第百九十九話 高炉の建設が進んでいます
橋野高炉建設地 水野工部大輔弥太郎
川の音に蝉しぐれが混ざって谷間にこだまする。
切り出してきた花崗岩を外側に四角く積み、一番内側にレンガを貼っていく。円筒形の炉にするため、内側の花崗岩や煉瓦をいちいち削って整形して積み上げていく。出銑口におく煉瓦を加工するのに手間取ったがなんとかなった。
「それでもだいぶ組み上がってきたな」
一月半ほどかけて漸く予定の高さ近くまで組み上がってきた。
「もう少しですね!」
「ああ。あとは屋根を設けて足場を燃やしてしまえば高炉は完成のはずだ」
あとは沢からの水路建設だがこちらも順調だ。鞴を動かす水車もあとは据え付けるのを待つのみ。万事滞りないはず。
「旦那様?また難しい顔をして居られますよ?」
「ん、ああ、すまん。いよいよ組み上がってきたのでな」
無事組み上がってきたという安心感と本当にうまくいくのかという不安感。稲刈りが終わる頃には最初の火入れを予定している。これでうまく行けば次は反射炉の建設だ。ここまで行けばかなり鋳物なり作れるようになるはずで大砲の製造が楽になる、かも知れない。砲弾も鋳物で量産可能になるし、銃も量産できるはずだしボイラーの試作も多分できるはず。何なら耐圧容器もスクリューも試作もできるな。うむ夢が広がってきたぞ。
「今度は旦那様の顔がにやけてきました」
許せ。いい方向に考えていないとプレッシャーで胃に穴ができそうなんだ。しかし高炉がうまくいくとなれば今度は銑鉄をどう運ぶかだな。人や馬に運ばせても非効率だし、蒸気機関車の開発を急いだほうが良いかもな。鉄道なら1067mmの軌間ではおけるボイラー径が小さくなるので1435mmか、いやいやここはイギリスより早く鉄道開発するのだから尺貫法で使いやすく五尺でよいだろう。たぶん標準軌より広い。建築限界は俺の趣味全開で前世の90式戦車が余裕で乗るように四m以上……そしてマレー式などの巨大機関車をだなぐふふ。それはともかく勾配に強くなるし、曲線にもそこまで不利ではないし、電車になったあとも床下スペースが広く採れるから、つくれるなら軌間は広いほうがいい。建設費の差は僅かだっていうイギリスの報告もあったし。経済規模が十分大きくなれば。
あとは安全に運行するための計器類だ。一郎は時計にかかりきりだし、誰かできるものが居ないものか。
◇
鍋倉城 阿曽沼孫四郎
得守の祝言が行われる。得守は直垂、華鈴は単衣に袖を通している。ちなみに華鈴の単衣は得守の御母堂が嫁入り時に着たものだそうだ。さらに華鈴は向こうで婚礼時に着けるという鉢巻をしている。三三九度ではないが盃の交換を行い、婚儀が終わる。あとはいつもどおり宴だ。皆宴好きだね。仕事でもあるわけだけど。
初めて飲む米の酒に、山盛りの白米、ベーコンなどの燻製、それにヒラメなどの白身魚などのごちそうを前に蝦夷の四人は終始驚きっぱなしだ。穂沼と三千代は酒を次々入れていく。まるでうわばみだな。一方で華鈴や希瀬はベーコンやソーセージに夢中だ。しかし箸は使ったことがないのか上手く使えていない。穂沼に至ってはほぼ手掴みだ。三千代は意外と器用なのか箸を使っている。
ところで弥太郎も呼んだのだが高炉建設が佳境を迎え、忙しいのででられないとのことだった。あまり根を詰めるのもよくないと思うが仕方がない。得守が大槌に帰るときに高炉の様子を見に行くか。進捗も気になるし。
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