4◇ありふれた魔術適性全属性チート


──朝になった。

いや、正確には10時頃になった。

普通に寝坊してるじゃん、どうしろと?

というか普通、異世界ものってそういうのなくない?

なんかこう、もうちょっと人間として終わってない生活してる人が多いものなのよ。

ほら、転生したから本気だすわ~~みたいなね?

それに比べて、この体たらくよ……


まあつまり何が言いたいのかと言われれば、だよ。


「また、朝ごはん抜きかぁ……」


……過ぎたことは仕方ない、過去改変なんて能力を異世界転移で身に付けられなかった以上諦めるしかないか。

今日は何しようかな?

そんなわけで特に行き先も決めずに外に出る。

別にインドア派ってわけでもアウトドア派ってわけでもないけれど、見知らぬ土地に来て引きこもるかって思うほど陰の者極めてないから……


自分のステータスを暇潰しついでに眺めながら、そういえばと思い立つ。


この世界って普通の魔法ってあるよね?例えば「ファイヤーボール」とか「ヒール」とか……

そういう一般的な魔法、流石にあるよね?

この……そう、『舞踏城タンゼンシュラウス』みたいな明らかに特殊!って主張してくるもの以外にもあるはず。

そして、そういうのは大抵門外不出の奥義…みたいのには認定されてないから教えてもらえるはず。


……よし、聞きに行きますか!


というわけで、気づいたら何故かギルドにいた。

まあここにしか来る場所ないしね、というか魔法習得ってこういうとこ位しかないんじゃない?

それかテンプレに従うなら、魔術ギルド的なところ。


ちなみに、ギルマスは探すまでもなく普通に突っ立ってた。

もしかしなくても相当な暇人……?


「なんで受付してるの?新人冒険者逃げない?」


ほら、少なくとも万人受けする顔じゃないじゃん?

厳ついし、子供が見たら全力逃走する人もいるんじゃない?

……流石にそこまで口に出すことは出来ないので、心の中で自由に貶していく。


「どうせここにはあんま人来ねぇし、来たとしても俺のことを知ってる奴らだけだろ。それにヒルデのやつも休暇が欲しいだろうからな」


ヒルデって普段おとといの受付の人かな?っていうかあの人しか受付嬢いないのか……あれ?

…ってことはこのギルド今この人しかいない?

異世界でも人手不足……というか、下手したらそのヒルデさん、ブラックなスケジュールになってるんじゃない?

24時間死ぬまで働きます的な。

work or die……そんな異世界やだ。現実味ありすぎでしょ。


「今日はどうした?あの機械か?それとも依頼か?」


あー、確かにそれやってもいいけど生憎お金もモチベも戦闘能力もない。

なんで冒険者やってるんだろうね、一回見つめ直したほうがいいと思う。


見つめ直した結果、ゴーサインが出たので会話を続けていく。

コミュニケーションにおいて大事なことは会話、意志疎通、そう……うん。


なんかいい感じの言い訳が思いつかなかったので脳内で猿芝居している人になってしまった。

ああそうだ、そろそろ話を戻さないと。


「いや、魔法を教えてもらおうと」


「それは…さすがに無理だな」


ケチくさいなぁ。

魔法の1個や2個位教えても減るもんじゃないのに。

希少性は減るかもしれないけどさ。

でもそんな門外不出奥義を教えてって言ってるわけじゃないのにね。


「なんで?ギルマスは怪我を治せるんでしょ?じゃあ魔ほ…」


「なんだ、魔術のことか。言っておくがな『魔法』と『魔術』は別物だぞ」


あー、『魔術』は『魔法』の劣化版っていうパターンか。

まあよくあるやつだなぁ。

場所によっては逆だったりするんだけども。

というかそんな明確な区別する必要ってあるのかな?あんまないと思うんだけど。

…テンプレ繋がりで言えば、属性の適性とかあるんだろうか?

あったら全属性使える珍しい人とかになれるのかな?その方面でのチー…


「その前におまえどうせ自分の属性適性知らないだろ」


おっ来た!これは…ワンチャンあるのでは?全属性魔術無双の開始の時が……?


「確かに知らないわね」


うん、そしてこのギルマスの言い方から魔術適正を調べること自体はそんな難しいことじゃないらしい。

そういうわけで、何の遠慮もせずにその試験とやらを受けにいく。

まあそんな大層なものじゃなかったけれどさ。

ちなみに無料だったんだけど……ギルマスってやっぱ年下好──何でもない。


ともかく、結果だけ先に言おうか。


結果は…全属性だった!

あ、全属性とは火属性、水属性、風属性、土属性の四つのことね。

一応補足しておくと、ここでいう全属性の他にも氷と雷属性があるらしい。

でも4属性が使える時点でそれらも使える事が確約されてるからその4つで全(素質がある)属性…っていう意味らしい。

紛らわしいから改名してほしいよね。


「お、全属性か、よかったな」


ん?扱い軽くない?もっと持て囃されるものじゃないの?

すごい!!全属性なんて1024年ぶりの快挙だよ!ゆくゆくは天才魔法使いだね!!

…てみたいに。

まあされない、っていうことなら……


「全属性って珍しくないの?」


それぐらいしか落とし所がないわけで。

むしろ大半の人が全属性使えて、使えてない人が落ちこぼれ劣等一属性極め無双するパターン?


「珍しいかと言えばたしかに100人に1人位しかいないから珍しいんだが、結局使うのは一か二属性なんだよなぁ…まあ全部を熟練しようとすると大体器用貧乏になるからな。ハナも気を付けろよ。」


そういうことか…っていうか100人に1人か…意外と多いな。

それに器用貧乏ねぇ…ん?待てよ。

なんで器用貧乏になるんだ?全部使えば……あ。

恐らく四属性も魔術を使えるmpがないんじゃない?

だから1か2属性に統一して個々を強くした方が結果的に強くなる…と。

じゃあ不思議之住人か何かでmpが増えやすいだろう私は全部使えるのでは?おっ、まだ魔術無双の未来は潰えていなかった。

じゃあ次のステップは……


「どうやって魔術使えばいいの?」


「使ったことないのか?まず体外の……」


ギルマスの丁寧な説明を要約すると、自分の体の中にある魔法だか魔術を願う部分?っていうよくわからないものを「詠唱」っていうこれまたよくわからない理由で作動させて「魔術」を使う。

つまり『詠唱して魔術を発動する』らしい。

本音を今言わせてもらえば、元の世界でもそんな仕組みあったらよかったなぁ……


「で、『詠唱』では何て言えばいいの?」


「そこの本に全属性の下級魔術の詠唱は書いてある。適当に持ってっていいぞ。…勿論ちゃんと返すならな」


そりゃあ返すよ。当たり前じゃん。

ギルドを出てどっかで詠唱の練習しようかなって思ったけどギルドの訓練所で使えばよくない?


───と、いうわけなので訓練所に移動した。

え~と、この本によると…


「燃え盛る根源よ!我が意のままに従いて、敵を穿て!ファイヤーボール!」


技能スキル:【火属性魔術】を獲得》


…炎が出たけど小さいし少し進んだら消えてしまった。

これで敵を穿つとか不可能では?

…魔術の詠唱なんて得てして誇大妄想の厨二病塊みたいなものだから良いけども。

まあ、折角の機会だし他も習得しときますか。


「押し流す根源よ!我が意のままに従いて、我が身を癒せ!ヒール!」


「吹き荒れる根源よ!我が意のままに従いて、我が身を包含せよ!ウィンド!」


「聳え立つ根源よ!我が意のままに従いて、我が身を護れ!ウォール!」


なんか規則性ありそうだよね、なんてことを思いながら特に気持ちも込めずに詠唱してみる。

ついでにイメージを変えたりしてチート出来ないか試したりしたけど変わらなかった。ぐぬぬ……


技能スキル:【水属性魔術】【風属性魔術】【土属性魔術】を獲得》

《条件の達成を確認したため『限定空間制御ディメンションオービス』が成長:『限定空間制御マルチ・ディ・オービス』に成長》


~~~

限定空間制御マルチ・ディ・オービス

空気中に漂うマナと地面に浸透しているマナと体内に存在するマナを用いて最大半径25m程の様子を把握する。

mpを秒間10消費

~~~

……何か出てきたけどパスで。

とりあえずこれで全属性の下級魔術を習得できたらしいから、ステータスを見るか……っていうか毎回全部読みなおすの面倒なんだよなぁ……mpと《スキル》だけ表示!とかできないの?

あ、出来そう。

もしかしてステータスって一番おかしいものなのでは?


~~~~

mp…651/654

技能スキル

…【火属性魔術】lv1

…【水属性魔術】lv1

…【風属性魔術】lv1

…【土属性魔術】lv1

番外技能エクストラスキル

…【重複魔術マルチスペル】lv1


特殊技能ユニークスキル

…【御伽之城主ミッシング・エリア】lv2

…【◼️◼️◼️◼️】lv1

~~~~

ん?mpが3しか回復してないし、最大値も654になってる?

後者は技能スキルのおかげだとして、前者は…多分魔術使ってる間に1回復したのかな?

まあいいや、今日は帰ろっかな……


宿に帰ってきてから気付いたけど【重複魔術マルチスペル】で一度に大量の魔術使って、レベル上げできないかな。

ファイヤーボールやウォールは宿内だから使えないとしてヒール使うか…ってそういえばそれぞれの魔術ってあれで効果固定?


~~~~


「ファイヤーボール」

目の前に火球を生み出し敵に向かって秒速5m程度で進む

消費mp=(飛距離m^2)×(直撃ダメージ)×(直径÷10m) (全て1以上)


「ヒール」

味方、もしくは自身を回復させる

消費mp=(3×回復値) (1以上)


「ウィンド」

味方、もしくは自身の移動速度を上昇させる

消費mp=(持続時間s)× (agl上昇倍率^3) (全て1以上)


「ウォール」

目の前に土の壁を作る

消費mp=(持続時間s)×(耐えられるダメージ) (全て1以上)

~~~~


……異世界に来てまで数学チックなことをやらされるのね。

私は大歓迎だけど、人によってはアレルギー反応で血反吐を撒き散らすことになるんじゃないかな……っと。


うん、ヒールとウィンドはここで全部1で使えば大丈夫そうだね。

っていうか「ウィンド」……『舞踏城タンゼンシュラウス』の下位互換では…?

まあいいか。じゃあ今日は休養日ってことで、もうここから出ない事に……いや、その前に日持ちするご飯を買いにいこう。

どうせ明日以降も朝ご飯食べれないんだろうし。


そういえば落ち着いてこの商店街もどきを通るのは初めてな気がする。

最初は宿探してたし、その次は教会への行き帰りだったし…なんか面白い店かつ今の所持金(銀貨5枚)で買える物ないかなぁ……宿代とご飯代で大分残金も少なくなったなぁ…

……そうだ!

ギルドの依頼掲示板に『新職業の報告』ってあったじゃん!

あれで予測者とか既死者とかをギルマスに報告すればよくね?

まず予測者のことを話してそれでダメだったら既死者を言えばよくない?

それでもダメだったら……その時に考えるか。

よし、善は急げって言うしギルドに行こう!


「ギルマスいる?」


どうせいるでしょ、なんていう安直な発想で特に何も考えず呼びつける。


「お、ハナか。どうした?俺に直接用事なんて」


「いや、ちょっとこっちきて」


「お、どうした?」


「ちょっとあの『新職業の報告』っていう依頼受けたいんだけど…」


「ホントにいいのか?職業は重要な情報なんだぞ?それにその職業が新しいものかわからないんだぞ?」


「大丈夫大丈夫。ダメだったらその時はその時であるから」


そんなものない。口から出任せである。

というか異世界転移したての私にそんな手段があるわけない。

あっちがわかることじゃないけれど。


「で『予測者』って新しい職業?」


「……本当に言っても良かったのか?それ新職業だぞ」


「ほんとに?報酬はどれくらい貰えるの?」


「その前に何かこの職業を獲得する心当たりはあるか?」


「……完全にない、わけでもない。ゴブリンの動きを見切ろうとしたからかも」


「流石にないだろ。だったら一定以上の実力があるやつなら誰でも『予測者』を得られるだろうからな。何か別の要因があるんだろ。なんか他にあるか?」


「何もない」


……本当にないんだよね。

後は異世界転移関連だけど……それにしては名前がそれっぽくないし。


「まあいいか、取り敢えず報酬を出さないとな。ほい、これが報酬の金貨20枚だ」


「新しい職業が見つかったにしては安くない?もっと沢山くれてもいいのよ?金貨200枚どーん…みたいに」


「そうか?新職業が見つかったって言っても条件が判らないからな…条件も判ってたら報酬は多分10倍から物によっては100倍位にはなるぞ。そういえハナは『予測者』になったのか?」


少なくとも本当の職業は言わないとして、どうしようか。

『予測者』って事にするかそれか何か別の職業になったって事にして誤魔化すか……

まあでも別の職業に成ったって言ったら、どうせその職業について聞かれそうだし。

『予測者』ってことにしておこう。幸いにも私には『限定空間制御ディメンションオービス』っていう『予測者』っぽい固有魔術があるから誤魔化せるでしょ。


「勿論『予測者』に成ったわ。っていうか面白そうな職業があったら普通それにするでしょ」


「いや、これまでの行動から「なんとなく『軽戦士』選んだ」みたいな事をいいかねないからな」


「私ってそんなに信用ない?」


「どこに自分の職業適性も魔術の属性適性も知らない人を信用するギルドマスターがいるんだよ……まあ半分冗談だ。ハナの事は高く見てるぞ。いずれかなりの高ランクに成るんじゃないか?」


「お世辞ありがと。それじゃあ明日以降のご飯買わなきゃいけないから」


そういってギルドから商店街に戻ってきて、ついでに昼ごはんもたべた。

明日以降の朝ごはんどこで買おうかな?

……まあ定番のパンでいいか…いや、パンだと消費期限まで大体2日程度しか持たないだろうなぁ…

もっと長持ちするやつじゃないと…じゃあ果物類と野菜、後あれば豆を買おうっと…


「すみません。この辺りにある果物屋を知りませんか?私は余りここに来る機会がないもので」


突然私と同年代位の令嬢に話しかけられた…身分の高そうな服着てるなぁ。いいなぁ可愛いなぁ……って私に聞かれてるのか!


「私もここには初め来ましたけれど、果物屋の場所は判りますので案内しましょうか?」


やばっ、噛んだ。

『て』が虚空の彼方に消し飛んだ。

まあこういうのは勢いで誤魔化せばいいんだよ!


「是非ともお願いします。所でこの辺りに初めて来たということは貴女も貴族令嬢ですか?すみませんが貴女をサロンなどで見たことがないもので…」


「私はただ王都に来たのが最近なだけで貴族などではない一般市民ですよ」


「そうなんですか…あっ!そういえばまだ名乗っていませんでした。私はティーミール伯爵家のセリアと申します」


ホントに貴族令嬢だったよ。

私みたいな一般市民が話していいのかな無礼だとか言われて、気付いたら首飛んでないかな?

それに貴族ってあんまいい印象がないしなぁ…よくある小説みたいにこの子の親が横暴だったりするのかな。

それか実はこの子も傍若無人だったりして……まあその時はその時に考えよう。

とりあえず全力で敬語使うか。

いざとなったら技能『靴舐め』と『賄賂』を使おう。


「すいません、申し遅れました。私は名乗る程の者でもないのですが…ハナと申します。それでは私に付いてきて下さいますか?」


「そんなに堅苦しくなくていいですよ。それでは案内をお願いしてもいいですか?」


まあ何となくそんな感じではなさそうだけどね。

いい貴族っぽい。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る