第255話 ダメな母娘

 都市から離れた人口の少ない田舎。

 鳥や虫の鳴き声が外から聞こえてくる屋敷の中で少女が床に本を置き、難しい顔をして本を見ていた。


「むうぅ」


 少女は小さく唸りながら本……地図を数秒の間眺める。


「うぅ、わかんない」


 落ち込んだ表情でそう呟くと、少女は横に置いておいたお皿に乗せてた赤黒い粉を右手で軽く摘み、地図に振るい頭に浮かんだ言葉を呟いた。


「蠣ュ怜鑼縺ヴ托シ蠻」


 少女自身、何の意味を持つ言葉なのか全く知らない。しかし、この言葉を言えば望む様になるとなんとなくわかる。


「あ!うごいた!」


 言葉を呟いて数秒、地図に振るった赤黒い粉……固まった血の粉が動き出し、とある街の場所に集まり止まった。


「ここにいる」


 地図の字が読めないから血の粉が示した地図の場所が何処なのかわからない。

 けど、自分の会いたい者が居る場所が何処なのかはわかった。


「ここ、いく!」


 どうやって行けばいいのかわからないが、たぶん行けるはず。

 若干楽観的に考えてしまっているが少女本人は「いく!」と両手を握り意気込み、ペンで印を付けた地図を片手に握って立ち上がると戸を引き部屋から出ようとし、視界に映った床に転がる家族だったモノを見て足を止めた。

 前に聞いた事を思い出したのだ。


「ちらかってる」


 父親や母親、兄や姉、弟が何故か自分を怒ったり叩いたりしてきて部屋が散らかると綺麗に掃除しておけと怒鳴っていた。

 今、少女の見ている部屋は家族だったモノが床に転がり、流れた血が固まり、家具等が倒れてて散らかっている。


「そうじしなきゃ」


 散らかってるなら綺麗に掃除してから出掛けないといけない。

 少女はいつも通り部屋を綺麗にするべく散乱するゴミをゴミ箱に捨てて家具等を戻し、畳に染みて固まった血を頭に浮かんだ「菴ソ縺?〒縺吶¢◆縺?」と呟き綺麗にし、畳に転がる家族だったモノが大きくてゴミ箱に捨てれず困ったので、頭に浮かんだ「ヱ繧ソ繝シ繝ウ讖怜溯�繝サ遐皮ゥカ」と呟いて家族だったモノだけ燃やして灰にし、ゴミ箱に捨て、畳を箒で掃いて掃除を終えた。


「いく!」


 履き物を履き、片手に地図を持った少女は屋敷から意気揚々と出る。


「わあぁ~!!」


 この世に生を受けて15年。

 少女は生まれて初めて屋敷という小さな世界から外の世界へと飛び出した。


 ※※※※※


 割りと覚悟してたのに蓋を開けてみれば片手間で済む些末な日本神話との雑事が終わってからかれこれ四日が経った。

 教えた記憶はないのに、後日改めて我が家へやって来た天皇一家から神々から助けた事とお婆さんを治したお礼として界隈では有名らしいお菓子と目の錯覚かと三度見した0の桁がおかしい小切手を渡されたり。

 次の日に残念お嬢様個人からスマホの電話でお礼の言葉とメールで元気な姿のお婆さんとの写真を送ってくれたり。


 残念お嬢様の視線や口調に若干の熱を感じた様な気がしたけど、まぁ、きっと気のせいに違いない。

 ……うん、本当、気のせいなはず。


 高校から来週の月曜日から登校して授業を始めていくと書類が届いたり、ヒスイと朝から一緒にゲームでマルチプレイや対戦して遊びまくったよ。


 いや~~大乱闘でスマッシュなブラザーズでヒスイにメテオされた時は思わず目が点になったね!

 ……あの、いつの間にそんなに強くなったんですかヒスイさん?

 私、そこそこ腕前は良かった自負があったんたけど全く抗う隙もなかったんだけど。

 それに、なんか見覚えのないVIPってのが見えた気がするのですが……。


 ・

 ・

 ・


 まぁ、うん!

 そんな訳で、貯金が沢山貯まったんだよね!

 本当は小切手は断るつもりだったけど、押し問答の末に貰う事になったよ。

 あんな大金ポンと貰っても庶民な我が家は困るんだけどねぇ。

 あ、ちなみに、私は最新のスマホとパソコン、新作のゲームを買う予定だよ。

 今から買いに行くのが目茶苦茶楽しみだね!


「ちょっと緋璃、なに現実逃避してるのよ。真面目に話を聞きなさい」

「いや、当たり前みたいに現実逃避してるって当てないでよ」

「だったらポーカーフェイスを鍛えなさい」

「えぇ」


 前もクラスメイトの皆が言ってたけど、私ってそんなに表情がわかりやすいんだろうか。

 私としては普通だと思うんだけど( ´・ω・)


「話を戻すけど、緋璃もヒスイちゃんもゲームをしすぎなのよ。朝から夜までゲーム三昧。酷い時は夜遅くまで緋璃の部屋でやってるし。ちょっとはゲーム以外をしなさいよまったく。緋璃がヒスイちゃんのママなんだから緋璃がちゃんとしないさい!」


 リビングにて正座してる私とヒスイへ我が母が説教の続きを始めた。

 お母さんの言い分は理解出来るし、私も正直ここ数日は一日中ゲームしすぎかもなぁ~とは思っていた。

 けど、これにはキチンと理由があるの。

 なので、おずおずと右手を挙げてお母さんへ言葉を返した。


「そ、そうだけど、でも、やっと面倒ごとが終わったから今の内にゲームを進めたくて」


 来週から学校が始まるし、そうなったら時間も減るから今の内に纏まった時間が必要なゲームは進めておきたいのだ。

 その事を私なりにお母さんにわかりやすく説明したのだが、火に油を注ぐだけの結果となった。


「緋璃が最近大変だったのは私も知ってるわよ。けどね、それでも限度があるでしょうが!あなた達、朝起きたらご飯やトイレ、お風呂以外はずっとゲームしてるでしょ!せめて少しは休憩時間を作りなさいよ!漫画を読んだり、少し外の公園に遊びに行ったり、緋璃なら県外や海外に散歩に行く位出来るでしょうが」

「うっ」


 事実だし、やりすぎな自覚があるから反論出来ない。

 だが、私は一つだけ反論がありテレビの方へ指を指してお母さんへ言い返す。


「で、でも、あれはいいの?もうずっとやってるけど?」


 私が指差したテレビ、そこでは…………


「ああ!!?その虹ボール私が狙ってたのに!」

「ふははは!甘いはフェリエ!そんなピンク饅頭で余のキャプテンに追い付ける訳がなかろって!?のああ!!!?余のキャプテンが!!おのれリリス!!」

「フッ、甘いですよキリエ様。そんな大振り攻撃ばかりじゃ狙って下さいと言ってる様なものです。スマッシ○ボールは私の勇者が貰いました!って、あ」

「あ、なんか虹色のが割れました。えっと、どうしたら……あ、なんか技が出た」

「「「あああーーーー!!!!??吹き飛ばされた!!!??」」」


 いや、あの、人が説教されてる横で目茶苦茶楽しそうにスマブラされるのかなりムカつくんだけど?


「あいつら、私達は説教されてるってのに」

「ずるい。やりたい」

「だよね。マジでずるい」

「ん」


 少しは私達に気を遣って控えようとか思わんの?


「あっちの四人は良いのよ。フェリエちゃんもリリスさんもエリーちゃんも家事を手伝ってくれてるし、キリエちゃんは時々近所のお酒屋さんのお手伝いをしてて昨日もお手伝いに出てたから良いのよ」

「え、鬼っ娘バイトしてたの!?初耳なんだけど!?」


 いつの間にバイトしてたん!?

 てか、履歴書とかどうしたの?


「バイトじゃないわよ。あくまで暇な時に手伝ってるだけみたい。たまたま散歩してたら酒屋のおじさんが荷物運びで困ってて手伝ったのが切っ掛けらしいわよ。手伝いのお礼にお酒やお金を貰ってるみたいだからバイトって言っても良いかもしれないけど」

「お酒もらえるとか鬼っ娘天職じゃん」

「本人も「少し手伝うだけでお酒が貰えて最高じゃ!!」って言ってたわね」


 うん。

 その時の様子が目茶苦茶目に浮かぶよ。


「そういうわけだからあっちの四人は別に良いのよ。あなた達みたいに連日朝から晩までゲームしてる訳じゃないんだから。他に何か言い訳とかあるかしら?」

「うっ……ん?」


 言い訳というか、どう返答すべきか答えに困っていると、服の裾を小さく引かれて横を見るとヒスイが落ち込んでる様な困った様な表情で助けを求める様に私を見ていた。

 お説教なんて私はヒスイにした事ないのでどうしたらよいのか全くわかないんだろうね。


「緋璃は神様だし、ヒスイちゃんもダンジョンだし、二人共人間じゃないから身体に悪いって事はないんだろうけど、せめて普通の生活習慣ですごす様にしなさい。緋璃だってもうすぐ学校だし、ヒスイちゃんだって今はよくてもそのうち困るかもしれないわよ。それに、これからもゲームばっかりしてるなら時間制限を検討しなきゃいけなくなるわよ?」


 まったくもって正論である。

 これがぐうの音も出ないってやつだろうか?


「うぅ、で、でも、もう少しでダイアのランクになれるのに」

「え、それ初耳なんだけど?」

「ねえ、ヒスイちゃん。そんなにゲームばっかりしてたら、そのうち緋璃みたいになっちゃうわよ?」

「おいこら母、どういう意味だこら」

「ッ!?や、やめますッ!!」

「まさかの即答⁉️」


 予想外の説教の終わり方に私は愕然。

 私の事をどう思ってるのか聞いても目を反らし、全く目を合わせようとしてくれないヒスイに私はショックで心に大きなダメージを受けるのだった。


 ※※※※※


 遂にこの日が訪れてしまった。


 月曜日ッ!


 私、斎藤茜は、あの悪夢のクラス担任決めの日からあれよあれよと担任としての仕事について他の先生方から教えられ、覚悟を決めようにも決まらず、日に日に横腹が痛くなる毎日を送っていた。

 せめて覚悟を決める足しにしようと思い、事前に生徒の情報を知ろうと先生方や過去に担任を受け持ってた先輩の西本先生、同じ学年だった生徒の子達へ話を聞いたりもした。

 でも、全員まったく同じ様な答えしか返してくれなかった。


『普通。一部例外を除く』


 全員の答えをまとめたらこんな感じ。

 全く役に立たなかった。

 いや、正確には役には立った。

 私も聞いた事のある一部例外の生徒により過去に起きた出来事の詳細を詳しく知る事が出来たのだ。

 冗談抜きに頭を抱えた。

 覚悟なんて決めれない。

 いや、決めれる訳がなかったのだ。


「うっ、お、お腹がッ。く、薬」


 今日も変わらず横腹がジクジクと痛い。

 ポケットから胃薬を取り出して飲み込む。

 最近、薬を飲まないと一日中全く痛みが引かなくて今じゃ薬の瓶を見ず、水も要らずにスムーズに胃薬を飲める様になってしまった。

 おかしいよね、まだ担任の仕事は始まってないのにこれだよ?

 本格的に担任を務めだしたら私のお腹がどうなるのか今から恐ろしくて吐きそうだ。


「うぷッ、そ、想像したら」


 想像してしまった未来にお腹と口を押さえながら重い足取りで廊下を歩き目的地の教室へ向かう。

 今すぐ回れ右をして家へと帰りたい。

 だが、成人した社会人としての無駄なプライドがそれを許してくれる筈もなく、薬のおかげで少しずつ痛みが引いてきたお腹を擦りながら私は教室のドアを開け、第一印象を良くするべく笑顔で元気良く挨拶しながら教室へと入った。


「皆さん、おはよ『ガッシャアーーーーン!!』ぅ」


 挨拶を遮る様に粉砕した窓。


「グギィギャ"ア"ア!!」

「シャオラアーーーー!!!」


 粉砕した窓から転がりこんできた四足歩行の腐肉の塊と件の一部例外の生徒である神白緋璃。

 それを視認し認識した瞬間…………


「fヴwるdq?tgy%レjだlp」


 ・・・・・。


「あ、やば。しくった」


 ・

 ・

 ・

 ・

 ・

 ・


 ゆらゆらと揺さぶられるのを感じる。


「先生、起きて下さい」

「え、あれ?」


 目が覚めると、そこは教室。

 私は何故か教壇横の椅子に座っており、件の神白緋璃さんに肩を揺らされて目を覚ました。


「先生、起きましたか?」

「あ、う、うん」


 なにか上手く思い出せないが、なにか変な事が目の前で起きた様な気がするが思い出せない。

 教室と、何故かわからないが窓を何度も確認するけど、教室は何故か妙に優しさと同情の表情をした生徒が着席していて机も乱れず綺麗並んでいるし、窓も傷もついてたり割れてる訳でもない。

 何か起きた様には全く見えない。


「気のせい?」


 なんでこんなに教室の様子に違和感を抱くのか自分でもよくわからない。

 何故か教壇横の椅子で目覚めたし、最近ストレスが酷過ぎるので自分でも気付かずに限界ギリギリだったのかもと思った。


「ごめんね神白さん。もう大丈夫だから」

「あ、はい。それじゃあ、私も席につきますね」


 そう言って神白緋璃さんは私から離れて席についた。

 一度教室全体を見渡して登校していない生徒がいないのを確認した私は、朝礼を始めるべく口を開いた。


「皆さん、おはようございます。早速、朝礼を始めましょう」

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