第三十二話 大槌孫八郎の来訪 肆

横田城 阿曽沼孫四郎


「馳走になりました」


「道中気をつけられよ。孫三郎殿によろしくな」


 父上と孫八郎が挨拶をする。軽く二言三言言葉をかわし孫八郎がこちらを向く。


「孫八郎殿、道中気をつけてくだされ。そうそう、こちらも土産にどうぞ」


「これは……?」


 小さな箱を手渡す。怪訝な顔をしてこちらの箱を受け取る。


「これは疲れが取れるという天竺の薬です。常用すると毒ですが疲れたときや苦しいとき、止まらぬ咳などで飲むと効果があると聞いております。都合十回分しかお渡しできませぬが、孫三郎様への土産にどうぞ」


 これはかたじけない、といいながら孫八郎が受け取ってくれる。上手いこと飲んでくれればいいがな。


「それと孫四郎様、もしよろしけば今後も色々お話を伺いたく存じます」


「もちろんです。某で良ければいくらでも話し相手になりましょう」


「ではこのような場で恐縮ではございますが、土産にもう一つ伺ってもよろしいでしょうか?」


「答えられることであれば」


「あの畑にある木箱はなんなのでございますか?」


「気になりますか?」


「そりゃあもう」


 そりゃそうだ。見たこともないものを見て興味を持たない者など居ないだろう。


「ふむ。あれは私の秘策でございます。そう簡単にお教えするわけには参りませぬな」


「この場では、と言うことでしょうか?」


「お互いの立場をお考えいただければ自ずとおわかりになりましょう」


 狐崎玄蕃がごもっともと言った表情をする。お互い敵同士なのだおいそれと教えるわけがなかろう。


「立場が変われば良いのでしょうか?」


「そのようなことがもしあれば、でございますが」


「なるほど……。此度の物見で色々と見聞が広がりました。これより大槌に戻って今後のことをよく考えたいと思います。それでは皆様、御機嫌よう」


 深々とお辞儀をした孫八郎と狐崎玄蕃が横田城を後にする。なんとか領内で流血沙汰にならずにすんだな。



 さて一段落ついたことだし芥子坊主に傷をつける作業を再開だ。ちまちました作業で樹液回収して乾かすというのは結構骨の折れる作業だ。これをインドで奴隷栽培よろしくやって清に高値で売りつけてた欧州の島国は本当に悪辣だな。


 その後はさらに手のかかる田植えと春蒔き大麦その他諸々の準備で忙しくなる。本当に猫の手でも借りたいとはこのことだな。機械化農業は本当に素晴らしいと思う。ちなみに畑の木箱、温床苗代ではすでに稚苗が育ってきている。今年は間隔を開けて五葉のものやそれ以上に育った苗も比較検討用に四葉~七葉までのものを使用予定だ。田植定規はまだないが等間隔に印をつけた縄をうって直線状に田植えする。田植え機ができればほっておいても正条植えになるだろう。田植え機はマット型よりポット型のほうがいいのかな。


 遠ざかる二人を見送り、今後の作業工程を頭に描く。明日からまた忙しくなる。皆にはゆっくり休んで貰わねばな。

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