『少女世界攻略記録』

けゆの民

『異世界』の始めの一歩

1◇異世界転移ってもうちょっと予兆あるものだと思ってた

 

「まって?????まじでここどこ????」


よし、現実逃避するか。


「私の名前は片瀬花奈かたせはな!中学三年生で趣味はゲーム!点数のとれる教科は数学?と英語!」


私は現状を確認するかのように高らかに叫ぶ。

そして、自分の行動に疑問と羞恥を覚えて、自分自身を殴りたくなる衝動を抑えながら呟く。


「さてと、現実逃避はやめて状況を整理しよう(名案)」


確かいつも通りに学校から帰ったら…

いや、正確に言うならば、帰ろうとしたら知らない場所にいる、というわけだ。

さて、どうしたものか……?

あれは確か……35分前……いや、4分前のことだったか。


…………

……


『気付いたか』


「誰?通報した挙げ句に逆吊り処刑にするよ?」


私は意識を覚醒させたら、知らない場所にいた。

ちなみに罵倒は脊髄反射の賜物なので私の意思は関係ない。

というか今気付いた、スマホがない!やばやばじゃん。通報できない。

つまり、もし目の前の犯罪者が私みたいな美少女に欲情する変態だったら一発でアウトだよ。

え?美少女じゃない?

…ま、まあ、それはそれ、これはこれよ。

…ゲームとかのデータ消されてないかな、そもそもスマホ自体を壊されていたらどうしようもないなぁ……


『起きて第一声がそれか』


手帳にデータ復元コードあるかなぁ……

おっ良かった、手帳有った。もしなかったら近くにいるであろう犯罪者を訴えるとこだった…

いや、(おそらく)誘拐されてるんだし訴えたらお金もらえるのでは?(名推理)


『まあ良い、今からお主には所謂「別の場所への転移」…つまり異世界転移の様な物をしてもらう』


そのためにはどうにかして此処から出なきゃ、取り敢えず私をさらった愚かな犯罪者のご尊顔でも拝むか……

ん?今……


「異世界転移って言ったよね?あの最近人気だけど微妙にテンプレ化してきてるやつ」


『そうだ 、今から異世界転移の様な物をしてもらう』


いや話聞けよ。折角ボケたのに反応してくれないとマジで寒い人じゃん。


それにしてもヤバイ人に拐われたなぁ…(チラッ


(後光が出てる人がいる)


スッ(目線をそらす)


さてどうしよう……私が出来ることなんて精々大声を出すか発狂する位しかない。

後はビーバーの物真似?


『漸く話を聞けるようになったな』


普通、こんな状況に直面して話を聞こうって思える人はいないと思うんだけど。


「名前はよ」


私は犯罪者相手でも、未開の地に生きる原住民相手でも意志疎通コミュニケーションを取ろうとする寛容な精神の持ち主だからね。

そしてその意志疎通コミュニケーションには名前を聞くことが必須!

古事記にも書いてある。多分日本書紀にも書いてある


『名前など言う必要がない。強いて言うなら…っともう時間がない』


『お主にはこっちの都合で転移してもらう。適当に技能とか選んどいたからもう行ってこい。ステータスとかは適当にすれば見れるから』


説明が急に乱雑になったなぁ…

…そんなに焦って何するんだろう?

…あ、身代金要求とか?

なら確かに急がなきゃいけない…か?

それに私の家族はそんなにお金ないよ?200円とか300円なら出してくれるかもしれないけど。


「何言ってるかわからないけど、出来るもんならやってみたら?」


私が100%の虚勢を込めてそう言うと、何やらラノベでよく見るような形の魔法陣っぽい物が出てくる。

それは大量の光を放ち、あまりの光量に目を開けていられなくなり──


気付いたら森にいた。


「私の名前は片(略)」 


そういう訳で冒頭に戻るわけ。


「で、ここホントに異世界?」


ここは本当に「異世界」なのかと思い上を見上げると……上を見上げるって頭痛が痛いみたいに被ってるじゃん……

……ここはホントに異世界なのかと疑念を抱いて上を見ると、月が三つあった。お互い衝突とかしないのかな?

まあ、もしそれで大☆爆☆発とかされると非常に困るんだけども。

むしろ個人的には波の満潮とか干潮とかに影響でないのかな……

それはそうと、だ。一つ確実に言えることがある。


「ここ本物の異世界じゃん」


ならホントにステータスとか見れるのか?

……っていうか適当にすれば見れるって何?

ステータスって言えばいいの?


「ステータス!」


よし、言ってみたけど何が起こるわけでもなく────

え?

~~~~

名前:?

種族:人類種

lv1(ボーナスポイント:+10)

職業:無職

hp…10/10

mp…10/10

str…5

vit…5

dex…5

agl…5

luc…2

特殊技能ユニークスキル

御伽之城主ミッシング・エリア】lv1

称号

『唯一之取得者』

~~~~


はい?何か起きてますが??


おーけーおーけー。

突っ込みどころしかないけど、一応出てきた。出てきてしまった。

……まずだけども、「名前:?」って何?

ちゃんと「片瀬花奈」っていう名前があるんだけど。

そして「職業:無職」って何?中学生なんだが?

そして【御伽之城主ミッシング・エリア】ってなんだろう?

そんな恥ずかしい役職になった覚えはないんだけど。

あの犯罪者はんにんに色々と文句言いたいわ。

そして最後に一つ。


何でこの異世界転移、夜かつ森の中スタートなのかなぁ……


私は辺り一面の暗闇を見渡し、街灯一つない状況を見て溜め息を吐きながらそんなことを思う。

まあ悔やんで、うだってもしょうがないか!


取り敢えずこれから何するか考えよう。

①テレビか何かだと信じてひたすら撮れ高が上がるような行為をする

②本当に異世界だと信じて堅実に慎重に生きる

③夢だと信じる

…これくらいかなぁ…………①は月を見た感じウソっぽいし、もし①だとしてもそもそも完全に一般人である私に撮れ高を期待するテレビ局側があれ。

……③だったらここまでリアルな感覚はないだろうし…もしかしたら明晰夢みたいな奴かもしれないけど……まあ、とりあえず②と仮定して進もう。

ちなみに堅実に生きるとは言ってない。

まあ現実味がないからしょうがないよね。

流石に色々とやばくなったら考えざるを得なくはなると思うけど。


そう考えて歩き始めてから数分…周りの景色が木一辺倒から変化しないなぁ、とか思いながら歩いていると緑色のファンタジーの定番みたいな奴がでてきた。

まあようはゴブリンだ。

幸いにも、こっちにはまだ気付いてないみたい。

ばれないように避けていけば……あれ、これ目があってね?

逃げなくちゃ……ん?……っていうかあのゴブリン、メチャクチャ速くね?10mは離れていた筈なんだけどもう5mくらいになってね?


「待って、ストップ、Selten止まって!


「グギャギャ!」


ダメだこれ、ワンチャン言葉が通じる可能性を考えたけど全く通じてない……くそう、一応ドイツ語も試したのに。やっぱりサンスクリット語を覚えておくべきだった……!

そんなバカみたいなことを考えている内に、それに接近され、その手に持つ木で出来た粗雑な棍棒が振り下ろされる。


その速度は今までの走る速度とは比べ物にならないくらい緩慢なものだったが、初めて向けられた純粋な敵意に足がすくんで動けなかった。

そして、その結果は次の瞬間に……予想された通りにおこる。


「痛っ!」


……もう、追い付かれたの?

焦りのあまり、視界に入ってる情報を再度認識しながら考える。

ハァ…ハァ…何かないの?この状況を打開できる方法は、…この世界にきて変化した物と言えば…【御伽之城主ミッシング・エリア】。

ならこれで何かできないのかな?「特殊技能」なんでしょ?

何か特殊な事ができるはず……

私は、その「特殊技能」で何が出来るのを強く知りたい、と念じながらさっきの『ステータス』を開く要領で願う。

~~~~

【御伽之城主】lv1

現在使用可能技能一覧

舞踏城タンゼンシュラウス

a人にn分間aglとdexをm倍する

(a,n,mは1以上の整数)

mpをa×n×m消費

無詠唱可

使用後5n分間のリキャスト

~~~~


出た!うわっ、なにこの数式仕様。やめてよこんな異世界味ないの!

っていうか、そんなことより早く使わないと、えーっと…mpは10しかないから、mを3、aを1、nを3にして……発動!


「『舞踏城タンゼンシュラウス』!…」


『【御伽之城主ミッシング・エリア】の使用回数が一定回数を越えたのでlvが2に上昇しました』


なんか聞こえたけどそれどころじゃない!

確かに体が軽くなった!

……っけど足りない。

これでようやくゴブリンと同じくらいの素早さ……そうだ!さっきのステータスにあった「ボーナスポイント」っていうのを全部aglに振ればいいんだ!

ボーナスポイントを全部aglに振って、これでaglは大分上がったはず!…上がるよね?

お、よしよし、なんか体が軽くなった。

よし、後はこのバフが切れる前に逃げ切れれば………



ふう、なんとかなった…のか?

