第254話 行動力の化物
驚きのあまり桃子とお互いに抱きつきながら悲鳴をあげる。
意味がわからない。
異世界に居る筈の狂信姫が地球の日本に居る筈がない。
遂に肉体が限界を迎えてしまったのかと本気で疑い私は何度も瞬き、目を擦り横を見るが、悲しい事にそこには狂信姫の幻覚が両手で頬を押さえてデレデレしてるのが見えた。
バチ"ュンの両眼球を張り手で潰してもう一度確認してみる。
……………まだ見える。
「あぁ……そっか、私、無茶をしすぎたのかぁ」
そりゃそうだよね。
幾ら再生能力があるからって、神の権能の力で内側から全身が炭になる様な攻撃されたり、微塵切りされたり、腐らされたりしたら肉体にダメージだって残る筈だ。
残念お嬢様も肉体は治した筈だけど、神降ろしの後遺症かストレスか知らないが私同様に何か見えてるみたいだし、やはり今日は帰らせてもらうとしよう。
「桃子、ごめんけどなんか酷い幻覚と幻聴がするから今日は私帰るね」
「あ、え?」
「な⁉️アカリ様!大丈夫ですか!?今すぐお休みになられて下さい!!」
「」
おかしいな。
なんで幻覚と幻聴がリアルタイムに内容のあった言葉を発してくるのだろうか?
しかも、何故か幻覚が触れる私の右腕と背中に感触が伝わってくるし。
こりゃあ、脳にも相当なダメージが蓄積してるかもしれない。
休んで回復してくれれば良いんだけど、無理だったら女神様や最悪の場合はアザトースやヨグ=ソトースに頼んで治してもらうのも検討すべきかも。
仮に頼むとして代償はなんだろ?
幼女になって数日~一週間の間ペットになる位なら本気で嫌だけど我慢出来する。
え?ペットになるとかプライドはないのかって?
全く無いが?
プライドよりも己の肉体の健康だ。
でなきゃ、両親やフェリ、ヒスイ達家族と不自由ない生活が出来なくなってしまうからね。
そういう訳で、とりあえず今日は帰ってヒスイには心の底から申し訳ないけどゲームは後日にしてもらってゆっくり眠って休むとしよう。
「お住まいは何処に。直ぐに移動の手配をせねば。いえ、幻覚と幻聴がする程の体調不良なら直ぐにお休みしてもらう為にもこの家を借りた方が早いか?」
………………いや、まさか、ね?
絶対にあり得ないけど、一応だけ確認しておこう。
「…………嘘だろ」
権能へと至った妙覚による感知の反応に私は戦慄し、恐る恐る隣で壊れた様にブツブツと「寝かせるだけで良いの?医師を呼ぶべきでは?いえ、呼ぶより医師の元へお連れするべきなのでは?」等と呟き続ける幻覚の筈の狂信姫へ希望を込めて問い掛ける。
「ねえ、本物じゃなくて姫様の幻覚だよね?」
「ヨシ、医師の元へお連れ……え?アカリ様、何を仰られてるんですか?正真正銘、あなた様の敬虔なる信者エリアナですよ?」
「嘘だと言ってよ神様」
【現実だよ?後、アカリが神だよ?】
【現実ですよ?後、アカリさんが神ですよ?】
両手で顔を覆い天を仰いだ私の脳内へアザトースとヨグ=ソトースの冷静なツッコミが響いてきた。
暇なのかコイツらは。
「アカリ様が神ですよ?」
「…………そうだね」
「え?……え?な、何が起きて」
ねえ、もう疲れたんだけど私。
※※※※※
「異世界の女王陛下だったなんて驚きました。それに、まさか警視庁が調べてる高校の行方不明事件の真相が異世界召喚だったなんて驚きです」
「まぁ、そういうわけなんだよ」
残念お嬢様に狂信姫の事を正直に説明した。
ぶっちゃけ適当に誤魔化しても良かったが、神々と一応は関わりがある天皇一家の桃子になら話しても大して問題は無いと判断した結果だ。
にしても、予想通り神々と関わりがあるだけあり異世界の存在も一応は知ってたみたい。
流石は天照大御神の血を引く一族なだけはある。
まぁ、その祖先と弟を私は喰い殺しちゃったけど。
あ、全く関係ないけど少し前に天皇が皇居の警備部隊を連れてきて異能者の護衛を連れていったよ。
その時に見覚えのない見た目教皇な外国人の狂信姫に目茶苦茶驚くし、警備部隊の連中まで警戒するし、もう面倒くさくて妙覚で無理矢理納得させて部屋から出ていかせた。
もうマジでめんどくさい (*´Д`)=3ハァ
「異世界の国の女王陛下なのはわかりました。それでですね。そんな方が何故日本の私の家に?どうやって来られたんですか?そもそも、いつから居られたんですか?」
「マジでそれ。ねえ姫様、どうやって来たわけ?しかも、ピンポイントで私の隣に」
理由がマジで気になる。
単なる移動なら兎も角、狂信姫が行ったのは時空間を越える転移。
吸血鬼から神へと至った私でさえ運良く空間魔法を獲得して常日頃から鍛練を重ね、進化の反則スキルLv上げでなんとか時空間魔法にまでスキルを進化させて時空間を越えられたのだ。
それを人間の狂信姫が私の知らぬ間に軽々と時空間を越えられる様になるとは思えない。
「簡単です。アカリ様への溢れる程の愛です❗」
「ごめん真面目に答えてね」
何言ってんだコイツ。
しかも、なんか言語理解まで獲得してるのか日本語まで理解してるしマジでどうなってんの?
「むぅ、真面目に答えてるのに」
「愛で次元の壁を越えられたら物理学なんて必要ないでしょうが」
数多の物理学者達が真面目に泣くぞ。
「本当に愛で越えたのに。まぁ、少し協力を得る為に動きましたけど」
「絶対それだろ。何したんだよ一体」
過去の病弱な姫様なら兎も角、今の狂信姫が動いた場合は理性のリミッターが破壊されたが如く異常な事になるのは目に見えている。
王国の哀れな現状がいい例。
一体何をしたのだ。
「実は執務室で仕事をしてたらアカリ様が何か活躍される気がしたんです」
「頭大丈夫?」
「別に怪我してませんよ?」
「あ、うん。だね」
「? それでですね、絶対見なければと思ったのですが、アカリ様が此方の世界に居られないのはなんとなくわかるので地球の日本に居ると思い仕事をお母様と共に弟のめんどうを見てたお父様に押し付け、アカリ様のおかげで王都の防衛役になってくれてる土龍に乗って龍王であるシャルロット様の元へ向かったんです」
「いや、なんで私がそっちの異世界に居るかどうかわかるの?」
「愛です」
「……そっかぁ」
もうマジでコイツ怖い。
「それで、何故か涙目になってたシャルロット様に協力をお願いして竜と龍を総動員して近隣一帯の山脈破壊に向かったんです」
「はぁ?」
「え?」
私と残念お嬢様は揃って意味がわからず疑問の?声がもれる。
「そして、いざ最初の山を破壊しようと竜と龍へブレスの発射を命じる直前に女神アリシア様が現れました。まさかあんな直ぐに現れてくれるとは思わなかったですが、以前アカリ様から聞いた天を貫く程の山を破壊しようとしたら女神アリシア様に止められた話を参考にしたら狙い通り現れてくれたので大成功です。後は簡単で女神アリシア様に交渉してアカリ様の元へ転移してもらいました。経緯は以上ですね」
「「」」
行動力の化物かコイツ。
理解したくないけど経緯は理解した。
その上でちょっと一つ聞きたい。
「なんで交渉しただけで異世界を転移させてもらえてんの?え?どういう交渉したわけ?」
あの女神、個人への過度な干渉は禁止とか前に言ってなかった?
なに狂信姫を転移させてんだよおかしいだろ。
「色付きの色々な姿のアカリ様像のプレゼントを渡したのと、あのゴミ宗教国を滅ぼさない約束をしただけですよ?そうしたらすんなり許可してくれましたし言語理解のスキルまでくれました」
「あんの女神めッ」
何をあっさり許可してんだよ。
自分を一番崇めてる国を滅ぼされない為に許可したんだよな?
まさかだけど、娘の像を貰ったから許可したんじゃないだろうな?
「本当はアカリ様の偉大さを理解せずに邪悪な邪神呼ばわりする糞な上層部を潰して一新させたい所ですが、まぁ、別に時間はまだまだあるので地道にアカリ様の素晴らしさを布教して塗り替えれば良いだけですからね」
「手加減してあげてね?」
「え?何をです?」
「あ、うん。何でもないや」
「?」
宗教国家君、御愁傷様。
きっと、近いうちに無理矢理イメチェンする事になるかもだけど頑張ってね。
「ハァ~……ねえ、姫様、私って一応分類的には邪神だからね?向こうさんの反応もあながち間違いではないからね?」
「何を言ってるですかアカリ様?善悪なんて関係ないんですよ。全ては受け取る者次第。アカリ様が邪神だろうと私は確かに救われ、あの日、少年の家族も救われました。私達にとってアカリ様はれっきとした救いの神なんです」
「いや、うん、えっと…ありがと」
いきなり誉められたら反応に困るんだけど。
けど、なんというか、器が大きい。
流石は狂信姫と言うべきだろうか。
「いえいえ、私の考えを言っただけですので。ただ、駄目ですね。遅れてしまってアカリ様の活躍を見逃してしまいました。私もまだまだです。もっと、もっと早く気付いて動いてれば見逃す事はなかった筈なのにッ一生の不覚ですッ!」
「あ~うん。そっか」
ただ私の戦闘を見逃しただけなのに一生の不覚とまで言うか君。
でもね?悔やんでるけど、もし私の戦闘中に来てたら死んでたからね?
攻撃の余波や致死量の放射能で来世にGO!だよ?
むしろ命拾いして安堵するべき場面だからね?
「そういう訳なので、アカリ様!是非、私に活躍されたお話をお聞かせくださいませんか!お願いします!!」
グイっと迫り、キラッキラした目で私に懇願してくる狂信姫。
「あ~もう、わかったよ。話してもあげるから。だから顔を離して」
「本当ですか!良いんですか!ヤッターー!!」
両手を挙げてぴょんぴょん跳び跳ねて大喜びする狂信姫。
私は喜ぶ狂信姫を仕方ない子だなぁと思いながら小さく溜め息を吐き、いつまでも喜んでては話が出来ないので椅子に座らせ、時空間の権能で映像も流しながら狂信姫とおまけで残念お嬢様に日本神話をボコした話をするのだった。
※※※※※
あれから天皇一家+狂信姫+私の食事をし、狂信姫が私の布教をしようとしたのを何とか止めさせたり、残念お嬢様のおばさんがよく知らんけど脳の病気らしくちょちょいと治してあげたりとなんやかんや過ごし、天皇一家と別れて私は狂信姫を連れて皇居を後にしていた。
「で?姫様はこの後どうすんの?帰るなら私が転移で送ってあげるけど」
「送ってはもらいたいんですが、出来ればもう少しアカリ様と一緒に居たいのですが、駄目でしょうか?」
そんなナチュラルに弱々しく上目遣いでお願いされたら断れないのだが。
君、自分が見た目だけなら美少女なの理解してる?
「はぁ~良いよ。適当に街を案内してあげるから少し買い物でもしよっか」
「本当ですか!やった!とっても嬉しいです!あははぁ~アカリ様と買い物ですぅ」
街中でそんなヤベエ恍惚とした顔すんな。
「ほら、惚けてないで行くよ。それと、最初は服屋ね」
顔もそうだが、服を変えねば。
街中で教皇みたいな服は流石に目立つ。
「あ、待って下さいアカリ様~!」
そうして、私は4時位まで狂信姫と街で買い物をしたり買い食いしたりして過ごした後、狂信姫を異世界へと送り届けて家に帰った。
え?狂信姫との買い物についての話はそれだけなのって?
別に他には何回か芸能スカウト的なのに話し掛けられて狂信姫が逆に私の布教をしたり、何回か不良?半グレ?的なのに力ずくなナンパされたり野生の異能力者が襲ってきたりしたから軽く足の骨を砕いて路地裏に捨てたりした程度の特に面白味の無い話しかないよ。
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