1.5◇ちなみに奴隷っていう概念、この世界あるの?


ちなみに手渡されたお金は銀貨5枚だった。

悲しいことに現代価値に換算した時の金額がわからない。

私の一般常識君が悲鳴をあげはじめているよね。


っていうかagl速いな…もう見えないんだけど。

もしかしてあれ?ここの人類っ全員ウサイン・ボルト越えの化け物フレンドリーパークだったりする?

だとすると、私は弱肉強食の最下層に位置することになるんだけど……


さて、ギルドに行って身分証を発行してもらうんだったよね。

まあわかってたことだけど……ギルドってどこ?

色々致命的過ぎるでしょ。頭働いてるのかな?


まあいいか。

適当に歩いてたら見つかるでしょ。

ケルトさんが言わなかったってことは何も言わなくてもわかるくらい有名か、それとも死ぬほど目立つかの二択だし。

最悪持ち前のコミュ力君を利用して聞けばいいからね。


そういえばケルトさんは普段どこにいるのか聞いてなかったな。

レントル商会ってとこにいけば会えるかな。

まあそのレントル商会とやらの場所も知らないけど。

まじで終わりじゃん。やっぱり奴隷堕ちルートが最適正なのかもしれない。いいご主人様に拾ってもらえるといいな、なんてね。

まだ尊厳やらを捨てるつもりはないから暫くは足掻きますけどね。


そんなどうでもいいことを考えながら、私は異世界の風景を見渡す。


やっぱり人が少ないなぁ…まあ日本と比べるのがおかしいんだけど、私のイメージではもっと屋台や売り場みたいのがあると思ったんだけどねぇ……


でも、元の世界の中世みたいに道端に排泄物とかゴミとかが落ちてるわけでもないし、やっぱ魔法による差かなぁ。

魔法とかいう物理法則に真っ向から反逆してる……どういう仕組みなんだろうね、あれ。

もしこの世界が本物だっていうなら、それを探るのもありかもしれない。

まずは奴隷落ちルートから外れた後で。


そんなことを考えながら道なりに歩いていると教会らしき物が見えた。

折角だし入ってみよう。

一応こんな表通りにある施設だし、テンプレみたいに児童誘拐殺人人体実験カーニバルになってることもないでしょ。

……夜っていうのは少し不安要素ではあるけどさ。


まあ最悪ヤバそうだったら逃げればいいか!


「──失礼します」

そう言ってから教会に入ったが誰もいなかった。

やっぱり静寂な雰囲気だなぁ。私の家は別に特定の宗教を信じてる訳じゃないけど、やっぱりこういうとこに来ると何か『それっぽさ』みたいのを感じる。

なんだっけ、ロゴスだかポトスだかそんな感じの言葉なかったっけ?まあいいや。


「すいませーん。誰か居ませんか?」


……本当に誰もいないっぽい。

しょうがない、また今度にするか。

今度こそギルドを探そう。


再度道なりに沿って歩いていると王城についた。

うん、街に入る前から見えていた巨大な建物だね。

西洋風というかここが西洋風異世界だということを示す一番の証拠。

……え?ギルドどこ?あと宿どこ?

このままだと非公認で街に入った上野宿する完全なる不審者が完成するんだけど。


「すみません。ギルドとこの辺りの宿の場所を教えてください」


私は恥を忍んで城の周りの兵士に聞いた。

丁寧に教えてくれた……めっちゃ不審がられたけどね。


言われた通りに進むと「ルフイエの宿」という名前の宿があった。

一文字違ったら海底に有りそうな宿だなぁ(棒)

ルルイエ……

そういえばこの世界って他の転移だか転生者っているのかしら。

それも探すか……ってやることが山積しすぎだなぁ。


そう思いながら宿に入って部屋をとった。

3日で銀貨4枚だった。高いのか?

一応ご飯もついてるけど。うーん、わからないなぁ。まあいいや、ギルドに行くかぁ……


夜だから閉まってる、とかなければいいけど。

街の門が開いてたってことは、まだ深夜ってわけじゃないんだろうし……

それにケルトさんも行けって言ってたから流石に開いてるはず。


宿から出て数分歩くとギルドがあった。もしかして異世界系ラノベで定番と化したイベント「冒険者から絡まれる」みたいのがあるかも?

夜だからないわ、うるさいな私のテンプレ異世界。


「初めまして、冒険者ギルドにようこそ。登録の方はこちらに依頼の方はあちらにお願いします」


…王都だからかギルドも丁寧だなぁ、最初が小さな街とかだったらまた違ったかも。

その場合農村ほのぼのライフが始まったのかもしれないけど、召還されたのが薄汚い大都会だったから仕方ない。

畑を耕す道は諦めて、立派に奴隷落ち回避を目指そう。


「すいません。ギルドに登録したいんですけれど」


「それなら、この記入用紙に必要事項の御記入をお願いします。」


何々?名前、性別…年齢…職業…技能……なるほど。


「これって全部書かなきゃいけないんですか?」


「技能や職業は隠したいと考える冒険者もいらっしゃいますから強制はしていませんが、パーティーを組む時にそれを見て判断される方がほとんどなので、本当のことを書く冒険者も多いですよ。」


「ありがとうございます」


名前は…ハナ でいいか、漢字とか名字を書いて変な誤解とかされたら嫌だし。

ほらよくあるじゃん?『名字持ちってことは貴族!?』『違うよ』『は??詐欺じゃん奴隷ルートだわ』みたいなの。

ないか。


性別は女、年齢は15、職業は……無職って書きたくないなぁ…よし、空欄にしよう。それで最後に技能だけど…私の【御伽之城主ミッシング・エリア】って「特殊」技能なんだよなぁ……しょうがないけどここも空欄で。

面倒事を回避する技能は無駄に高いからね。

地雷探査とかできそう。


「これでお願いします」


受付の人は職業も技能も空欄だったことに少し驚いたのか目を少し見開いている。

何かしら書いとけば良かったかなぁ。でも流石に嘘はかけないし。

そっちのほうが面倒じゃん?


「それではこれでカードを発行しますが開始ランクはFからでよろしいですか?」


えっ?そういえばランクって最低何?

よくある感じならFかG位かな?


「すいません、ランクについて教えてください」


…受付の人の目が完全に見開いた。どうも、田舎異世界出身です。


その後二、三分続いた説明を要約すると

最低ランクはF で街の雑用や弱い討伐系統の依頼をやって、そこからE.D.C.B.A.S.EX っていう順番で上がっていくらしい。最終的には皆Cランクくらいまでには行くけれど、C以上はあんまりいなくて冒険者の上位10%位って言ってた。それ以外も細かい事項とか色々説明してたけど…まあ要するにテンプレ通り。

まあテンプレと少し違うのはギルドは別に国並みの権力がある訳じゃない…ってこと位かな?


「もし、戦闘に自信がないようでしたら、ギルドの訓練所を利用したら如何でしょうか。勿論何かあった時のためにギルドの者がつきます。本来は銀貨1枚必要なんですけれども初回ですので無料で構いませんよ。」


おっ、それは単純にありがたい話。

なぜって…まず私は今lv1の上、日本でぬくぬくと温水で育ってきた一般人だから恐らくこの世界のlv1より圧倒的に弱い。

だから返事は一瞬で決まった。

考えるまでもないね。


「よろしくお願いします」


「では此方にどうぞ」


どうでもいいことだけど、きっとこの受付嬢さんも私より強いんだろうなぁ。

私少し駆け足だもん、あっち歩いてるっぽいのに。


そう言われて案内された先にはなにやら厳つい男の人がいた。

やばい鬼教官タイプかもしれない……拝啓、お父さん、お母さん、私は──


「よう、俺がここのギルドマスターのリユニオンだ。この施設の詳しい説明は受けたか?」


あ、予想よりは口調が丁寧。これは勝ったかもしれない。

お風呂入りたい。


「いえ、受けてないです」


「なら説明してやろう。この訓練所は正式には『低等級怪物仮想戦闘体験装置』っていうんだが、まあ…そんな長ったらしたい名前はどうでもいい。重要なのはゴブリンやフォレストウルフとかのモンスターと戦う訓練ができる、ということだ。これの便利なとこはアイテムや素材は手に入らないが経験値は入るというとこだ。…あと出てきてから五分立つと自動的に消える所も最初のうちは役立つな。」


なるほど??

つまりモンスターとの仮想戦闘装置ね、ありがたい。


「でもそれなら皆外に出なくならないですか?」


だってここで戦ってるだけで無限に経験値的なの貰えるんでしょ?


「残念だが普段よりもらえる経験値は凄く少ない上に同じモンスターで貰える経験値に上限があるから無理だな」


ぐぅ、準備ガチ勢チートの道が潰されてしまった。かなしい。


「そういえば、ここでケガした場合どうなるんですか?」


「別に治ったりはしない。が、俺は回復魔術も一応使えるから無料で治してやろう。」


あらこのギルドマスター、優秀じゃん。

ケガしたら痛そうだけど、こんなに安全そうな場所、他にないしなぁ…


「じゃあお願いします。とりあえずゴブリンをお願いします。あ、一番弱いのってゴブリンであってますよね?」


「ああ、その通り一番弱いぞ。…少し待ってろ…よし。あと30秒したら出てくるからそこの円の範囲に入っとけ。」


「あ、はい、分かりました」


そうして示された円状の空間に入って少し待つと、さっき見たゴブリンが出てきた。来る!…? 

さっきの奴より動きが遅い?

相変わらす醜悪な声を出しながら殴りかかってくるゴブリンを技能もつかわずにいなして逃げていると、ギルドマスターが話しかけてきた。


「攻撃しないのか?」


あ…攻撃手段がないことに今気付いた。しょうがないから5分間ゴブリンの動きを観察してるか…


─そろそろ5分間位経っただろうか ゴブリンの動きも大分読めてきて暇に成ってきたなぁ…


あ、五分。


5ゴブリンが光の塵となって消えていった。


「なぁ、なんで一回も攻撃しなかったんだ?」


「ゴブリンの動きを観察するためです。後ゴブリン二匹お願いします。」


「ああ、わかった」


また少し待つと、ゴブリンが二匹出てきた。

少しは辛いかと思ったけど、二匹がコミュ障だったのか協力してこなかったのと、さっきのゴブリンで行動を読んでいたのが幸いして難なく五分経ってしまった。

かなし……くはないけど、若干期待を裏切られた感。


「次、三匹でお願いします」


「まだやるのか?まあいいが。よいしょっと」


…あっ出てきた。


うん、突進。いつもの。

よけて、少し退く。はいよけれた。


…やっぱり簡単だなぁ、基本的に真っ直ぐ殴りかかってくるか、ジャンプしてから殴りかかってくるかの二択しかないからめちゃくちゃ簡単だし、これで最後にしようかな…


《固有魔術『限定空間制御ディメンションオービスlv1』を習得しました》


…ん?何か変なのがでてきた。mp足りるかわからないけど使ってみよ。

名前的に即効で殺されるっていうことはないでしょ。流石に。


《『限定空間制御ディメンションオービス』を使用するには魔術名の詠唱が必要です》


あっ、そうですか。それじゃあ遠慮なく。


「──『限定空間制御ディメンションオービス』!」


…おお、後ろのものが見える。

どう説明したらいいかわからないけど後ろが見える(語彙力不足)

これなら楽勝では?ってあれ?急に後ろが見えなくなった!もしかして…


~~~~

名前:?

種族:人類種

lv1(ボーナスポイント:+0)

職業:無職

hp…8/10

mp…0/10

str…5

vit…5

dex…5

agl…15(+10)

luc…2

特殊技能ユニークスキル

御伽之城主ミッシング・エリア】lv2

称号

『唯一之取得者』


「固有魔術」

限定空間制御ディメンションオービス』lv1

~~~~


予想通りだぁ、やっぱりmp切れてたわ。

っていうか私の魔法mpの燃費が基本的に悪すぎない?

