第6話 王都からの呼び出し

ジュリがこの家に来てから2週間。

最初はいろいろ起きたがそれ以降は何事もなく過ごしている。

舞い込んできた何でも屋としての仕事をこなしながら本業の本を書き、普通の日常を送っている。

「功次さん。お茶です」

「おぉ、ありがとう」

部屋で仕事をしているとジュリがお茶を持ってきてくれた。

「頑張ってくださいね」

「あぁ」

ジュリもこの生活に馴染んできたな。

家の外でも中でも俺の仕事を手伝ってくれるので助かっている。


「ふぃ~終わった~」

昼前、今日の書いておきたい分が終わりリビングに戻ってくる。

ジュリは座って食器を磨いていた。

「あ、お疲れ様です」

「真式はどうした?」

姿の見えない真式について聞いてみる。今日あいつに仕事があるなんて聞いてないが…どこに行ったんだろうか。

「急に仕事が入ったって言って出ていきましたよ?なんか仕事の人が呼びに来ていたんで」

「そうか。まぁここでぐーたらしているよりかは働いていた方が良い」

てかあいつ仕事仲間に俺の家に住んでいること言ってあるのか…いい加減自分の家買えよ。

「ここからどうしますか?」

「そうだなー」

正直何も考えていない。やること終わると時間が余るのはどうにかしたいところだが…。

「…すみませーん」

玄関の扉が叩かれその声が聞こえる。

おっ?これは?

「ジュリ、出てきてくれ」

「分かりました」

人の対応などは出来る限りジュリに任せて困ったら俺が出るというようにしている。

それはジュリの人慣れを進めるためだ。

「功次さん、仕事です」

「はいほーい」

ジュリの後ろから出てきたのは、30歳ほどの男性だった。

「じゃあこちらへ」

ソファに座るように指示をする。

客と向かい合う形で俺も座る。隣にジュリも座る。

「今日はどのようなご用件で?」

この人は最近この町に引っ越して来た人のようだ。

そして今回の要件はその引っ越してきた家に空き巣が夜に入ってくるということでそれをどうにかしてほしいとのことだった。

「詰め所には言わなかったんですか?」

ジュリの質問に男性は

「夜中に見張ってもらうことは詰め所の役人はしてくれないので…近所の人に相談したら功次さんに頼めば何とかしてくれると言っていたので、今回依頼しに来たんです」

なるほどな。確かにこの町の詰め所は他の所よりは仕事をする良い人が多いが夜は見回りと緊急の駆け込みなどに備え待機しているだけで手一杯と聞いた事がある。

個人の家の張り込みなどは難しいか。

「分かりました。その依頼受けましょう」

「ありがとうございます!助かります!」

「では自宅の場所を教えてください。あなたが眠った際に張り込みを開始します」

俺は依頼人の自宅の場所を聞いて、夕食後に向かうことを伝え一旦帰ってもらった。

「私も行きますか?」

依頼人が去ったあと、隣にいたジュリにそう聞かれどうしようか悩む。

夜遅くだから家で寝ておいてほしいところではあるが、家に一人残して何か起きた時が怖いな。

真式も連れていくつもりだから家に緊急時に対処できる人がいなくなってしまうな。

それを考えた俺は

「じゃあ一緒に行こう。あっちに向かうまでに真式は帰ってきてるだろうし、あいつも連れていく」

「分かりました。それまでに準備しておきますね」

「あぁ。行くときは動きやすい格好でな」

「分かっていますよ」

そして良い時間になったので昼食をとることにする。

真式がいないのでそこまでの量を作らなくていいので楽だ。

一人分も二人分もそんなに変わらなかったりするが、あいつ程食べると話が違ってくる。

「…この町って治安良いですけど空き巣はいるんですね」

「そりゃそうだ」

昼食を取り、片付けも終わって休憩してるとそんなことを言ってきた。

「他の町に比べていいっていうだけで、王都の中央区とかと比べるとそうでもないぞ」

「…王都でも貴族や大商人の多い地区と比べるのはどうかと思うますけど」

「空き巣どころかたまにだが殺人は起こるぞ」

「たまにっていうのもすごいですけどね。だいたいどれくらいなんですか?」

あんまり考えたことはないな。仕事で他の町に滞在していた時とかここまで流れ着いてくるまでに見てきた分しか知らないしな。

「まー月に1度ほど?」

「十分すぎません?それ王都の外周区よりもいいですよ」

「そうなのか」

知らなかった。王都には中央区しか行ったことがない。中央区の道中で外周区は通るが、流し目で見るくらいだったしあんま覚えていない。

「てかよく知っているな」

「まぁ昔、奴隷じゃなかった時の記憶とかここに来てから読んだ本や町の人たちの会話で知りました」

「ジュリは賢いな」

褒めると少し照れた。

俺は純粋にすごいと思う。正直前から思っていたがジュリは賢い。人や物をすぐに覚える事が出来る。

俺は物事を覚えるのは苦手だ。それは人を覚えるのも。

生きていくのに覚えることが多かったからこそ死に物狂いでいろんなことを覚え出来るようになっていったから今は安定して生活できている。

俺は賢いこいつを素直に尊敬するな。

「ご帰宅だー」

ジュリとしばらく話していると毎度恒例の謎の帰宅の合図が聞こえてきた。

真式が帰ってきたようだ。

「おーお帰り。仕事か?」

「お帰りなさい、真式さん」

「あぁ仕事仲間が作業途中に怪我したようでな。ヘルプに行ってた」

「早めに俺への借金を返さなきゃいけないからな。仕事は多く行った方が良いからな。どんどん行ってこい」

「ぐふぅ…そんな笑顔で言うなよ」

こいつにはどんどん働いてもらって金を入れてもらわんとな。

友人というよしみで利子無し期限無し食費無し家賃無しの無し4連コンボなんだ。ここまでよくしてるから絶対返してもらう。

「そうだ。今日の夜は俺の仕事の手伝いしてもらうからな」

「へ?」

俺は真式に依頼された内容を伝える。

「え~今日は疲れたから夜寝たいんだけど…」

「じゃあ食費払ってもらうぞ」

「…はい」

こいつに拒否権はない。俺への借金を返さない限りな。

「ちょっとお手洗い行ってくる」

「あいよー」


「相変わらず人使い荒いぜ」

功次さんがお手洗いに行った後、真式さんはそう呟く。

「真式さんって…功次さんにどれだけ借金してるんですか?」

「前に聞いたら…80万ソルだってよ」

「えっ」

あまりの高額さに驚きを隠せなかった。

…何があってそんな借金しているんだろう。

気になって聞いてみると、買い物の借金とか問題が起きた時の示談金を肩代わりしてもらってそこまで増えたようだ。

この人は何をしているんだろう。

「功次さんが増しているとかは思わないんですか?」

「いや無いな。あいつはそんなくだらない事で嘘はつかない」

「信頼してるんですね」

「てかあいつ、俺の借金を事細かくメモってたんだよな」

「というと?」

「いつ、なにで、どれだけ借金したのかをメモしてた。それも具体的にな」

凄く細かい人だ。

「あいつ、お金に関しては滅茶苦茶厳しんだよ。普通にすげー金持ってんのに借りる返すに関しては1ソルたりともまけないんだよな」

「…真式さん、功次さんと仲は良いんですよね?」

「俺は良いと思っているけどよ…まぁ俺が借りすぎというのもあるのかもしれんが」

それは…そうだろう。友人に80万ソルも借りる人なんてまずいないと思う。

真式さんと少し話していると功次さんが戻ってきた。

「夕食を食べたら向かうからそれぞれ用意しとけよ」

「はい」

「めんどくせー」

今日は功次さんの仕事に同行する。

何度か何でも屋としての仕事を請け負っているところは見てきたけど、同行は初めて。

内心少し楽しみだ。


「じゃあ行くぞ」

夕食を食べ終わり、皆動きやすい格好になったので仕事に行くことにした。

「被害にあうのは夜中なんだろ?こんな早くに行かなくてもいいんじゃないか?」

被害時刻よりもかなり早くに行くので真式が文句を言う。

「理由はあるぞ。依頼人の家を見てみないとどこで張り込みしようか分からないし、犯人がどこから来るのかも分からないからな。地形情報を把握する必要がある」

こう言った依頼は多いわけじゃない。だがないわけじゃないから動き方は分かっている。

「まぁここは経験がある功次の言う通りに動くよ」

「そうしてくれ」


町も街灯の明かりで照らされだす時刻。

人通りも少なくなってきた頃、俺らは3人で依頼人の家まで向かっていた。

「着いたぞ」

「…ここか。まぁ起こりそうな場所ではあるな」

大通りから離れており、治安が良いと言われるこの町の中では犯罪が多く発生する、少し治安が悪い場所だ。

…少し視線を感じるな。

「おぉ来てくれましたか。後ろの方は?」

扉を開け家の中に入ると、依頼人が出迎えてくれた。

「二人は手伝いで連れてきたんです」

「任せてください。とりあえず家の中を見させてもらってもいいでしょうか?」

「もちろんです。案内させていただきますね」

見回っていくといろいろ気づいた。

まずこの家の窓は鍵が付いていない。窓は二つあるが、一つは狭い街灯のない道と隣接している。もう一つは街灯があり、少し広い道と隣接している。

依頼人の寝室は街灯がある少し広い道と隣接している窓だ

「…なるほどな」

どう来るか読めたぞ。

「どうにかできますでしょうか?」

「任せてください」

「…でもよ、空き巣に入られるのは毎日ってわけじゃないんだろ?今日じゃない可能性があるぞ?」

真式が当然の疑問をぶつける。

「その点に関しては大丈夫だ。犯人は今日必ず来る」

「…そうなのか?」

後はどう待つかだな。


「じゃあ指示した通り動いてくれ」

「おうよ」「分かりました」

俺は二人に作戦を伝え、先に街灯のない狭い道の方から帰る演技をしてもらう。それと同時に、即興で作った俺と同じくらいの丸めた布団を真式に背負ってもらう。

「本当に大丈夫なんですね?」

「えぇ、任せてください。あなたはいつも通り『電気を消して』寝てください」

「わ、わかりました」

依頼人も言われた通り電気を消し、寝室に入る。

俺も定位置に着くか。

俺は街灯のない狭い道と隣接した部屋の天井に張り付く。吸盤式の道具を持ってきておいてよかった。

後は早めに犯人が来ることを祈るだけだ。これを維持するの結構つらい…。

   15分後

真下にある窓が開いた。

…来たな。

「…今日も失礼するぜっ!?」

俺は窓から乗り出した犯人の上半身に天井から降りる。そのまま犯人の体は引きづり出され床に落ちる。

うまくいったな。

「…ど…どうして…帰ったんじゃ…」

「あー、あれ?俺のダミー。お前か空き巣犯っていうのは」

馬乗りになり動けないようにしたまま会話する。

「なんでこんなことしたんだ?」

「…スリルを…楽しんでんだよ…」

「スリル?」

「バレるかもしれないっていう…スリルをな…」

「…」

訳わかんないな。…こいつに同情の余地はなさそうだ。

「お前は犯罪者だ。詰め所に突き出してやる。覚悟はできてるな?」

「なっ!?ちょ、ちょっと待ってくれ!」

「なんで?」

「盗んだものは全部返すからさ!詰め所に出すのだけは…!」

「いや、理由に同情できなかったから。どうせそうやって見逃してもまたやるだろ?だからしっかりお縄に付け」

まだ納得いっていないのか、何か言っているが俺はこの意見を曲げるつもりはない。

「…な、何かあったんですか?」

ドアを開け依頼人が顔を出す。

「起きましたか。こいつが犯人ですよ」

「そ、そうですか!ありがとうございます!」

後は真式たちが戻ってくるのを待つか。そんな遠くに行くようには指示してないからすぐ戻ってくるだろう。そう思っていたら

「…おい、お前!盗んだものを返すから!見逃してくれ!」

空き巣犯は依頼人に許しを請う。ただ依頼人は

「…無理だ」

少し悲しそうな声で依頼人は言う。

「な、なんでだ!お前から奪ったものは傷一つ付けてない!全部返すから見逃してくれよ!」

まだ空き巣犯は喚くが依頼人は

「…君は…僕の…妻の…妻の形見を壊したんだぞ!許せるわけないだろう!」

そう叫んだ。…マジか、こいつ。

「君がぶつかって壊した、壺があるだろう!それは僕の大事な妻が大事にしていた、妻の形見だったんだぞ!それを壊したお前を許すと思うか!」

「…くっそ」

空き巣犯は依頼人の魂の叫びを聞き、黙った。余計情状酌量の余地がなくなったな。


「結構早かったな」

真式に詰め所に空き巣犯を突き出してもらって、俺とジュリは依頼人の家から合流していた。

あの後、戻ってきた真式から縄を貰い空き巣犯を縛り、真式に詰め所まで持っていってもらった。

どうやらここらで被害が出ていたが実態が掴めず、詰め所もうまく対応できなかったらしい。俺が捕まえたという直筆の紙を出せば、しっかりとした手続きをしなくても詰め所は対応してくれるので、真式に直筆の紙を持たせた。

