第六二話 ようやく石けんに取りかかる予定です

「さてようやく色々話せるな」


「さすがに殿様がいては込み入った話しができませんね」


「そういえば箕介は?」


「まもなく来るかと」


箕介がまだ来て居らぬが待っていても仕方が無いので始めよう。


「今年の基本方針は先ほど父上に話したとおりだ。まず孫八郎、帆船ができ次第習熟を開始してくれ。それまでは天測できる者を育てることに専念して欲しい」


「承知しました」


「次に、弥太郎、農具の開発状況は?」


「いま新型の鋤と苗代箱の作成に取りかかっています。今年は田植え機をご使用いただけるでしょう!」


「そ、そうか。それは楽しみだな」


弥太郎の勢いに多少引くが、田植えの効率が良くなるのは助かるな。


「雪は俺と一緒に石鹸作りをして欲しい」


「やっと取りかかるのね。で、何を使うの?」


「油は大豆を用いる。当面は草木灰を使おうと思う」


「カリウム石けんは固まらないわよ?」


「なのでカビの生えた米や麦を挽き、灰で処理してでん粉抽出を行う」


「片栗粉で固めようって訳ね」


そう、固まらないなら固めればいい。苛性ソーダが手に入ればいいのだが。


「そうだ一郎、苛性ソーダの作り方はしらんか?」


「苛性ソーダですと現代ではイオン交換樹脂を用いておりますが、単純な製造法でしたら海水に硫黄と石灰、炭を投入し加熱することで得られます。副生成物としてさらし粉と石膏が得られる利点もあります」


へぇ、そういう作り方もあるのか。さらし粉が得られれば漂白できるので紙の質を上げられそうだな。


「いおん交換樹脂?かせいそーだ?若様、一体なんなのですか?」


左近が初めて聞く言葉に疑問符を投げてくるが、丁度そのとき箕介が到着する。


「遅れまして誠に申し訳ございません」


「よい。この時期は紙作りの重要な時期。気にするでない。それより紙漉きで困ることはないか?」


少し箕介が思案し、


「それでしたら在庫管理のため読み書きできる者が欲しゅうございます」


帳簿をつけられる者か、これから必要性が増えてくるが一朝一夕には得られぬな。


「すまぬがすぐには用立てできぬ。が、いずれ何とかしよう」


学校作るか?しかしだれに教師役をやってもらうか追々考えねばなるまい。まさか童の格好の一郎にやらせるわけには……それもいいか。元々本職だったようだし。


「次に窯はどうなっている」


「良い感じに水が抜けてきています。小正月には軽く火入れしてしっかり固める予定です」


「いよいよか。楽しみだな」


立杭焼の様な作品が拝めるのか、焼き物に詳しくはないが見ていて楽しいものだ。とりあえずは灰釉で焼いて貰って後々色々釉薬を試して貰うこととしよう。


「さて最後になったが左近、鉄の山は見つかったか?」


「申し訳ございません。笛吹峠の向こうを北からしらみつぶしに探しておりますが、いまだ見つけられてございません」


まあこの時代の探鉱は経験と勘に頼るしかないから仕方が無い。


「今どのあたりを探しておるのだ?」


「青ノ木川に沿って南に向かいつつあります」


もう少しだな。


「あいわかった。引き続き探索を頼む」


ふぅ、一通り話しは終わったな。


「なにか意見があるものは?」


特になしか。


「では菓子でも摘まみながら、無駄話に花を咲かせようか。」


左近の疑問にはあえて触れず、左近もそれ以上聞いてくることもなかったため湯と菓子で和やかな新年会となった。

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