文亀三年(1503年)
第六十話 三陸の正月はナメタガレイで決まり!
文亀三年、数え六歳となった。
昨年は大槌、釜石が戻り、遠野郷として再びまとまった形となった。
「今年は大変良い気分で新年を迎えることができた。してめでたいついでにもう一つめでたいことがあったので皆に話しをしておこう」
なんだ?何かめでたいことがあったか?他の者も心当たりが無いのかガヤガヤしている。
「なに、わしの子ができたようなのだ」
おお!弟か妹かしらんがそれは確かにめでたい。
「男の子であれば、阿曽沼も安泰ですな」
「いやいや姫であっても大変佳いこと」
などなど和やかな雰囲気となる。尤も、この時代の死産率も乳幼児死亡率も現代に比べれば驚くほど高い。母上も出産時には文字通り命がけなのでうれしさ半分。無事に生まれて欲しい気持ち半分だ。
せめて衛生面を改善するために、今年は石鹸制作に力を入れることとしよう。石鹸は油に苛性ソーダ突っ込んで……って苛性ソーダはどうやって作るんだ?今度弥太郎と一郎に聞いてみるか。
正月料理は孫八郎が持ってきたナメタガレイとタラに干し肉や燻製肉の料理がならぶ。餅米も少ないながら栽培していたのもあり真っ白な餅が皆に振る舞われる。
普段の馴染みのない海の幸、或いは山の幸に皆の酒が進む進む。
「この鰈という魚は実に美味ですな」
「いやいやこの山鯨の燻したものも大変美味にございます」
つい最近まで敵対していたとは思えない和みっぷりだ。もともと阿曽沼の家臣だったのが影響しているのかもな。
◇
翌朝、皆二日酔いで顔面蒼白となっている。もう少しおとなしい飲み方をすれば良いのにな。
そんな中、清之はダウンしているのでお春さんが雪を連れて挨拶に来た。お春さんは正月だからか珍しくおしろいとお歯黒を付けている。そういえばおしろいは鉛を使用しているからあまり付けてほしくないな。ファンデーションも開発必要だな。お歯黒は虫歯予防があるとかなんとか読んだ記憶がある。意外だったが、歯磨き粉や歯ブラシのない時代だから有用かも知れないな。
「若様ー。あけましておめでとうございます」
「雪、あけましておめでとう。今年もよろしくな」
「はい。お任せください」
母上とお春さんがにこにこしている。
「ではあとは若い二人に任せて私達はあちらでお話しましょうか」
ほほほとわらいながら去っていく。
「若いというか幼いって言ったほうが適当な気が……」
「いいじゃない。私は嫌じゃないよ?」
「い、いや、おれも嫌って言っているのではないぞ」
ふふっと雪が微笑む。
「そうだ、もう少ししたら弥太郎や左近なども来るから今年のやるべきことを相談しよう」
「その話し合いに私も混ぜていただいてもよろしゅうございますか?」
振り向くと孫八郎がにこやかに問いかけてくる。孫八郎の雰囲気が少し変わったような、気のせいか?
「……構わんぞ」
「ありがとうございます。そしてお二人の亜空間をお邪魔して申し訳ございません」
雪が赤くなる、多分おれも赤面しているだろう。顔が熱い。
「それこそ構わん。ところでそなた雰囲気が変わったか?」
「わかりますか?」
「なんとなくな」
「若様達と同じですよ」
む?俺のことを知っているだと。
「どういうことだ?」
「転生時にどこに行きたいか聞かれまして、聞けば若様が転生者だと。下手なところに行っても野垂れ死ぬかも知れないと思えば、この孫八郎という者の体に意識が植え付けられたのです」
「孫八郎の魂はどうなったのだ?」
「すっかり融合しておりまして、一体となっております」
なるほど、そういう転生の仕方もありなのか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます