第253話 出たーーーー!!?
なにもかもが消えた無の光景。
僅か数刻前までは美しい光景が広がっていたのに全てが消えてしまった高天ヶ原を見ながら月読命は表情を歪ませた。
わかっていた事である。
あの邪神に此方を思いやる心等微塵も無い。
あくまで、自分達を見逃してくれたのは先に敗けを認めて命乞いをしたからだ。
そうでなければ、最後に空間映像越しに私達へ告げた通り一切の容赦無く確実に殺されていた。
理解している。
わかっているのだ。
「こんなの、酷すぎる」
「なんで。アイツなら、こんな、こんな事しなくても勝てたんじゃないの」
「うっ、うぅぅ、お姉ちゃん、お姉ちゃんっ」
わかっているが、それでも辛い。
あの邪神はあくまで故郷である日本の家に帰ってきただけで、降り掛かる火の粉を払っているだけだ。
ただ、それだけなのだ。
此方が邪神だからと今までと変わらない対応をし、取り返しのつかない事態になってしまっただけ。
自業自得と言われても仕方ない。
それでも、辛いのだ。
「月読命様、本当にこれで良いのですか!」
「そうです!こんな、こんな高天ヶ原を焦土にされ、
須佐之男命様や建御雷之男神様達、何十人もの多くの神々が殺されたのですよ!!こんな事をされておいて本当に引き下がるのですか!」
「このまま終わっては、死んだ彼らが浮かばれません!!彼らの意思を継いで邪神を討つべきです!」
「黙れ!!」
『ッ!』
私の気持ちも知らずに好き勝手言いやがって。
「良いのですかだと?良い訳がないだろ!!我らの住む国が消えたのだぞ!姉が!弟が!仲間が喰われたんだぞ!!許せる訳がないだろうが!!」
許せる訳がない。
姉弟が喰われた。
仲間が喰われた。
共に仕事に励み、楽しく食事をし、酒を飲み交わした。
そんな、仲の良かった大切な者達が喰われたんだ。
「確かに私は弟達を見捨てる選択をした!皆を殆んど無理矢理納得させ、弟を!大切な仲間達を見捨てたんだ!罵ってくれようが殴ろうが構わない!だがな、お願いだから考えてくれ!理解してくれ!アレに!あの邪神に私達じゃどうやっても勝てないんだよ!!」
私を見る者達へ八つ当たりするように言葉を吐き出していく。
「見ただろ!弟達の全力をつまらなそうにあしらう邪神の姿を!ふざけた態度であの怪獣を召喚して高天ヶ原を一撃で破壊する姿を!!」
『っ』
思い出したんだろう。
私も知る怪獣を模した絶望という言葉を具現化したかの如き、かの人間が戦争という愚行を起こした際に日本へ落とした兵器の再来の様な最低最悪の一撃。
あんなものをマトモにくらえば間違いなく死ぬ。
眷属の放つ通常技で神である自分達が死にかねないのだ。
「なあ、わかるだろ。邪神でさえ全く勝てそうにないのに、眷属でさえあんな規格外な強さをしてるんだぞ。無理なんだよ。私達じゃ、無理だ。勝てないんだよ。どんなに怒ろうが、恨もうが、勝てないんだ!頼む!お願いだ。お願いだから、諦めてくれ!あの邪神と戦おうとしないでくれ。私はお前達に、死なれたくないんだ。お願いだ。頼むっ!」
頭を下げ懇願する。
力で従わせては駄目なのだ。
それでは意思を理解してもらえない。
理解してもらい、同じ思いを抱いてもらわねばならないのだ。
でないと、必ず誰かは「だとしても!」と邪神へ向かってしまう。
理解してもらわないとあけないのだ。
これ以上、誰も死なせないためにも。
「月読命様」
「俺達の事をそこまで」
「そう、だよな。あんなの無理だもんな」
「月読命様が勝てないんだもんな」
「でも、それでも、お姉ちゃんの仇を」
顔を上げ、私は木花之佐久夜毘売へ落ち着いて、されど力強く語りかける。
「木花咲耶姫。お姉さんの仇をうちたい気持ちは理解出来る。だが、先も言ったが敵討に出向いた所で死んで終わりだ。君のお姉さんは、君が死んでまで敵討をしてくれるのを望んでいると思うか?」
「うっ、そ、それは」
木花咲耶姫は、私の問いに言葉を詰まらせる。
木花咲耶姫と姉である石長比売は過去に若干の問題があった姉妹だが、時の流れの中で姉妹仲は修復されて仲良く話しているのを度々見た事がある。
仲の良い姉を喰い殺された怒りは相当だろう。
「君がお姉さんに邪神討伐の参加を止めるよう言ってたのは知っている。止められず今回の結果になり、お姉さんを止められなかった自分への怒りも大きいだろう。だが、だからこそ、ここで一度止まって冷静になってほしい。お願いだ、木花咲耶姫」
「う、うぅぅ"。ぐすッ、わ、わかり"、ま"しだ」
「本当に、申し訳ない。そして、決断してくれてありがとう。皆も、冷静な判断をしてくれてありがとう」
私はもう一度、大きく頭を下げて皆へと感謝を告げる。
もし、ここで皆が止まってくれず敵討に突撃していれば今目の前に広がる光景以上の地獄が作られていたに違いない。
誇張抜きにあの邪神なら軽く作り上げる力を持っている。
本当に、怒りを抑え込み冷静な判断をしてくれた皆には深く感謝する。
「そんな、月読命様、頭を上げて下さい!」
「そうです!むしろ俺達こそ謝るべきです!」
「私達こそ、落ち着かせてくださりありがとうございました。月読命様が諭してくれなければきっと無謀にも邪神に戦いを挑んで殺されてました」
逆に皆から感謝され、私はそれを素直に受け取りこれからの事を考える。
あまり考えたくはないが、これからやらなければならない事は非常に多い。
邪神に喰い殺された神々が担当していた神社仏閣での仕事や加護を授けていた一族等の対応や国外の神々と付属の人間の組織等の対応、国内の悪しき存在への対応、滅多にないが異界からの侵略者への対応等々。
自分よりも高位の神々はいるが、今回含めて普段から自分達の神域や好き勝手に過ごされてるので手伝いは期待出来ない。
「ハァ~……私が指揮するしかないか」
正直、面倒でしかないが頑張るしかない。
内心で邪神への恨み辛みを吐いて気分を晴らしながら私は仲間へと仕事を振り分けていくのだった。
※※※※※
ヤッホ~日本神話をぶちのめした美少女邪神アカリちゃんだよ~。
問題解決していざ皇居に転移したは良いんだけど、いや~困った。
「このクソ女!陛下達を解放しやがれ!!」
「クソっ!なによこの結界、全然壊せない!」
「んの野郎!呑気に紅茶飲みやがって!!」
「この女、一体どれだけの異能をもってんのよ!」
「お前らどけ!ありったけの力をぶつける!!」
すっかり忘れてたけど、天皇一家もろとも私って拉致られたから普通に大問題になんだよね。
天皇一家はいまだに気絶してるし、転移で戻ってきた途端に私が誘拐犯扱いでいっせい攻撃されちゃったよ。
酷いよねぇ、どちらかというと私は無理矢理神降ろしで肉体を奪ってた神々から解放してあげた救世主側なのにさぁ。
しかも、わざわざ私が浴びた膨大な放射能で部屋や身体を汚染されない様に浄化までしたし、神降ろしでガタがきてた天皇一家の身体を治してあげたし、無理矢理気絶から目覚めさせずに一人寂しく紅茶を飲んで待ってあげてるってのに。
「ハァ~……うっさいなぁ」
慈悲深い私でも濡れ衣で騒がれるのはムカつくしいい加減ウザったい。
それに、この私が気遣ってあげてるというのに少し調子に乗り過ぎではないだろうか?
「少し黙れ」
ありがたく思うがいい。
殺しはしない。
けど、少し勉強として己の立場を理解しろ。
『』
厄災の魔王をONにし、オート威圧により気絶させる。
あくまで称号効果の威圧であり、私の神威よりは弱い威圧ではあるが、こいつら程度の実力者ならこの通り十分に効果はある。
「やっと静かになった」
まぁ、別に気絶させずとも私の力で何があったのか情報として理解させる方法もあったが、あれだけ興奮してた奴等じゃ情報を脳に送っても信じてはくれなかっただろう。
だから、一々相手してやるのも面倒だしうるさいので無理矢理黙らせる。
これでもし起きたとしても私への恐怖で多少は大人しくはなるはず。
まぁ、一瞬で気絶したから私へ恐怖したと理解してるかは微妙な所だが。
「そんじゃあ、静かなうちに確認しよっかなぁ」
神々を喰らったのでおそらく、いや、確実にステータスが変化してる。
と言うか、肉体の感覚からして若干変化を感じる。
どれだけ変化をしてるか知らんが、早速確かめるとしよう。
私の目の前にステータス画面が表示される。
「うわぁ」
────
名前:アカリ
種族:吸血姫・邪神
状態:通常
神格:15/300
神力:166550/167800
LV:47
HP:251647/251647
MP:251785/251785
筋力:250585
耐久:235613
敏捷:250690
魔法:250615
─権能─
【創造】【因果律支配】【時空間】【太陽】【海】【天空】【大地】【剣】【森】【鍛治】【舞】【力】【混沌】【妙覚】
─魔法─
【原始魔法LvMax】
─技能─
【収納】【言語理解】【神血】【眷属化LvMax】【神速再生Lv7】【霧化】【神威】【猛毒生成LvMax】【空力LvMax】【人化】【体術LvMax】【剣術LvMax】【豪腕LvMax】【爪術LvMax】【翼術LvMax】【鬼闘術LvMax】【料理LvMax】
─耐性─
なし
─補助─
【魔力制御LvMax】【MP回復促進LvMax】
─生産─
【万能生成LvMax】
─称号─
【女神アリシアの加護】【女神アリシアのお詫び】【Aランク冒険者】【白銀の戦姫】【女神アリシアの愛娘】【歪なる者】【破壊者】【厄災の魔王】【到達者】【アカリ教の邪神】【森羅万象の天敵】【神を喰らう者】【神殺し】【太陽神】【海神】【天空神】【大地の神】【剣の神】
────
なんか、もう訳がわからなくなってきた。
「あんだけ喰らったんだから仕方ないけど、権能多くね?」
神々を二十体近く喰らっただけあり神格の上昇と権能の数が多い。
あ、いや、逆に二十体喰らった割にはそこまでか?
「神格はレベル同様に上がるに応じて上昇しずらいだろうから兎も角。1、2、3………あ、やっぱり、増えてはいるけど、喰らった割にはあんまり権能は増えてないっぽい」
何故だろうと少し考え、直ぐになんとなくの理由を察した。
「もしかして、統合されたのかな?」
多分、被りの権能や系統が近い権能は統合強化や進化したんだと思う。
因果律操作が操作から支配に強化されてるのがそう。
恐らくだが、天空や大地、海といった名前からして上位っぽい権能辺りに下位互換らしき権能が統合されたのだと思う。
じゃないと、建御雷之男神の雷の権能やその他の岩や風、火、光とかの攻撃で使われてと思われる権能が表示されてないのがおかしい。
「まぁ、無駄に多いより統合されて強くなるのは方が良いか。と言うか、混沌化と正覚、ちゃっかり権能に進化してるんだけど」
君達、元々権能並みに強かったのに権能になったら能力ヤバいんじゃないの?
大丈夫?もて余したりしないよね?
ちょっと使うのが怖いんだけど…………うわぁ、案の定、超絶強化されてる。
「ん、ぅぅん。こ、ここは」
超絶強化されてた混沌と妙覚に引いてたら、横から私のものではない声が聞こえた。
「お?ようやくお目覚めか?」
ステータス画面から声の主……天皇へ顔を向ければ、転がしてた足元の床からゆっくりと上体を起こすのが見え、寝起きでボヤける視界が定まり、脳も起きたのか周りの状況と私を見て一瞬で表情を一変させた。
「な!?ど、どうなって、ッ!?舞子!桃子!大丈夫か!おい、起きろ!起きてくれ!!」
倒れる護衛の者達、そして、隣で倒れる妻と娘に血の気が引き、青ざめた表情で天皇が妻と娘を起こそうと肩を揺すり声を掛ける。
その様子を私は呑気に紅茶を飲み、お茶菓子にクッキーを創造して食べながら横目に眺める。
「ぅう……え、あ、あなた?」
「んぅ……お、お父、様?それに、お母様?」
「舞子!桃子!良かった。本当に、良かったッ」
うん。やっと目覚めたみたいだね。
これでようやく次に移れるよ。
「感動のシーンを壊して悪いけどさ。話に移っても良い?」
まるで感動の再会か長らく目覚めなかった家族が目を覚ましたみたいなシーンを繰り広げている天皇一家へ私も気だるげに声を掛ける。
「ッ!」
「ぁ」
「お姉様」
そんな私へ、天皇は妻と娘を庇う様に二人を背に隠して私を警戒の表情で見つめ、奥さんと残念お嬢様が恐怖と悲しみが混ざった様な表情で私を見つめる。
まぁ、普通ならその反応で正しいが今回は理由が理由なので殺すつもりはない。
なので、私は紅茶を一口飲み、右手をプラプラと振って天皇一家に告げた。
「そう警戒しなくて良いよ。既にあんな事になってた理由は知ってる」
「!?し、知ってるのですか」
「うん。知ってる。あんたが神降ろしを容認しないと代わりに桃子の身体を使うと脅された。で、奥さんも神降ろしされた旦那さんと桃子を人質に神降ろしを強制。桃子は神降ろしされた両親を身体を人質にされて私を呪殺の短刀で刺す事を命じられた。そうでしょ?」
正覚で確認した感じ、こんな感じで無理矢理操られたり協力させられてたっぽいけどあってるだろうか?
「……はい。その通りです」
「本当に、本当にすみませんでした」
「お姉様。ごめんなさい。本当にごめんなさいッ」
どうやらあってたっぽいね。
三人共泣きそうな表情で床に額を擦りつける様に土下座して私に謝ってきた。
「別にいいよ謝らなくても。業腹たけど、私が天照をブッ殺したのが全ての原因だし。だから、一応私こそ巻き込んで悪かったね」
本当、マジで、本気で私は悪くないが、巻き込んでしまったのは事実なので形だけだが謝罪した。
なんで被害者の私が謝るんだろうなぁ。
「と言う訳で、ハイ!これで今回の騒動は終了!いいね!」
「「「え?」」」
「い・い・ね?」
長引くと面倒なんだよ。
ほら、さっさと「はい」って返事しろ。
そう、目に感情を込めて天皇一家に微笑みかける。
「「「は、はい」」」
「よろしい♪」
これにて一件落着。
日本神話編、完だ。
「んじゃ、今日はこれで終わりで良いかな?元々は桃子を助けたお礼で呼ばれたけど、こんな事になったし」
肉体は兎も角、精神的に疲れたからこのまま帰ってヒスイとゲームして癒されたい。
だからほら、頷いてくれ。
「いえ大丈夫です。このままおもてなしさせて下さい。桃子の件を含めてお礼には足りませんが、是非とも昼食を食べていって下さいませ。舞子、アカリ様の分の昼食を用意するように料理長に伝えてきてくれ」
「わかったわ」
「桃子、私は倒れてる護衛の者達を運ぶからアカリ様の相手をお願いするよ」
「え」
そう言って天皇と奥さんの二人は残念お嬢様を残して部屋から出ていった。
うん。逃げたな。
「え、あ、ぁ、え、えぅ」
残された残念お嬢様は緊張、混乱のあまり舌が回らずあたふたして言葉が話せていない。
「ほらほら、慌てなくていいから。ゆっくり深呼吸しな」
アワアワする残念お嬢様に私は苦笑いしながら背中を擦り、落ち着く様に優しく話し掛ける。
「殺さないって言ったでしょ?だから、そんな気にしなくていいから」
「で、でも」
「いいの。別に私は怪我も無ければ死んでもないし、桃子は私の信者でもないんだからさ。わかった?」
「うっ、は、はい。わかりました」
「よろしい」
物わかりが良くて助かるよ。
「」
「」
「」
「」
「あ、あの、お姉様」
「ん?なに?」
「え、えと、その………」
「ん?」
いや、どしたん?
…………あぁ、なるほど、無言がキツくて会話したいと。
「あ、そうだ。あ、あの、さっき信者って言われましたけど、お姉様には信者が居られるんですか?」
「うん。これでも一応は神だから居るよ」
「どんな方々なんですか?」
「ん~~……なんと言うか、ちょっと、いや、かなり特殊?」
「特殊?」
「うん。特殊。ちょっと信心深いっていうか、なんというか。中でも特に狂し、エリアナって名前の子が信心深いんだよね」
「エヘ、エヘヘ、そんな信心深いだなんて。アカリ様にお褒め頂けて私嬉しいです❤️」
「「…………ん?」」
「エヘ、エヘヘ❤️」
……………………。
「キャアアアアアアアーーーーー!!!!」
「ギャアアアアアーーーーーーー!!!!出たーーーーーー!!!!???」
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