第251話 虚空世界
う~~ん……あんまり蹂躙してないや( ´・ω・)
~~~~~~~
「なんだよこれ!?」
「何も見えねえ!」
「ちょっと!押さないでよ!」
「何が起きやがった!!」
「どうなってんだ!」
異常事態に仲間達が騒ぎだす。
無理もない。
俺だって内心では同じ心境だ。
それら、全てが黒かった。
この目に映る全てが闇そのものに飲み込まれたかの様に黒い。
荘厳で自分達神々が住まうに相応しい高天ヶ原の姿は見る影もない。
まるで奈落へと落ちたのではと錯覚する様な、かつて死闘の果てに討ち取った八岐大蛇に丸呑みされそうになった死の恐怖を感じさせる。
もはや、確信していた勝利の余裕は無い。
あるのは、決して認めたくない死の予感と危機感。
「落ち着けお前ら!」
仲間へ一喝する。
俺だって落ち着けている訳ではないが、武を司る神としての勘が冷静にならなければ死ぬと告げるのだ。
「そうだ!冷静になれ!!」
流石は同じく武を司る神である建御雷之男神なだけあり、俺に続いて仲間へ冷静になるよう一喝する。
一度戦闘しただけあり、その声には俺以上の気迫と緊張感が含まれている。
「ヒィ!」
「おい、なんなんだよあれ!」
「な、なんだ、ありゃ」
しかし、仲間達が落ち着く事はなかった。
闇の世界に光が射し込む。
靄の様な、波紋の様に揺れる薄く弱々しく、血の様に赤く、猛毒の様に紫に輝く見ているだけで精神を削られる光。
まるで、世界の負の側面を具現化させたかの如き悪夢、狂気の世界。
「なんなんだよあれ!勝てるんじゃなかったのかよ!!」
「なによあれ。なんなのよあれはっ」
闇の世界を照らす、天上に顕現した漆黒の太陽。
その名を虚空の太陽。
この世全てを平等に無に帰す破滅の力。
「無理よ……こんなの、絶対勝てない」
「なんでこんな。どうしろってんだ」
「無理だ。勝てるわけがない」
強大過ぎるその力を痛過ぎる程に感じ、神々は己が敵対した存在の恐ろしさ、己がした選択の愚かさをようやく理解し嘆き絶望した。
「慌てるな!落ち着け!」
「そうだ!冷静に対処すればまだ何とかなる!!」
しかし、建御雷之男神と須佐之男命だけは諦める事はなかった。
まだ勝利の可能性はあると信じているからだ。
転移した際、邪神の心臓には短刀が突き刺さっていた。
今もぼんやりと見えるが、間違いなく短刀──仲間である呪いを司る神の権能の力を宿した短刀が胸に刺さったまま。
短刀の効果は、対象が短刀で切った傷口から権能による強力な呪により高速で肉体を腐らせ、精神を汚染する。
この呪いは死ぬまで続き、仮に再生力や治癒力が高い化物や神だろうが呪いそのものを解呪か死なない限り絶対に呪いは解けない。
つまり、だ。
あの邪神は既に心臓とその周辺は腐敗し、精神が汚染されているのだ。
この世界もなけなしの力を振り絞った結果であり、長続きはしない筈。
いまだに死の恐怖と命の危機感は感じるが、勝つ事は出来る。
諦めるには早いのだ。
────否、である。
須佐之男命と建御雷之男神は諦めが悪過ぎた。
潔く諦め、土下座し、許しを請い、大きな代償を払ってでもここで止めるべきだったのだ。
「それじゃ、遊ぼっか」
アカリによる蹂躙が始まる。
※※※※※
実の所、格好つけて「深淵顕現、虚空世界」なんて言ったけど、この技はまだ未完成だったりするし、私はあまり好きじゃない。
この虚空世界だけど、反転した太陽を核としてその他の権能もフル活用した領域……一種の私の神域みたいなものだったりする。
そして、この虚空世界の効果だが───
「なんだ、ありゃ」
「黒い……雨?」
「一体何が…………ッ!?ああア"ア"ァ"ァ"ーーーーーッ!!!!!」
「いぎゃあああ!!顔が、私の顔g」
「気を付けろ!!この黒い雨に当た「余所見は駄目だよ?」なッ!?ガハッ"!!」
「ごがッ!?」
「ゴハッ"!!」
私の普通の蹴りをくらった名も知らぬ神三体が骨と内臓を破壊され、血反吐を吐きながら虚空世界を吹き飛んでいき、降り注ぐ黒い雨……虚空の光球を全身に浴びて消滅する。
とまぁ、こんな感じで虚空世界では私の身体能力向上・太陽の権能の効果が宿る虚空の光球を降らせて触れた対象の消滅みたいな効果があったりする。
「勿体無いなぁ」
この虚空世界は肉体だけでなく、内の神格まで消滅可能だったりする。
そのせいで今、魂の様に肉体というプロテクトから露出した神格が回収する暇も無く虚空の光球によって一瞬で消滅した。
本当、この無差別な消滅があるから虚空世界は好きじゃないのだ。
未完成と言った様に私が太陽の権能を使いこなせば私の望む対象だけを消滅可能になるかもだけど、今はまだ意識して気を付けておかないと全て消滅してしまう。
マジでめんどくさい。
「この野郎!」
「あの時のお返しだ!!」
須佐之男命が海を凝縮した海剣。
建御雷之男神が雷を凝縮した雷剣。
双方ともに振るえば天災に匹敵する攻撃力を誇る破壊の剣がアカリへと振り下ろされ、破滅的な津波と轟雷がアカリを飲み込む。