こういう時は多少の知名度は役に立つと感じる。詰め所の代わりに犯罪者を取り締まることがたまにあるので、詰め所も理解してくれているのは助かる。

「でも報酬を貰わなくても良かったんですか?」

ジュリが心配して聞いてくる。

ジュリの言う通り俺は依頼人から報酬を貰っていない。

「いいんだよ。彼には自分のためにお金を使ってほしいからな」

空き巣犯に妻の形見を壊されている。そんなつらい状況でお金を貰うことは出来ない。そのお金を壺を修復するのに回してほしかったというのが理由だ。

「にしても、なんで今日来るってわかったんだ?」

「それ、私も気になります」

二人は俺の読みに質問してくる。

「んー正直半分は勘なんだよな」

「え?マジで?」

「一応理由はあるんだけどさ…依頼人の家に向かうときに視線を感じたんだよ。ただ見ない顔だな程度であれば気にしなかったが、明らかに良くない気配を感じたんだ。だからこれは犯人のものに違いないって考えただけ」

「でも私たちがいるのを気づいたら帰るんじゃないですか?」

「いや、視線を感じたのは依頼人の家から近かった。犯人は電気が消えて侵入できるのを待っていたんだと思う。そうなると俺らが家に入ったのは気づいてるから、俺らが出てこないと待ち伏せしていると感ずかれる。だから二人には俺のダミーを持って先に出てもらった。暗い道だと俺どうかは判別しずらいからな」

「な、なるほど。やってることは分かった」

二人に説明していると、自宅に着いた。

「もう寝よう。普通に眠い」

「そうだな。俺も疲れた」

「そうですね。こんな夜まで起きてたのは初めてです」

俺らは全員疲れてたので、家に入ってすぐ自室で眠りについた。


次の日

「功次!起きろ!」

「な、なんだ!?何か起きたのか!?」

真式に起こされた。一体何が起こったんだ!?。

「町の広場に貴族選民議会きぞくせんみんぎかいの役人が来てる!」

「…なんだよ。それがどうしたんだよ」

別に選民議会が来ることぐらいたまにあるじゃないか。それを何故こんな事件が起きたかのように起こされないといけないんだ。

「…俺はまだ眠い。寝させろ」

俺がそう言って布団に再度入ろうとした瞬間

「選民議会がお前を呼んでんだよ!」

…なんだって?選民議会が俺を呼んでる?

「…はぁ!?なんで!?」

「知るかよ!俺も仕事の道中で広場を通ったら選民議会が来ていて、功次を出せって言ってたんだよ!」

貴族選民議会…この国の領地を統治する貴族や役人を選ぶ国の機関。

そんなお偉いさん共がなんで俺なんかを?

基本的に町の統治にはその町出身の者を選ぶらしいが…俺はこの町の者ではない。

じゃあ…一体?

「…とにかく行くしかない」

「そうだな」

俺が着替えてリビングに降りて広場に向かう用意をしていると

「…なにが起きたんですか?」

眠そうな顔でジュリが起きてきた。

「あ、ごめんな、ジュリ。ちょっとバタバタしてて」

「いえ、良いですけど…どうしたんですか?」

「…功次が貴族選民議会に呼ばれた」

「…えっ!?」

ジュリも真式の言葉に驚き、眠気が飛んだようだ。

「ど、どうしてですか!?」

「さぁな、それは分からない。だから行ってみるしかない」

「わ、私も行きます」

「待っててもいいんだが…ついてくるか?」

「はい。急いで準備します」

ジュリも来るのか。一人だと若干心細いのもあったから、拒否はしなかった。


「つ、着いた…」

俺らは走って広場に来た。選民議会が来ているからか、町の人が集まっていた。その中にはティナやバルコルのおっさん、クラレイなどの知り合いもいた。

「伊波真式殿、その隣の方が世垓功次殿ですか?」

広場の中心に設置された台座に選民議会の役人が男女2人ずつ立っている。背後には7人ほど護衛らしき騎士もいる。そして女性が一緒に着いた真式に気づいた。

その質問で集まっている町の人は俺らの方を見る。

「…は、はい。彼が世垓功次です」

「左様ですか。では世垓功次殿こちらへ」

真式がこんなしっかりとした話し方しているところを見るのはいつぶりだろうか。

「…分かりました」

町の人たちは道を開けて、役人まで一直線の道が出来る。

…正直目立つのは苦手だ。だがここで退くと選民議会に悪印象だ。そうなるとどんな面倒が起こるか分からない。素直に従うしかない。

「では壇上へ」

指示に従いながら、俺は壇上に上がり役人たちと対面する。

すると女性役人より豪勢な服を着た男性役人が前に出てきた。

「今から言うことを心して聞け」

「…はい」

どんなことを言われるかと内心怖い。悪い事じゃなきゃいいが…。

「世垓功次殿。貴殿はこのミョルフィアの統治者となってもらう」

「…へ?」

「…え?」「…なっ!?」

俺の予想していなかったことを言われ固まってしまう。奥ではジュリと真式の驚きが聞こえてきた。

「したがって委任状を渡すため王都まで来ていただく」

「す、少しお待ちを。私が?ここの統治者?」

突然の発表に困惑し、待ったをかける。

「そうだ。名誉なことだ。ありがたく引き受けよ」

そんなとんとん拍子で事を進められても困る。少しは俺の話を聞けよ。

「申し上げますが私はこの町の統治者にはなれないのでは?私はこの町の出ではない故」

「本来であるならばそうだ。だがこの度は伯爵デルタルトが突然の死を迎え、そのご子息も消息を絶ってしまわれた。突然の事で後任を用意できていなかった」

「だと仰られても私が統治者になる道理がありません」

貴族選民議会は国の機関の中でも特に規則に厳しいと聞いた事がある。そんな奴らが規則に従わず、俺を選ぶなんてきっと何かの手違いだ。

「我々もこの地の出の者で力のあるものを複数選出をした。だがその者たちが言うのだ『私達よりも世垓功次の方が良い』と」

誰がそんなことを言ったんだよ。

「その者たちが言った、貴殿『世垓功次』とはどのような人物であるかを調べさせてもらった。そこで発覚した貴殿の行い、経歴、町の者の声から我々貴族選民議会は満場一致で貴殿をこの地の統治者として認めた。そのため我々が代表として貴殿に通達しに来た」

「…えっと、規則とかは?」

「今更そのような古いものに囚われていては国は進まない。結果的にあの伯爵デルタルトは古くからこの国を支えてきた家系ということで残していたが、あまり良い影響を持たなかったことは国王陛下も我々も分かっておられた」

「は、はぁ」

「であるため伯爵デルタルトは何者かに暗殺されたということだったが、国王陛下も暗殺したものを咎める気を持たれなかった」

良かったな、その暗殺した人。というかデルタルトは国からもそう思われていたんだな。

「町の者も我々も貴殿がこの地の統治者となることを望んでいる」

「…」

統治者になるということは貴族になるということだよな。それは…いやだな。面倒くさそうだ。

しかも、俺は統治者になんかなる器ではない。

というか俺は誰かの上に立つようなことはしたくない。

…思い出したくもない故郷の事が脳裏に浮かぶ。

上に立とうとする者は必ず他にその立場を狙う者の反感を買う。

それで俺の人生が大きく狂ってしまうのはもうこりごりなんだ。

だから言おう。俺はなる気はないと。

「…無礼を承知で申し上げますが、私はその申し出を断らさせていただきます」

「…それは何故?」

「私は統治者のような皆を束ねる上の立場に立つ技量を持ち合わせておりません」

「…ふむ」

「それと統治者になるということは爵位をいただくということです。私に貴族というのは合いません」

俺が理由を述べていくと、役人は静かにそれを聞いていた。

「以上の事から、私は断らせて…」

「…貴殿は何か勘違いしているな」

「…へ?」

俺が心して発言すると、途中で止められた。

…いいのか?国のお偉いさんがそんなことしても。

「統治者という立場は貴族だけではない」

「そ、そうなんですか…」

「そして今回は異例の対応をこちらもしていることは理解しているため、断ることは出来る」

よ、良かった…。

「ただしこちらも頼み込む形となるが…一時的で良い。この地の統治者となってもらいたい。後任が見つかればやめてもらって構わない」

「それならば…まぁ、承りましょう」

短期間であるなら…いいか。貴族という立場にならないだけマシだな。

内心ここで少しでも見分を広めるのと、人脈を広げようという考えがある。

「決まりだな。皆の者!」

役人は町の人の方に振り向く。

「こちらの世垓功次殿が一時的ではあるが、この町の統治者となる。皆も知っておるだろうが彼の人柄は我々も認める素晴らしいものだ。異論はないな」

役人の言葉に誰一人も声をあげなかった。

正直皆が声を上げて選ばれないということを考えたが、そんなことは起きなかった。

「では、世垓功次殿。我々と共に王都へ来てもらえるか」

「…はぁ!?な、なんで!?」

突然の言葉に驚く。別にわざわざ王都まで行くことないじゃないか。爵位を受け取りに受け取るわけじゃないのに。

「一時的とはいえ統治者となるのだ。委任状を国王陛下から受け取るというのがしきたりだ。多少不満があるかもしれないがご同行願おう」

さっきまで古いものどうこう言ってたのはどこのどいつだ?

「…まぁ実際の所、国王陛下が君に会いたいというのが本音だ」

「国王陛下が?」

「なんでも貴殿はギルド『イアラロブ』所属なのだろう?王城内にはイアラロブの者の著作物が数多くあるのだが…国王陛下は貴殿の作品を気に入っておられるのだ」

「は、はー。それはありがたき幸せ」

「国王陛下は貴殿との謁見を望んでおられるのだ。どうかご同行を」

まぁ国王がそう言うのであれば、拒否するわけにもいかない。ここでこれさえも断れば『イアラロブ』のギルドマスターに何と言われることやら。

「…分かりました」

「では今すぐ…」

「ですが一つ条件があります」

俺は役人の言葉を遮り発言する。だいぶ無礼な事をしているが、この際いいだろう。

「まだ何か?」

最初に真式に俺を呼ばせた、女性が少し睨みながら聞いてくる。

やはり今のはイラつかせたか?

「えぇ、あの二人の同行の許可を願いたい」

そして俺はジュリと真式を指さす。

「…え?」「…お、俺も?」

驚いて二人とも固まる。

「…まぁそのくらいなら構わないが」

「ならば王都まで同行しましょう」

「少しの間ならば、我々も待機する。何か用意をするものがあれば用意してきても良い」

「分かりました」

そうして俺は壇上から降り、二人の元まで向かう。

「お前ら一旦帰るぞ」

「えっと、分かりました」「お、おう」

俺らは一旦自宅に戻る事にした。


「っはぁ~つっかれた~」

思わず、ソファに突っ伏してしまう。

「いいんですか?少しだけって言っていましたけど…」

「いいんだよ。俺は依頼された側だ。別に何時間も待たせるわけじゃないしな」

貴族選民議会と関わるのは初めてだったので滅茶苦茶疲れる。しっかりとした敬語を使うのは苦手だ。

「俺らもついていくのは良いんだけどよ…何がいる?」

力尽きている俺を見ながら真式は言う。

「そうだなーお前らは真式は王都に行ったことないんだっけ?」

「あぁ。だからどれくらいかかるかもいまいち分からん」

「ここから王都は2日程かかるぞ。往復で4日か。飯代はあちら側が出してくれるだろうからそこまで必要なものはないか」

お金を多少持って行って、後は何がいるかな…着替えはパーカー2着と下着でいいか。

そんなことを考えていると

「でも国王陛下に謁見するんですよね。私たちはともかく功次さんは公の場に合った服装で謁見しなかったら無礼では?」

「…そ、そっか。そう…だよな…」

「お前…何も考えてなかったな?」

「…あぁ」

ジュリの言う通りだ。国王に会うのにいつもの楽なパーカーなんかで行けば、不敬罪として周囲にいるだろう重鎮やら役人、貴族に冷ややかな目で見られるに違いない。

「マズったなぁ。ちゃんとした服なんか持ってねぇぞ」

「ティナとの仕事でしっかりとした服装の時あるじゃん。あれは?」

「あれはティナに借りた。だから俺のじゃない」

これならあの時に買っておけば良かった。

正直俺には必要ないと思っていたが…あの時ティナが『こういった服装は一着は持っておいた方がいいわよ~』と言っていた意味を理解できた。

「…でも、頼めば一応用意はしてもらえると思うますよ?」

「そうだよな。いきなりこんなこと言われて用意できてる方が変だよな?」

「…まぁそうでしょうけど…一着も持っていないというのも…」

ジュリにダメだしされ何も言えない。

「…よし。気を取り直して準備したら行こうか」

俺は気合を入れて立ち上がる。こんなところでクヨクヨしていても何も変わらない。一度決まってしまったからには、しっかりやろう。

「改めて聞きますけど私も行ってもいいんですか?」

ジュリが不安そうに聞いてきた。

「どうしてだ?」

「真式さんはともかく、私は一応奴隷ですので…」

「別にいいでしょ。どちらかというと、奴隷よりも友達という立場の真式の方が連れて行くのは難しいと思う」

「おい、なんでだよ」

「だって俺は認めないがジュリを奴隷として見るなら『物』判定だ。それなら俺の付属品として見られるが、お前は俺の『物』でもないし血の繋がりもない。俺との関係はジュリよりも浅くなるぞ」

「あー…なるほど?」

半分分かっているような分かっていないような真式。

「ということだから気にするな。ジュリは普通に王都観光みたいな感覚で来てくれればいいよ」

「分かりました」

「じゃあ準備していきますか」

俺らはそれぞれに必要なものを用意し広場に戻る。


「…彼、来ますかね?」

女性役人は男性役人に声をかける。

「彼がそのような事をする人柄でないことは理解しているだろう」

男性役人は凛と静かに腕を組み待っている。

「ですが彼は『議長』の言葉を遮りましたよ?あのような無礼を働くとは思いませんでした」

「そうだな。だが私は気にしてはいない。むしろ気に入った」

「何故でしょう?」

「私は一度彼の言葉を遮った。彼はそれの反撃とはいかずとも仕返しという意味合いを持って同じように遮ったのだろうと考えている」

「それは不敬では?」

「いや、彼は不敬であることを理解してなおあの行動に出た。目上の者に真っ向から言い返す度胸を私は気に入った」

「…ですが、それはあなた様が貴族選民議会の『議長』であることを知らないからでは?」

「いや、彼は私の身分を知ってもなお同じことを言うだろう」

「…左様ですか」

「そんな細かい事は気にせず、気長に待とう。必ずすぐ来るだろうからな」


「準備は出来ましたか?」

「はい」

俺らが広場に戻ってきた。女性役人の問いかけに俺は後ろ二人に目配せをして、確認を取り返答する。

既に馬車が2台用意してあった。用意周到だな。

「ではこちらの馬車に乗車を。我々は前方の馬車に乗るゆえ要件があった際はお呼びを」

「分かりました」

俺らが指定されたのは2台ある内の後ろの馬車だ。

役人たちが乗る方と差はあまりないんだな。

「じゃあ乗るか」

「そうですね」「馬車なんか久しぶりだな」

落ち着いているジュリと旅行気分の真式。

「気を付けてね、功次君。国王陛下に無礼をしないようにね」とバルコル。

「あぁ分かってるよ」

「王都のお土産よろしくね~」とティナ。

「…分かった。期待はするなよ」

「子供たちに土産話出来るようにね」とクラレイ。

「任せとけ」

皆に見送られて、これから俺らは王都に向かう。


今日も何事もない日を過ごすと思っていた。

そしたら仕事について行ったりした。

そして次の日。功次さんがまさかの統治者に選ばれてしまった。

世間的に見ればうれしいことだろう。

だけど功次さんは渋った。

それは過去の出来事があるから。

今回は一時的なもので、貴族などの上に立つ訳ではないので了承はしていた。

ですが一時的なものでも功次さんは苦しまないように出来る限りサポートしていきたい。私はそう考えている。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る