第十八話 遠心機が(そのうち)ほしいです
横田城の近く、不動沢の水車小屋兼弥太郎の工学研究所。ん?研究所?
「若様、工学とは何でしょうか?そして研究所とは?」
「物作りを学問としたものだ。そして研究所とは学問などを研ぎ究めるところだ」
「ほほぅ。学も研げば究められると」
「まあ学成り難し、だがな」
それはともかく今日はあるものの制作依頼だ。研究所の戸をくぐると、いろんな木材と土、金具が散乱している。机の上には研究ノートらしきわら半紙の束が整理されている。
「だにぃ!?若様何つった?」
「弥太郎貴様、若様になんたる言葉遣いか!」
「清之よい。なに、製糖するために遠心機がほしかったので作れないか相談に来ただけだ」
「遠心機とか何時発明されたかご存知ですか?」
もちろん識らない。結構新しい?
「若様、遠心機が発明されたのは1880年、今から300年以上も未来のことですよ?」
「おぬしはさらに100年後の未来の知識があろう?」
「簡単なものならともかく、それなりのものを作るのに知識だけで作れるなら誰も苦労しませんよ……」
弥太郎が大きなため息を吐く。まぁそうだよな。知っているだけで作れるなら俺でも作れるって事だし。
「まぁやっぱ無理か。いや、無理言ってすまなかった」
「ちょっとまて若様、誰が無理と申しましたか?」
あ、なんかスイッチ入ったっぽい。別に煽ったわけでは無かったんだが。
「そうだな。来年の高黍収穫までには試作をご覧にいれますよ!」
まあ1年でできるとは思わんし急いでいるわけでもないからそのうちでいいのだが、ちょっとだけ期待しておこう。
「ああ、そうだ。忘れておった」
「なんですか?」
「遠心機よりも搾油機を先に作っておくれ」
「搾油機ごとき!いくらでも作ってやるぜぇ!」
搾油機はケシの実が採れる頃には試作で良いから欲しいな。大豆油も絞っていきたいし。
◇
稲、粟、稗、高粱の収穫が終わる。続いて小麦の播種とケシ畑の整備だ。短い休息期間に祭りが催されるので父上、母上とともに様子を見に行く。
「これ孫四郎や、祭りで浮かれるのはわかりますが、はぐれては為りませぬよ」
「はい。母上。では母上にくっついております」
「まぁまぁ、仕方の無い子ですね」
子供らしく母上に寄り添うと満更でもないようだ。横田城を出たところで清之達にあう。
「おや、これは殿と奥方様、それに若様。皆様も祭りに?」
「おお、清之。年に一度のことだからな。そなたらもか?」
「わかしゃまー」
「おー雪ー」
雪が抱きついてくる。
「あら、あらあらあら」
「こ、これ雪、はしたないぞ!ああ、申し訳ありませぬ」
「あらあら、良いんですよー清之。孫四郎もまんざらじゃ無いようですし-。雪って言うのね?」
「はい!雪でし」
「何歳ですかー?」
「三歳でし」
「あらぁ孫四郎と近い歳なのねー。賢いわねー」
清之とお春さんがオロオロしているが、母上はかまわず話を続ける。
「雪ちゃんはー孫四郎の事好きですかー?」
「はいでし!」
「あらぁ嬉しいわぁ。孫四郎を頼むわねぇ。」
「おまかしぇくだしゃい!」
満面に笑みで母上に挨拶したかと思うと、俺に振り向き。
「若様、義母上しゃまにおまかしぇさえましたので、これからもよろしくお願いしましゅ」
満面の笑みでお願いされた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます