第百七十三話 津軽氏は久慈氏の出身という説もあるそうです
鍋倉城 阿曽沼孫四郎
「久慈っていえば、大浦為信の出身が確か久慈と言われてたわね」
「津軽為信だっけか。久慈が出身だったのか」
「諸説あるようだけどね」
津軽為信が活躍するのは戦国末期なので現時点ではあまり気にしなくてもいいかな。
「有力大名になる人物が出るわけだから大事にすべきか」
「んーでも石川城の改修工事と見せかけて攻め落としてるのよね」
そうなのか。それもちょっとこまったな。
「ただね、その原因の一つが南部晴政の跡目争いだから、若様も子供ができないとそうなるのよね。……できれば……その……」
後半はもごもご何言ってるかわからないけど、跡目争いで生じた隙きを突かれたか。家族計画は大事だね。当家で同じことが起きないよう家督順位はきっちり決めておかないと。雪と話していると清之がやってくる。
「若様。箕介と右近が来ましたぞ」
「小書院に通してやってくれ。俺もすぐに行く」
身だしなみを確認し、雪を連れて小書院に赴く。
「待たせたな」
俺が腰をおろしたところで顔を上げさせる。
「忙しい所呼び立ててすまんな。先に申し付けた通り箕介と右近には渡すものがある」
そう言い、漆で塗られた箱を箕介と右近にわたす。重い。
「若様、これは?」
「うむ。そなたらへの褒美だ。開けて良いぞ」
そう言うと二人は顔を見合わせ、恐る恐る箱を開ける。中には一貫文の銭と脇差が入っている。雪に聞いた所概ね一貫文で二石相当だというので、安いけど貧乏大名にはこれでも破格です。
「こ、これを我らに?」
「少ないがな。それとそなたらを士分に取り立てる。箕介、そなたには紙屋の名を、右近、そなたには陶山の名をやる。工部院の所属とし、紙屋は製紙司、陶山には陶工司の役職も与えよう」
俺の言葉にこれでもかというくらい二人は平伏している。特に箕介なんかは売られてた境遇からここまで来たからか、目尻に光るものが見える。
「これからも新しき世のため、そなたらの創意工夫を期待している」
「はっ、ははぁ!名に恥じぬよう精一杯努力致しまする!」
二人共いい顔してんね。
「それとな、すぐにではないが、今後学校を作る予定だ。そこで二人には師として出向いてもらう」
師となると聞いて今度は驚愕の表情だ。職工を増やさねばならんので、学校教育のなかで多少なりとも適正のあるものを見出して育てねば。
「若様、私や小菊もいずれ教える側になるの?」
「小菊はそうだな。中等教育以上で教鞭をとってもらうことになるだろうな。雪にもそのうちやってもらうかもしれん。」
食品学も中等教育以上、専門性を高めると高等教育になるから、俺たちが生きているうちに整備できるかわからないな。
「えっと、若様、我らに師事させるのでございましょうか」
「うむ。箕介、そなたはすでに丁稚を取っておるだろう。右近もそろそろ必要になろう。それも良いのだが、職工を増やすにはいささか効率が悪いのでな」
高度技術の伝承であれば徒弟制度は良いのだが、それは学校で基礎技術を学ばせた後にしてもいいだろう。とにかく最低限の技術を持った者を量産しなければならんからな。
求人に関してはハローワークじみたものも作って斡旋するようにするのも面白そうだな。
「雪に関しては他に仕事があるから、必ずしも教鞭を執る必要はないぞ」
「教鞭をとるより、大事なこと?」
味噌と醤油はできたけど、もっとバリエーションがほしい。味噌は京から下ってきた味噌職人に任せるとして、醤油だ。たまり醤油と薄口醤油に白醤油がほしい。
「うむ。俺の生活にとても大事なことだ」
ご飯は大事。美味しいご飯、というか前世に近い食事がそろそろ恋しいからな。
「おっと、箕介と右近は忙しい所済まなかったな。これから夕餉だ。食っていくが良い」
雪が清之と何か話しているとおもったら顔を真赤にして伏せてしまったぞ。
「えっと、雪?急にどうした?大丈夫か?」
返事はない。清之よ、一体何を吹き込んだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます