第257話 サボり

 手の中でコロコロと権能の宝珠を弄りながらぼんやりと眺めていると、何をそんなに驚いてるのか夢が見るからにビックリした表情で権能の宝珠を凝視した。


「え!?は?え!?け、権能の宝珠!?」

「うん。日本神話との小競り合いで新しい権能をGETしてね。その能力を使って権能を取り出したんだ。ちなみに、あのヒヨコもその能力の応用ね」

「そうだったんだ。また随分の凄い事になってるね」


 夢の言葉に周りで聞き耳を立てて私と夢の会話を聞いてる皆がウンウンと頷いた。

 我ながら凄い事になってるのは同意見なので「だよね~」と苦笑いして返す。

 前までは気配ある残像しか作れなかったのに、まさかマジもんの分身を作れる様になるなんてねぇ。


「でもさ、なんで権能を取り出してるの?取り出すって事は、その権能を使えないんじゃないの?」


 ごもっともな指摘をする夢に私は頷いて返す。


「うん。ヒヨコみたいに肉体と意識が存在してれば私から権能が別れててもヒヨコが能力を行使可能だけど、今みたいに権能のみを取り出してたら使えないね」

「てことは、今はその天空って権能は使えないんだね。でも、さっきも聞いたけど、なんで権能を取り出したの?」

「ちょっと理由があってね」

「理由って?」

「これ」


 私は指先に虚空の光球を作り出して夢と此方の話を聞いてるクラスメイト達へと見せる。


「それって、さっきの日本神話との喧嘩で出てた」

「うん。私の権能で作った虚空の光球ってエネルギー弾みたいなものだよ」

「それが、理由と関係あるの?」


 虚空の光球と権能の宝珠がどう関係あるのか疑問なのだろう。

 夢は頭に?を浮かべながら私に聞いてきた。


「この虚空の光球の大元ってさ、何の権能かわかる?」

「え?何の権能。ん~~…………深淵?」

「それ、絶対私が深淵顕現って言ってたからでしょ?」

「あ、バレた?」


 そりゃわかるわい。

 でなきゃ、私みたいなオタクって訳でもないのに消滅や破壊って定番どころを答えずに真っ先に深淵とか答えないでしょ。


「当たり前でしょうが。残念、不正解。正解は太陽の権能だよ」

「どう見ても太陽とは真反対な見た目と能力な気がするんだけど」


 ブンブンと夢の言葉に頷く周り。

 全くもって同意見です。


「元は私がブッ殺した天照大御神の力なんだけど、力を吸収したのは良いけど、私が邪神なせいか権能の性質が反転して元の能力とは縁遠い力になっちゃったんだよね~」

「へ~。そうだったんだ。……あ、そういう事か。つまり、権能を取り出したのって、太陽の権能みたいに能力が反転しないようにってこと?」

「うん。そういうこと。創造とか因果律支配、時空間みたいなのは特に反転する様子はないけど、太陽みたいな癒しや豊穣をもたらすみたいな力を宿す権能は反転する可能性が高いから念の為に取り出したんだよ」


 まぁ、権能を取り出せる様になったのは日本神話との小競り合いの後からだけどねぇ。


「そっかぁ。なんか、アカリも大変だね。朝は朝でティンダロスの猟犬だっけ?それに襲われてたし。いつも通り、厄介事が絶えないね?」

「ハハハ……クソッたれ」

「うわぁ、凄い顔。あ、というか、因果律支配で運命弄れば厄介事を無くせないの?」

「無理」


 夢の意見を即答で切り捨てた。


「え、なんで?」

「とっくに試してるに決まってるでしょ?ねえ、知ってる?外に出掛ける前にトラブル防止に因果律を操作してるのに、暴走族に絡まれたり、コンビニ強盗と遭遇したり、近くでバイクと車の追突事故が起きて破損したサイドミラーが私の頬にぶつかったり、足元のマンホールがガス爆発して顎を撃ち抜かれたり。脳天に植木鉢が落ちてきたり。挙げ句の果てに、恥を覚悟で因果を弄ってソシャゲで300連したのに、狙った新キャラが出てこなかったッ。トラブルや不幸が、因果を飛び越えて襲ってくるんだよ。どうなってんだよチクショウ」

「あ、あはは」


 夢の引きつった声と、いたたまれない視線が私へと突き刺さる。

 何故、異世界で種族すら変わり、神へと至った私に対抗する様にトラブルまでも超越進化を遂げてくるのだろうか。

 なんで、権能で因果そのものを弄って根底から対策するのに何事もなかったかの様に私を襲ってくるのかマジで意味がわからない。


「皆さん、席について下さい。授業を始めますよ」


 気付けば既に五時間目が始まる時間であり、どこか表情の固い古典の担当の先生が教室へと入ってきて五時間目授業が始まった。


 ※※※※※


 古典の授業を受ける度に思う。

 現在を、そしてこれから未来を生きていく私に過去の微塵も訳に立たない文章を知る必要なんてあるのか?っと。

 恐らくというか、絶対に私以外の人達も思ってる筈だ。

 ねえ、君もそう思うよね(^-^)?


 …………一体、私は誰に言ってんだ?


 そんな訳で古典はつまらないし、そもそも、現在の授業を含めてある程度の範囲は事前に自習して把握してる。

 まぁ、そういう訳なので────


「だからって、サボりは駄目ですよアカリさん。わざわざ自立思考分身と入れ替わってまで」


 ────学校の屋上で昼寝してサボってたんだけど、なんか知らんがヨグ=ソトースが私にサボってるのを注意しにやって来た。


「いやヨグ様、あんたもサボってんじゃん。私の事言えないでしょ?」

「私は良いんですよ。だって、分身を使ってるアカリさんとは違って私そのものが授業を受けてますから」

「ズルくね?昼休みも思ったけどさ、あんたら揃いも揃ってマジでズルくね?」

「だって、私は最強ですから」

「チッ」


 エッヘンと胸を張って少しイラッとするドヤ顔を私に向けるヨグ様に舌打ちする。


「これだから最強邪神共は」


 糞魔皇を筆頭にヨグ様、そして今日の朝、私に振り掛かったトラブルであるティンダロスに関わってるとサラッと判明した豊穣の羊様であるシュブ様。

 手作りのペットを朝の散歩に次元へ放したら転移しようとした私と会敵したんだってさぁ。

 平気で私の時空間に干渉するし、目視不能で微風も吹かない意味不明な速度で市街地を駆け抜けるし、街中の角から次元に潜り込むし、私のパンチを拳の角から次元に潜り込んで回避するし、私の身体を平気で喰い千切るパワーを有してるし、一撃で殺さないと直ぐに再生するし…………なんで、なんでペットが日本神話の神々より強くて厄介なんだよッ!

 揃いも揃って私とは次元の違う強さしやがって‼️

 その強さの10分の1でいいから分けろや!!


「その割にはアカリさんってこの前手に入れた天空やら海等の権能を必要としてないですよね?寧ろ、邪魔と思ってますよね?」

「だって、権能の性質が反転しそうになるし。天空やら海、大地とかの権能を使わなくても殴ればよくない?」


 天空は雷や豪雨、嵐とかを放てるけど、そんなもん使わなくても拳で殴り殺した方が早いし、海なんぞ、そんなもん無駄に規模が大きいだけで使い勝手が悪いし、これも相手を拳で殴り殺せば良いだけだ。

 大地なんぞ、たかが大地を操作したり、鋼鉄を圧倒的に越える硬度の岩の剣を地面から生やしたりするだけだし、私の魔法で再現可能。

 今回奪い取った権能の中で使い勝手が良いのは身体能力を向上させてくれる力の権能位だろうか?


「遠距離攻撃も魔法か次元斬、虚空の太陽で事足りるし、補助や精神系統は混沌と妙覚がある。ぶっちゃけ、下手に権能が増えるより元ある権能が強化される方がありがたいんだけどねぇ」

「至言ですね」

「でしょ?」


 全知全能で完全無敵な糞魔皇は別として、ヨグ様やシュブ様は一つの能力に特化しているっぽい。

 多少他の能力も有してはいるだろうが、ヨグ様なら時空間の絶対的な支配。

 恐らくシュブ様は、過去の話や今回のティンダロスからして生物やら物体等の創造特化だろうか?

 私を除く糞魔皇のお気に入りの四体のうちの二体がこんなデタラメだし、残りの一体はどんな能力に特化してるのやら。


「私もその域に至れたら良いんだけどなぁ」


 極まったもの程、厄介なものはない。

 剣や格闘の達人か良い例だ。

 一つの武を極めた達人は、どの様な相手や戦闘局面だろうと対応出来、そして勝つ。

 勝てなくとも、冷静に対処をして生き残れる。

 無駄に多芸だと選択肢が多く、加えて能力の練度も下がるので結果的に戦闘力が下がる。

 漫画やラノベで出てくる達人クラスの武芸百般な存在なんて居やしない。

 生き残り、真の意味で強くなるなら極めるものを選択して強くなるべきだ。


 まぁ、異世界であれやこれやスキルを格闘してきた私が言えた事じゃないけどねぇ。


「まったくもってその通りですね~」

「毎度ながら勝手に心読まないでよ」

「嫌です」

「~ッ」


 が、我慢だ。

 だから、この拳を抑えるんだ私ッ!


「あ、そうそう。そうでした。また面白そうな事をしようとされてるみたいですし期待してますよ?」

「相変わらず把握してるし。まぁ、未来で知ってるなら当たり前か」

「はい。失敗して死んだアカリさんが多数居ますので期待してますよ!」

「おいこら、お前私が死んだらペットに出来るから期待してんじゃないだろうな!」

「ハッハッハ、なんの事やら」


 この野郎!

 人が死んだらペットにされる恐怖を笑いやがって!


「まぁ、それよりも先に色々とトラブルがまた起きるみたいですけどね。先ずはそちらを愉しむとしましょうか」

「うん。ちょっとまて」


 コイツ、今なんて言った?

 今、色々とまたトラブルが起きるって言ったか?

 言ったよね?絶対に言ったよね?


「いや~今から愉しみです♪」

「ねえ!何が起きるの!ねえ!何が起きるのさ!!ねえ!」

「さて、なんでしょうね♪」

「クソッたれが!!あ、そうだ!未来視で確認す「ダメです♪」

「…………って、おいこら、お前私が死んだらペットに出来るから期待してんじゃないだろうな!」

「フフ、そうですねぇ。獣っ娘にするとかありかもですね。猫、狐……狼もありですね。どれが良いでしょうか?」

「いや、私に聞くなよ!」


 この野郎!

 人が死んだらペットにするのを楽しみやがってッ!

 あ、獣っ娘にする時は狐でお願いします。


「なんだかんだで、アカリさんもノリノリですよね」

「ハッハッハ、なんの事やら」


 狐耳と狐尻尾可愛いよね!

 狐っ娘こそ至高!!

 異論は認める。

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