第十七話 美味しいお米はまだちょっと

 盆がすぎ、空が高くなる。収穫期の到来だ。稲刈りは村総出での重労働だ。


「おーい若様ー!」


「おぉ、弥太郎ではないか。そなたも手伝いに来たか。してなんぞ?その道具は」


「これはですね刈り取り機でしてー。押し込むだけで3株ほど刈れる代物です。あまり普及はしなかったんですが、鎌で刈るより効率が良いので試作してみました」


「ふむ。立ったまま使うのか?」


「ええ。正条植えしてないので使いにくいですが! こう!」


 ぞぞぞっと3株ほど一気に刈り取れる。清之が興味深そうに眺めてくる。


「便利だな」


「これで刈り取りの効率が多少上がります。もちろん稲だけでなく、麦や蕎麦などにも使えます。あと番匠に手伝って貰って孤輪車(荷車)も作ってみましたので、運ぶのも効率的になるかと思います」


 番匠にもよくやったと褒めておく。番匠はこの時代の者だが、結構良い仕事をしてくれている。こういう人材は大事だ。


 早速かわりばんこで手押し稲刈り機を使う。慣れないもので有ったがある程度使っているとどんどん効率が上がっていく。鎌で刈る者と競わせたところ倍くらいの速度で稲刈りが進む。


「これはすごいな。よし! もっと量産してくれ!」


「そんな直ぐに量産できませんぜ。若様。まあ鍛冶師となんとかしてみますが」


 はざかけが終わったら脱穀だ。定番の千歯扱きかと思いきや足踏み脱穀機を弥太郎が持ってきた。現代使われているコンバインの脱穀部も足踏み脱穀機と基本構造は同じらしい。コンバインは稲刈り機と脱穀機と唐箕がコンバインされているからコンバインとか聞いたが、ホントかな?


 ぶおんぶおんと唸りながら脱穀されていく。まだ幼児の俺と雪は身体を持って行かれかねないので見学だけだ。唐箕は身長が届かんのであきらめた。


 いずれ脱穀機も唐箕も水力で動かして見せますよ!と弥太郎が爽やかな笑みを浮かべる。水を得た魚のようとはこのことだろうな。水力脱穀機とか籾すり機とかが村々に数台ずつあれば作業効率が随分良くなるよなぁ。


 とりあえず足踏み脱穀機も数台作成してほしいなとお願いするが、人手が足りんと言うので何人か手先の器用な者を付けることとした。


 乾燥も終え新米の実食だ。収穫量はたいしたことないので一人一口くらい。まず神棚にご飯と水をお供えして今年の豊作を神様に感謝する。


「ではこの米をもたらしてくれた神様に感謝し食うとしよう!」


 ではいただきます。お、うまい!あっさりめな食味で実にうまい!この時代の米とは比べ物にならない。もっと食べたいけどちょっとしか無いから我慢だ。


「この米は随分うまいな!」


 父上もお喜びだ。


「今年は他の田も豊作でしたが、より実のなりも良いようで近くの田から順次入れ替えていきます」


「そういえばそなたの育てている高黍は随分背の高いものが有るな」


「あれはどうも茎から蜜が採れるようでございます」


「なんと!」


「この間かじったら甘もうございました」


「のう、孫四郎よ」


「はい。どうされましたか?父上」


「なぜわしにも食わせぬ?」


「忘れておりました」


 あ、父上がうなだれている。いやー美味かったのですっかり忘れておった。甘いものなんてほとんどない時代だから格別だった。清之もすっかり忘れておったようだしなー、あやつも抜けておったな。ははは。


「これも幾ばくか種が取れましたので、来年は作付けを少し増やそうかと思います。ら、来年は母にも召し上がって頂きたく」


 母上も笑顔だけど怒ってる。食べ物の恨みは怖いのです。以後気をつけます。


「砂糖が作れるかはわかりませぬが、弥太郎めに相談しなんとかならぬか検討してみます」


「そうだな。しかし、少量でも糖が採れるとならば周りが目の色変えてくるからな。気をつけよ」


「はっ。……それに関してですが、父上」


「なんだ」


「草が欲しゅうございます」


「草か」


「この遠野の産物が漏れるのを遅らせるのと、敵方の動きが早く得られれば先手を打つことができます」


「しかし草をしている者などこの遠野にはおらぬだろう」


「そうなんですよね。でもきっとなんとかなると思います」


「そなたにしては適当な……。だが神童であるそなたならなんとかなるであろう」

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