永正17年(1520年)
第四百三十八話 歓待
首里城 大槌海軍提督得守
年末に前世で言う金武湾で数日待機させられ船の上で正月祝いをしていたら、那覇に回航するよう申し入れがあったので言う通り那覇まで来た。と思ったら話を聞きたいということで数人の護衛を引き連れて首里城に登城することになった。
「いやあすごいですな」
国の権威を示すためかずいぶんと立派な建物だ。前世でも朱かったがやっぱり朱い。迎えに来てくれた琉球の役人はどこか誇らしげに正殿に連れてきてくれた。
「拝謁賜り恐れ多く存じます。某、奥州阿曽沼家で海軍を任されております大槌得守と申します」
今回はそんなに持ってきたものはないのでとりあえず米と酒と鮭と甲冑一式に大小を献上したのもあり、表情は悪くなさそうだ。
「我が王、尚真は貴方がたの贈り物を大変気に入っております」
通訳を務めるのは近くの寺の僧で、なんでも京のどっかの寺で修行をしていたらしい。
「ありがたいお言葉です」
「それと我が王は貴方がたの住む奥州という土地やあの大船について話を聞きたいと」
そういうことなら喜んで、というわけではないし長くなるので掻い摘んで話をしていく。
「なるほど、今の領主が聡明なお陰でここまで船を出せたということか」
そう言ってくるのは羽地うどぅんという王の分家出身の大名だそうだ。通訳なくても話せる人がいたか。自分で話せるのに通訳を介するのが面倒になったか。
「ただ我らの土地は広いですが寒く、米はあまり期待できない土地でございます」
「なるほどな。それで海に出て交易を求めたか」
まあ俺は船が好きだということもあるんだが、そういうことにしておこう。
「この琉球であれば砂糖のできる竹があるかと思ったのですが」
「そんなものはここにもないな。我らも明から買っている」
やはり無いのか。となると明まで行くしかないが、この時代は海禁された煽りもあって倭寇が、いや逆だったかな、まあどっちでも良いが明と正式な通商ができるか、倭寇に襲われぬか気になるところだ。
少し思案していると羽地うどぅんが王といくつか言葉をかわして再びこちらを向く。
「それで阿曽沼殿は我が国との交易を望むということだったな」
「そのとおりでございます」
明と直接交易ができなくてもこの琉球を介すればいいとなれば我らにとっても悪くはなかろう。
「交易は認めてもいいが条件がある」
「何でございましょうか」
厄介な事でなければ良いのだがな。
「なに与那国という小島が我らに従わんのでな」
「討伐を手伝えと?」
「そのとおりだ。どうだ悪い話ではなかろう」
交易の条件としては悪くないようにも思えるが。
「少し考えさせていただきたいのですが、宜しいでしょうか」
「何時までだ?」
「明朝には必ず」
そう言うと再び王と相談する。
「急な申し出なんだからそれくらいは構わんと仰せだ」
その言葉に胸をなでおろす。
「それはともかく、折角来られたのだ簡単なものだが食事を用意しているので食っていってくれ」
そう言うとどこからかうまそうな匂いが漂ってくる。これは豚肉か。猪とはまた違う脂ののり具合が堪らんな。
「カシラこの肉は猪とはまた違うのですか?普段食ってる猪より柔らかいのですが」
「ああ、これは山に住む猪では無く飼っている猪だ」
「よく知っておるな」
副長の質問に答えていると羽地うどぅんが寄ってきた。どうやら偉い人のようだがこんな気さくに寄ってきても良いのだろうか。
「これは羽地様」
「どうだ?こちらの食事は」
「大変美味しゅう御座います」
胡椒とも違う不思議な香辛料の味がするが美味い。
「こいつはピパーチという胡椒に似たやつだ」
「なるほど。これは殿に見せたいですな」
「ははは、こんなもので良ければいくらでもやろう。それはそれとしてここのあとはどこに行くつもりだ?」
「明まで足を伸ばしてみようかと」
そう言うと羽地うどぅんは少し思案したかと思うと筆と紙を持ってこさせて何かを書いている。
「そのまま伝手もなく行っても追い返されるだろう。俺の名で紹介状を書いておいたから持って行くが良い」
「そんなにしていただき申し訳が……」
「なに、こうすればお前たちも与那国を攻める手伝いをせざるを得んだろう?」
確かにここまでしてもらって手伝い戦の一つもしないわけにはいかない。俺が断るのを見越していたか。
「ところでその与那国というのは?」
「ウニトラというものが朝貢を断っておってな、二十年ほど前に先島が逆らったときに攻めたのだが、与那国は島の周囲が崖になっておって攻め入りにくくてな」
攻め入ったが追い返されたのだという。
「伺ってもいいかわかりませんが、どれくらいの兵を送り込むのでしょうか?」
「そらびーを将とした精兵三十人だ」
三十?与那国はそんなに人が少ないのか?それにしても少なすぎないか。
「なにか問題が在るか?」
琉球は戦があまりないのだろうか。
「いえ特には」
他家の戦に口を挟むものではない。それにしても海を渡るのだからあまりたくさんは連れていけないとしても、流石に二桁は少なすぎるだろう。二十年ほど前にあったオケヤカハチの反乱では三千の兵を用意したというから無理ではないだろうに。
「まあ言いたいことはわかる。だからだ、お前達の大船を使えるとなればもっと送り込めて戦が楽になるであろう」
「そういうことでございましたか」
羽地うどぅんの話をしばらく聞き、そして王様にうどぅんから報告され手伝い戦をすることになってしまった。
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