「私を殺すんでしょ?もうちょい頑張れない?」
しかし、アカリを殺すには届かない。
制服が消滅しちゃったので、ゴミ達に見られる前に邪神形態になり神具のドレスへと着替える。
これ、なんか自動修復効果があるから壊れても直るから便利なんだよねぇ。
それよりも、とりあえず須佐之男命の髪の毛を鷲掴み、建御雷之男神目掛けて投げ飛ばしてまとめてぶっ飛ばす。
汚ぇと須佐之男命を掴んだ右手を魔法で水を出して洗いながらトコトコと歩く。
すると、後ろから投げ飛ばした須佐之男命の声が聞こえた。
「権能だ!権能で常に肉体を守れ!でないと消滅するぞ!!」
あれま、もう弱点に気付かれてしまったみたいだ。
後ろに目を向ければ、声をあげた須佐之男命が身体を水で覆って虚空の光球を防いでいるのが見える。
実に素晴らしい、大正解だ。
この虚空世界の虚空の光球だが、触れた対象を消滅させると共に消える。
なので、この様に常に肉体を何かで覆えば消滅せずにすむ。
「もう嫌あーーーーー!!」
「やってられるかクソが!!」
「死にたくねえ!まだ死にたくねえ!!」
「降りる。私はもう降りるから!!」
まぁ、対処法を知ったからと虚空世界……私に対する恐怖が消える訳じゃない。
私の前だというのに無様に泣きわめきながら神々が背を向け逃げ出す。
「おい待て!!」
「お前達何処に行く!!」
須佐之男命と建御雷之男神が逃げ出そうとする神々を呼び止めようとする。
「え」
「は?」
「なんで」
「どうなって」
直後、逃げ出そうとした神々の動きがピタリと止まる。
須佐之男命と建御雷之男神の声に止まった訳ではない。
「転移、出来ない」
転移出来ないからだ。
この虚空世界から逃げれなかったからだ。
なんで逃げれるなんて思ったのか疑問でしかない。
私が逃がすわけないのに。
「あ、あぁぁ」
「クソっ!どうなってんだよ!」
「どうして、なんで」
「なんで転移出来ないんだよっ」
神々の顔が更なる絶望に染まる。
その様子をトコトコと歩きながらつまらなそうに横目に眺め、私は地面に転がしてる側だけ天皇一家の神々の前にしゃがみこむ。
あ、コイツらは虚空世界を顕現させた時にとっくに正覚、神血、時空間の力で無力化させてるし虚空世界の影響を受けない様にしてる。
ついでに、少し遠くだが、他のもね。
まぁ、正直向こうは神だし守りが要るのか微妙だが、こっちは肉体は人間の天皇一家だし、訳ありで私と敵対したみたいだからね。
ぶっちゃけ向こうも天皇一家も死のうがどうでも良かったりするが、私は優しい女神様だからね。
特別に今回は殺さないであげる事にした。
いや~~私ってやっさしい~。
「でさ、今から殺すけど遺言ある?」
私を睨む中身ゴミ神の三人へ遺言があるかどうか確認する。
「な、なんで、動けるんだよ」
はて、動けるとは?
………………あ、なるほど。
「これの事か」
思考を読んで意味を理解した私は心臓に刺さっていた短刀を取り出す。
どうでもよくて気にしてなかったけど、これが奥の手だったとは驚きだ。
いや、確かに私に刺した時に「勝てる!」とか囀ずってたがマジで奥の手とか思わないって。
「呪いねぇ」
横からドバァン!!ズガアァン!!と結界に衝突する爆発の如き津波と轟雷を無視しながら短刀を観察する。
「クソが!なんつう硬さしてんだよこの結界!」
「泣き言言ってる場合か!今が最後のチャンスなんだぞ!」
ふむふむ、刺した相手を短刀に宿る呪いで肉体を腐らせ、精神を汚染する効果か。
どうりで心臓付近の肉や骨、左腕が腐り落ちるし精神が不愉快なわけだよ。
「言われずともわかってんだよ!おいテメエら!!」
『っ!』
確かに、権能による常時状態異常ならスキルの神速再生を上回って私へダメージを与えられる。
現に私の肉体は再生せずに腐り続けている。
「いつまでくよくよしてやがる!座ってねえで立ち上がれ!最大火力で放つ!合わせろ!!建御雷之男神!いくぞ!!」
「おう!!」
「「はああ!!」」
うるさい。
解析中なのに騒音を撒き散らさないでほしい。
迫る津波、轟雷、炎、竜巻、岩、閃光のごちゃまぜへとスッと横に人差し指を伸ばし、虚空の太陽を放ち全て消滅させる。
「は?」
これで静かになった。
ふむ、権能とはいえあくまで効果の決まった呪いにすぎないから途中で効果が変わって即死級の呪いになりはしないと。
「ま、こんなもんか」
左胸に右手を添える。
直後、右手から赤黒い光が発し、ジワジワと首に迫っていた腐敗が止まり、動画の逆再生の様に肉体が再生していく。
「なっ!?」
「おい、待て、今、なにを」
「何で、何で私の呪いが消えてるんだ!」
コイツら何言ってるのやら。
そこで呆然と間抜け面で私を見ている海野郎や雷男達もそうだ。
なんでこの程度の呪い如きで私に勝ち筋があると思えたのか不思議で仕方ない。
「なんでって、そんなん私が呪いを消滅させたからに決まってるじゃん?」
わたしゃあ、仮にも反転した太陽の権能の持ち主だぞ?
使いこなせてない未熟者ではあるが、抵抗しない呪い如き消滅させるのは簡単だ。
「ふざけるな。ふざけるな!!権能だぞ!!私が宿した呪いの権能なんだぞ!!神だって殺せる最強の呪いなんだぞ!それをどうして消滅させられるって言うんだ!!」
「雑魚い権能だからでしょ。てなわけで死ね」
側残念お嬢様のゴミの額をちょんと人差し指で触れ、太陽の権能を発動する。
「がッ、があアア"ァァ"あ"!!!」
正覚で残念お嬢様の内側に居座るゴミを私は認識しているから太陽の権能を完璧に使いこなせてなくても狙って消滅させるのは造作もない。
ちょんと触って5秒と掛からずお掃除完了だ。
ガクンっと気絶した残念お嬢様をコロコロ転がして隅に置く。
「やだ、来るな!来るなーーー!!!」
「やめろ。死にたくない!死にたくない!!うわああアア"ぁ"ぁ"ぁ"ァ"ァ"!!!」
続けてちゃちゃっとお掃除してキレイキレイ。
同じくコロコロ転がして残念お嬢様の隣に置き、この間も無駄と理解出来ないのか私が展開する多重結界に攻撃を続ける海野郎と雷男へ声を掛ける。
「ほら、頑張れ頑張れ!もう少しで破れるぞ~。あ、結界50枚追加ね」
応援しながら私は海野郎と雷男によって破壊されている結界を追加してあげる。
「っんの、クソッタレがあ!!!」
「ふざけるなよこの邪神があ!!」
「頑張れ頑張れか~みさま~」
フリフリと創造で創ったポンポンを両手に持ち、ニッコリ笑顔で応援する。
「「マジで死ねや糞邪神があ!!」」
私の応援が効いたのだろう。
海野郎と雷男の空間すら歪ませる渾身の一撃により、私の展開した結果が破砕音を響かせながら破壊された。
うむ、実に見事という他ない。
「わーすごーい。じゃ、やり直しね?」
「「ガッハァ"!!」」
まぁ、私が両翼で殴り飛ばせば頑張りも無意味になるけど。
というか、海野郎と雷男以外の神々が全然張り切って殺しに来ないんだけど。
折角、私が誘いに乗ってあげるだけでなく、特別な舞台まで作ってあげたというのに。
「しゃあない。ちょっと盛り上げるか」
このまま殲滅してあげても良いが、少し勿体無い。
この私が盛大に盛り上げてあげようではないか!
「さあ!第二ステージの始まりだ!」
自分で言っておいてなんだが、第一ステージってあったのだろうか?
まぁ、別に気にする程の事でもないし気にせず続けるとしよう。
天皇一家を時空間の権能で保護しながら私は空中に浮かび上がるとパシーーン!と拍手一つ叩き、スキルと権能を発動。
瞬間、虚空世界が真っ赤に点滅しながら天上や空中、地面の至る所に☢️や☣️の模様が現れ眩しい程に赤黒く光輝き、ブー!ブー!ブー!と警報音の様な音が鳴り響く。
特に意味は無い。
ただの演出である。
「ひぃ!」
「次はなんだ!」
「今度はなんなのよ"!!」
「もう嫌、いや"ーー!!!」
「やめてくれ。俺達が悪かったから"もう"やめて!!」
「ごめん"なさい"!お願いじまず!もう"許しでください"!!」
絶望し戦意が砕け散り、涙を流しながら震えてアカリへ謝ってくる神々。
だが、そんな謝罪など無駄。
アカリはピクリとも反応する事はなくサクッと無視して続ける。
「来い!」
私の背後に横五百m高さ一kmはある黒灰色のオーロラの様な壁が出現。
直後、オーロラの壁の向こうから弦楽器を歪に鳴らした様な低く甲高い生物のものとは思えない鳴き声が聞こえてきた。
「デーモン・コア!!」
地鳴りの如き足音を響かせながら、私の自慢のソレが虚空世界へと姿を現した。
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