もうゴブリンも見えないし、森も一応抜けられたし…あっそうだ、折角だし落ち着いてステータスをもう一回見てみよう。

~~~~

名前:?

種族:人類種

lv1(ボーナスポイント:+0)

職業:無職

hp…7/10

mp…1/10

str…5

vit…5

dex…5

agl…15(+10)

luc…2

特殊技能ユニークスキル

御伽之城主ミッシング・エリア】lv2

称号

『唯一之取得者』

~~~~


ちゃんとボーナスポイントが反映されてるね。

なんか【御伽之城主】のレベルもあがってるし、何が変わったんだろう?


~~~~

【御伽之城主】lv2

現在使用可能技能一覧

舞踏城タンゼンシュラウス

a人にn分間aglとdexをm倍する

(a,n,mは1以上の整数)

mpをa×n×m消費

無詠唱可

使用後5n分間のリキャスト

(残り787秒)


十二時の鐘ディスペルベル

味方にかかっているデバフと敵にかかってるバフを解除する

mp(解除する数×200)を消費


~~~~


…『十二時の鐘ディスペルベル』、ねぇ……どうやって使えと?

mpが足りないせいでどうしようもないし、そもそもこれ複数人に掛けられるまでmp上がるの?

そんなことを考えながら適当な方向に歩いていると、視界の先に街が見えてきた。

The 中世…って感じ…かな?


「(東京と比べて建物の高さが)意外と小さいなぁ」


「そうかい?私はここより大きい街を見たことないんだが」


「ホェッ!?」


急に話しかけられたから驚いて変な声がでた気がする…落ち着いて話しかけてきた方を見ると、商人のような格好をした男が立っていた。


「驚かせてしまったのなら謝ります。私はレントル商会のケルトと言います。この王都を小さいと言ったお嬢さんはどこの出身かと思いまして」


あ、やっぱ商人だった。

それにしても…どうしよう…発言ミスったなぁ…まあ適当に誤魔化すしかないか、ていうかここ王都なの?


「いえいえ、この王都が小さいと言ったわけではなくて自分の出身地の集落が小さいなぁと思いまして」


普通に王都の街並みを小さいなぁ、とか言われたら……私の場合なら東京を小さな寂れた街だなぁ、とか言われたら怒らないまでも多少なりとも心証が下がると思うので慌てて付け足す。


「見ての通り私は田舎からここに来たもので普通の街がどれくらいの大きさかしらないんですよ」


一応補足的なことを言って、信憑性を上げておく。

こういう地道な努力はそんなに嫌いじゃないからね。


「ああ、いい忘れていましたが私の名前はハナといいます。何か有ったらレントル商会を利用させていただきます。」


私、片瀬花奈渾身の言い訳タイムもなんとか無事にのりきれたので、自己紹介がてら恩返しできる普通の人アピールをする。


「それは有り難う御座います。ところでつかぬことをお訊きしますが王都へ入るための身分証って持っていらっしゃいますか?」


あっ……

そんな物必要なのか。どうしよう…私……

……もしかして異世界に来て街に入れずに餓死する?

それともそこから流れる様な奴隷堕ちルートある?普通に嫌なんだけど。


「もしお持ちでなければ私の紹介という形で仮の身分証を作ってもらう、というのはどうでしょう?」


「それは有り難いので是非ともお願いしたいのですが、どうしてそこまで面倒を見てくれるのですか?」


私は無償の善意なんて信用しないぞ!

何か裏があるはず…


「ここで会ったのも何かのご縁ですから。それにもしこれで貴女が商会をご利用頂けたら利益にもなりますしね。」


その後も雑談を続けていると、この国の名前はトラウィス王国だということや王様の名前はウィシュト王だということがわかった。

まあ王様の名前なんてあまり日常会話では使わないから覚えてなくてもいいか。

まあ頭の片隅に座らせて置く位にしておくか。

そんなこんなで数分歩いていると、王都の城壁に近づいた。そして入場門に行くと…


「身分証を提示してください」


「すみません。この子は私の連れでして、田舎から出てきたばかりなんですよ。入ったらすぐに身分証を取らせるんで仮の身分証を発行してくれませんか?」


「ケルトさんの紹介なら信用できますし大丈夫です。あっすみませんが銀貨1枚払ってください。規定ですので」


「ああ、勿論です。規定は守りますよ。」


そう言うとケルトさんは兵士に銀貨を1枚あげ……えっ?


「ちょっ、ケルトさん?そこまでして頂かなくてもいいですよ。私が払いますんで」


「そうは言ってもハナさん、地方と王都では通貨が違いますよ?王都の通貨持ってるんですか?」


あっそもそも私お金持ってないじゃん。


「すみません、持っていません。稼いたら直ぐに返しますので今回だけ宜しくお願いします。」


「大丈夫ですよ。元々そのつもりでしたし。これが仮の身分証です。どこかのギルドでちゃんとした身分証は作れますよ。私はちょっと時間がないので申し訳ないですがここで別れさせて下さい。今日の宿はこのお金で何とかしてください。それではまた」


そう言ってケルトは走って…走ってない。多分ステータスのaglが高いだけだわ。

まあ兎に角…道の奥に消えていった。

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