さっきの『舞踏城タンゼンシュラウス』も中々に消費するし、その後のデバフ解除魔法に至っては使用不可能じゃん。


そんなこんなで5分経ったらしく目の前で飛びかかろうとしていたゴブリン達が消えていった。

儚い命……


「なんで攻撃しなかったんだ?」


「そりゃあ、攻撃手段がないからね…ってすみません普段の口調がでてしまって」


一応年上なんだから敬語で行かなきゃね。礼儀は大事。


「冒険者同士なら基本誰にたいしても敬語はあんまり使わないから、わざわざ作らなくていいぞ。後何か武器貸してやろうか?新人歓迎ってことで今なら無料でいいぞ」


あらありがたい。


「そもそも武器って何があるの?」


残念ながら私は温室平和育ちなので武器は包丁と六法全書位しか持ったことない。


「…?そりゃあ短剣とか長剣とか弓とか杖とか色々あるだろ?」


「私にあっている武器って何だと思う?」


「そこからかよ…そうだな、さっきの動きを見る限り短剣とかいいんじゃないか?」


「じゃあ短剣でお願いします」



「わかった、持ってくるからここで待ってろ」


そう言うとギルマスはどっかに行ってしまった。


さて、何もできない。どうしたものか。


限定空間制御ディメンションコオービス』を使おうにも【御伽之城主ミッシング・エリア】関係の魔法を使おうにもmpがないから検証もできない。

そもそもmpってどれぐらいで回復するの……?


どうしようか…そうだ、さっきギルマスが弄ってた機械を弄りにいこう。

なんか面白いことないかな、っと。


えーと、確かこれなはずっと…お、いけた、ふーん、ゴブリン、フォレストウルフ、……割りと種類はあるのね。

……あれ?何この『ウェルファイドの分霊lv1』?なんでこれだけレベル式?しかも分霊だし。

あと、レベル式なら何でlv2以上がないんだろう?

まあいいや押してみよ。lv1なら私とレベルは同じだしいけるでしょ。ん?

それに最悪でも5分で消えるし。


《注意 この設定は高位階者推奨です 本当に実行しますか? 実行/拒否》


…やめよう。高位階者が何かわからないけど少なくとも私でないことくらいはわかる。拒否を押してから離れとこ。


「持って来たぞ。ほい、これだ」


ギルマスが戻って来て持ってきたのはまあまあ装飾が施された高そうな短剣だった。


「高いんじゃないですか?この短剣」


「ああ、高いぞ。確か白金貨3枚とかだったはずだ。」


白金貨の価値はわからないけど高いことぐらいはわかる。少なくとも私の今の全財産よりは高い。

やっぱり奴隷落ちルート……ま、まさか。

ギルドマスターって年下趣味?

一歩距離あけとこ。


「じゃあなんで新人冒険者にそんなものを?」


「今、これしか短剣がなかったからだ。はい、じゃあこれ」


そう言われて短剣を渡された瞬間──


《固有武器:クレルモンに認められました》


おっ、これは私にしか使えない武器で無双するパターンでは?

お、私の異世界無双物語始まる?


「ちゃんとクレルモンに認められたか?」


あっ…やっぱ違うか、もう少し夢くらい見せてくれてもいいじゃん。悲しいなぁ。


「うん、認められたよ。でこれに効果とかあるの?」


「ああ、勿論あるぞ。確か武器自体にmpを貯められる代わりに武器を使って斬っても斬れない上に攻撃力が素手で殴った位というよくわからない武器だ。形が杖とかだったら良かったんだろうがな。」


「今の私からしたらとてもありがたい武器だからそんなゴミを押し付けた様な目をしないで。それじゃあ今日はもう帰っていい?」


「ああ、勿論いいぞ。」


帰りがけにそういえばギルドにはどんな依頼が来てるんだろう?って気になったから依頼掲示板を見たら色々あった。


「Fランク向けは…っと『ゴブリンの討伐』『教会の掃除』『下級薬草の採取』『新職業の報告』『手紙の配達』…意外といろいろあるなぁ…」


明日にでも何かの依頼を受けてお金稼がないとなぁ…


ギルマスに帰る許可をもらったので、ルフイエの宿に戻ってきた。

銀貨1枚を払い、夜ご飯を食べて、無一文になって落ち着いてきた。

これからどうしよう……お金も技術もレベルもmpもない。

まあ最悪年下趣味のギルマスを頼れば何とかしてくれそうだけど、なるべくしたくないよね。


真面目に言うなら、王都のギルマスって言ってたから忙しそうなんだよなぁ…まあ明日ギルドで私でも出来そうな依頼を受ければ暫くは自転車操業でも生きていけるでしょ。

実験のためにさっき貰ったクレルモンを側に置きながら、とりえず寝よう。

今日は異世界に飛ばされて疲れたなぁ…

偶には自分を労ることも必要だよね?…というわけで、

今日の私、お疲れ様でした。それじゃあお休みなさい…

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