりました。泊まるのは無理ですが、ある程度までなら休ませて頂きます」
そういうわけで、宿泊とまではいかないまでも少しだけお世話になっておこう。
「ジョセフ!客人だ。案内してやってくれ」
「わかりました、旦那様。では客人、こちらへ。お嬢様はご自身のお部屋にお戻り下さい」
ん?私もセリア様の部屋に行くんじゃないの?どこに連れてかれるんだろうか。何かやらかしたっけ?
「貴女は少し汚れているのでお風呂に入ってもらいます」
あ、やった。お風呂に入れる。地味に嬉しい。
やめたほうがいいよ。
覚えとけよこの野郎……!
いつか権力パワーで上回ってやるからな……!
あ、この陶磁器綺麗。どうやって作ったんだろう。
◇
───ティーミール家の執事、ジョセフに案内されて、お風呂に連れてこられた。
「お風呂の入り方はご存知ですか?」
「はい、知ってます。浴槽に入る前に洗うんですよね」
お風呂の入り方を知ってるってことで多少
あ~~久しぶりのお風呂気持ちいいわ……
ここから出たくないなぁ。
やっぱり家買わなきゃ!というよりお風呂付き一軒家が欲しい!
でも学院受かったら冒険者とかやる時間あるのかな?
そしたらお金稼げなくない?
まあいいや……今は何も考える気がおきない。
お風呂とか
もう手っ取り早く魔術かなんかでお風呂できないかなぁ……そしたら楽なのに。
あ、もしできるなら家も作れた方がいいよね。
《固有魔術を習得しました。命名して下さい》
────
効果:mpを500消費し、浴槽とシャワーを設置できる。但し2時間で消失。mpを300追加することで2時間延長可能
────
…都合の良さの塊だね。
こういうのをご都合主義っていうのかな?
とりあえず名前だけ決め…ん?
名前?前回はそんなことなかったよね?何か基準があるのかな?
まあ名前は『お風呂メイカー』で。
わーい、これで何時でも何処でもお風呂に入れる。
但しmpは必要な模様。
これからもmpを上げていこー。
──さすがに長風呂しすぎたかな?
…多分30分はかかってない位じゃない……かな。
なら大丈夫な範疇でしょ。
貴族を待たせるなんて無礼だ!とか言って斬られないよね?
よし、それじゃあ名残惜しいけどそろそろ出るか。
『お風呂メイカー』も何故か覚えたし。
服を着て、適当に髪を整えて、よし!いざセリア部屋へ……
って、あれ?セリア様の部屋どこ?
「あ、ハナさん!お風呂に入ったんですね」
運良くセリア様が来てくれたから問題が解決した。
あの執事ぐう無能。執事してなくない?
「私の部屋はこっちです」
それからセリア様の部屋に行って勉強している。
今は「魔術」の科目を勉強して(させられて)いるけど全然わからない。
明日の入試落ちる説が濃厚になってきた。
まじでわからない……
「ハナさん。教科を変えましょう。さすがに疲れたでしょう。…そうですね、次は数学でいいですか?」
得意分野来たこれ。
まあもし数学でもダメなら本格的に詰みなんだけども。
「勿論です!むしろかかってこい!って感じです!」
「…急に元気になりましね…それじゃあそうですね…魔術があれ位だったから…まずは正負の数の計算から…」
「む。それくらい解ります。普通に難しい所からでいいですよ」
「そうですか?ではこの問題はできますか?」(この問題は分野複合問題で難しいから多分ハナさんではできないでしょう。手元を見て出来ていない所から…)
「この問題簡単じゃないですか。まずこの長さを三平方の定理で出して、後はぱぱっと計算して答えは2√2です。簡単でしょう?」
「?なんで数学はこんなにできるんですか?じゃあこっちの問題は…」
「簡単な確率の問題ですね。反復試行の考え方を使えば、答えは128分の21ですね。」
「?反復試行ってなんですか?」
「ベルヌーイ試行とも言うのですけど…えっと、この問題は銀貨を……」
──2時間後。
「この問題はこうできるよね、セリア」
「はい、ハナさん」
立場が逆転してた。
どうしてこうなった?
後、セリアが助けてもらったのに様付けとか敬語はおかしい!って言われたからなるべくやめるようにはしたけどまだ抜けきらない。
なんていうかセリアの出す貴族オーラに圧倒されてね。
どうしても敬語が出ちゃうというか……まあ私は卑しい民なので、はい。
「すみませんお嬢様方、そろそろ夜食の時間です」
「すみません、長々と。私はもう帰ります」
「どうしてですか?夜食も食べていきましょうよ」
「ちょっと用事がありますから」
そう言ってティーミール伯爵家を後にした。
セリア様が不満気にこっちを見てたけど、どうしようもないからなぁ……後「これはほんのお礼です」って言われてお金…金貨10枚貰った。
貴族にとっては僅かな金額かもしれないけど、手持ちが銀貨4枚しかなかった私からすれば大金なんだよなぁ…とりあえず文房具買わなきゃ。
このままじゃ試験すら受けられない。
そういえば文房具買うって言っても筆記試験あるんだろうか。
あったらあったで多分出来ないだけなんだけど……特に歴史とか地理とか…
ん?そういえば当初の目的であった商店街巡りできてないじゃん……
また今度機会があったらゆっくり巡りたいなぁ。
なんだかんだ言って絶対できない気がするけれども。
まあ、そんなことはともかく。
今日もお疲れ様でした。お休みなさい。
『少女世界攻略記録』 けゆの民 @keyulatyi
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。『少女世界攻略記録』の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます