第三百四十二話 壊れた研究所を視察しました

遠野先端技術研究所 阿曽沼遠野太郎親郷


「結構派手にやったな」


 松の内も過ぎてようやく執務が一段落したので年の瀬に爆発事故をおこした弥太郎を見舞いに来た。


「これは殿、寒い中わざわざご足労いただきありがとうございます」


「いや気になっていたのでな。それで蒸気暖房の土管が破裂したと報告は聞いていたがどういうことなんだ?」


「あのあと色々試してみましたらですね、配管内に水が溜まって配管が破損するようです」


「対策はあるのか?」


「ええ、配管の所々で枡を置くのが一つ。もう一つは管を鋳鉄にしたいのですが鉄が足りませぬのでこちらは致し方ありませぬ。とりあえずバルブを置いて蒸気の流速を調節しようかと思います」


 それで対応できるんだな。


「ところでこれは暖房だったが蒸気機関でも起きるんだろ?」


「そういえば時々シリンダーが折れたと報せを受けることがありましたが、なるほどこういうことですな。てっきり冶金や工作精度の不備によるものとばかり思ってその方面で研究をしておりました」


 早速対策するということで蒸気を扱う技師たちを集めるという。


「それにしても研究所の建物も派手に逝ったな」


 死人が出なかっただけ幸運だったな。


「しばらくは長屋住まいですわ」


「おい、俺に恥をかかせるな。工部大輔であるにも関わらず長屋住まいなどあり得ん!あまり広くない邸だが、以前から用意していたのをやる」


「ええ!大きな邸など持て余してしまいます」


 今まで言っても聞かずに研究所を住まいにしていたが、この遠野の重要人物で役職付きを長屋にいれられるわけがなかろう。


「ええい!貴様には俸禄を五十貫文与えておるし小菊にも三十貫文与えておろう!下男下女も充てがってやる!」


 この機に邸に移ってもらい警備の都合で保安頭の人間を下男下女にしてやろう。今まで近くで張らせていたわけだが、これでいくらか保安局の者らの労働環境も良くなる。


「それと研究所は移設して拡大する」


「どこに移るのでしょうか」


「遠野学校の隣でどうだ。猿ヶ石川から水をひけるので水の確保もしやすかろう」


 遠野学校の隣に置くことでうるさいかもしれないけど小学生達が工業に興味を持ってくれるかもしれない。


「承知しました。それはそうと殿、以前からの懸案である鉄砲や大砲の改良は如何致しましょうか」


「ライフリングは付けられるか?」


「銃でしたら、工具を作ってみましたので……今回の事故でひん曲がってしまいましたが」


「……まずは銃でいいさ。ミニエー銃ができればそれだけで画期的だし」


 ライフル銃が量産化できれば射程が飛躍的に伸びるし精度も段違いに良くなる。そうなれば今の鉄砲の技術がもれてもアウトレンジできるし、鉄砲の射程が伸びれば大砲を運ぶ必要性が減るだろうしな。なんやかんや重い大砲を運ぶのは骨が折れるからね。それに雷管が実用化できれば弓を無くすことができ……硝石の問題があるからそれは無理だな。


「それと研究所に希望する児童らがいたらいれてやってくれ」


「職場体験ってやつですか?」


「ああそうだ。もちろん危険な機械などもあるだろうけど、兵学校ばかりに取られても困るのでな」


 少しでも興味を持ってくれればな。


「火薬などの研究もしてほしいが、化学に詳しいやつはいないしなあ」


「そうですな簡単なものなら説明もできますが」


「俺も簡単なものならできるが、こう大身になってしまうと今まで通りというわけにはいかなくてな」


 こうやって研究所に来るだけでも調整しなければならない。


「まあ冶金から発展させてもらうしか無いか」


「気の長い話になりそうですな」


「そうだが、まあ悲観することはない。今三年生の者だが、加熱すると風が起こることに興味を持ったものがおってな。うまく育てればなかなか良い線に行くかもしれんぞ」


「其の者の名はなんというのですか?」


「子屋(ねのや)という小さな商人の瑠流という次男坊だな。後期課程にもなんとかやるそうだ」


 商売のセンスは嫡男のほうがいいようだが次男はなんというか学に長けているようで、もしうまく育てることが出来れば取り立ててやろう。


「子屋瑠流ですか、字にするとなんか理想気体とかの法則を発見しそうな名前ですな」


 そういえばそうだな。キラキラネームとしか思わなかったぞ。名前が関係する訳では無いだろうが、もしうまくいけば儲けものだな。


「しかし承知しました。その瑠流……折角なのでシャルルと呼んでやりましょう。シャルルが来るようならしっかり鍛えてやりますよ」


「頼んだ。ところで別茶路の三人衆はどうしている」


「ワトウ等ですか、あいつらはすっかり蒸気機関に嵌まっておりますな」


 ワトウは蒸気機関の改良をしていたようだが、最近はどれくらいの力を発揮できるのか調べるのを専らにしている。スチブンは蒸気車の改良を行っているようで、ワトウから蒸気機関の改良について講釈してもらいつつ高圧蒸気缶の試作を進めているそうだ。キユニは蒸気自動車をつかって馬と競走をしているそうだ。そしてこの前脱輪して自動車による史上初の交通事故を起こしたそうだ。


「三人衆は元気そうだな……。あまりどうこう言うよりは自由にやらせた方が良さそうだな。任せた」


 苦笑いする弥太郎に見送られて城に戻った。

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