3話:籠の中(覇皇暦1907年秋節4期17日)
ぴょろひゅらひー、という気の抜けるような鳴き声に、一人の男と一人の少女は揃って上空に目を向けた。
淡く澄み切った秋晴れを、薄墨を被ったような数羽の小鳥が翔け抜けていく。
「おー、今のあれなんだろ。オッフレ分かる?」
「そこで僕に振る? まず自分で考えような」
「二秒考えても分かんなかったので知らないと判断した」
「僕も二秒考えたけど多分あれ新種だね」
「新種っていいよね、響きに夢がある」
「常識的に考えて目と鼻の先に街があるような場所で見られる鳥が新種とかありえなくない? もうそこの峠越えたらすぐ街だよ」
「くっ、夢潰えたり……」
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峠道をしばらく往くにつれ、頭上を飛び交う小鳥たちの数もかなり増えてきた。曇り空の色をした羽が陽の光を受けてきらめいている。
特に話すこともないので詩の表現を推敲していると街が見えてきた。どうも小鳥たちは街を本拠地としているらしく、街を囲むように飛び回っている。なんというか大規模な鳥葬に見えるな。
「やめてよ縁起でもない」
「辿りついたら内部分裂で滅んでました、なんて街は旅をしてると結構見るぞ、ここらで慣れておけ」
「ただ単に鳥に大人気なだけの普通な街かもしれないじゃん」
「そんな街が成立する訳ないだろう、鳥害を舐めるなよ」
「ほーん、そこまで言うってことは違ってた時の覚悟はできてるんだろうねぇ?」
「いいだろう、もし存在するなら街一番の料理屋で夕食を奢ってやるよ」
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─────
「やぁ、旅人さんたちかな? とりあえず入街許可証を作るからここに旅名と入街理由をお願いね」
普通に成立してた。
差し出された紙とペンを受け取り、二人分の名前と消耗品の補充のため立ち寄った旨を記入し返す。どこの街でも変わらない入街理由の確認だが、自分以外の名前をこの黄色くくすんだ紙に書くのはなかなか慣れない。というかなんでどこに行っても同じような紙なんだこれは。
「えーと、オッフレさんとフューシェさんだね。……はい、こちらがこのスプルヴの街の入街許可証だよ。街を出る時にはまた回収するからなくさないように持っていてね」
紐のついた鉄製のメダルを受け取り首にかける。いい感じの高さにあったのでついでに連れの首にもかけておく。
「私はペットかなんかか」
「すみません門番さん、この街のおいしい料理屋さんって教えてもらえませんか? できればこの子も食べられそうなやつ」
「おいこら私はそんな好き嫌いなんかしないぞ」
「そうだね……おすすめするなら広場にある串肉の屋台かな。優しい味付けだし、肉が新鮮で柔らかいから旅人さんたちにも人気なんだよ」
「広場の屋台ですね、ありがとうございます」
あんまり日持ちはしないからねー、という忠告に礼を言いつつ門を抜ける。一食で金貨数枚もするような高級料亭よりはマシだが……
「ねえ待って無視しないで、ちょっと、ねえって……歩幅違うんだからちょっとはこっちの事も考えてよ! あっこら逃げるな!」
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───
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広場の一角を中心に固まっている小鳥の塊を眺めていると、息も絶え絶えの少女が走ってきた。
「はぁ、はぁ、やっと見つけた……って、何見てるの?」
「お、フューシェか。今日はちょうど今から『漁』とかいうのがあるらしいぞ、お前も見ていくか?」
「何それ、近くに川とか無かったよね……いやナチュラルに流そうとしてるけど夕食、この際串肉でもいいからちゃんと奢ってよね。逃げたらダメだよ」
「わかったからとりあえず腕を離せ、普通に痛い」
地味に力強いんだよなこいつ。おい疲れてるからって体重をかけるな肩が抜ける。
ぴょろひゅらという鳴き声の中に、ふとキィン、と金属音が混じる。
小鳥たちが丸ごと網の中に捕らえられていた。
え?
「今日は大漁だぞー!」
「いつもの事だが解体は丁寧にやれよ! 肉が崩れてると評価額下がるからな!」
「人手足りんぞ、誰か手の空いてるやつ集めて来い!」
え?
「ねえオッフレ、串肉の材料ってあの小鳥たちかな」
「多分そうだな、僕たちも気づけなかったということは集中系じゃなく幻覚系だろうしこの街があれらに大人気という訳ではなさそうだね?」
「いやぁ当人……当鳥? たちの意識の中では大人気って言っても間違いじゃあないと思うんだよね、だから串肉ちょうだい?」
「そうか……なら仕方がない」
「ふふーん、じゃあ早速屋台に……って逃げるな! それはずるい!! ちゃんと奢っていけ!!」
「ちょっ首締まっ」
しっかり抜けたはずなのにいつの間にか関節を決められていた、どこで覚えたんだ格闘術なんて。
「素直に夕食奢ってくれたら私もこんなことする必要ないの、精々大銅貨数枚程度ケチケチしないでよ」
「はい」
「よろしい」
串肉は二本だけ貰えた、塩が薄く効いてて美味しかった。
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